単純承認
主人が亡くなったときの私が選択した相続方法である。
市に一人しか弁護士がいないほどの田舎町。
ファイナンシャルプランナーの資格を持っていたのにもかかわらず、また、人の相続に助言をしていたにもかかわらず、私が選択した方法である。
これがいいか悪いかは、いまだにわからない。
限定承認すれば、借金はなくなったかもしれない。
しかし、義母と私たちの住む家が無くなってしまう。
相続放棄をすれば、親族の誰かに借金が行ってしまう。
そんなことはできない。
結局私がすべての相続を背負うことにした。
個人事業主だった主人は、自分が死んでしまうことなど考えていなかったようだ。
突然の死に誰もが自殺だと思ったくらいだ。
主人は、新しい仕事に向けて、市から融資を受けた。
その一か月後に、死んだ。
銀行の言いなりになり、すべてを引き受けた私。
後悔はしていない。
途中の癌発覚には、心が折れそうになったが、子供たちに迷惑はかけられない。
幸いにも、がんは克服した。いい休みを取ったようなものだ。
主人の実家には帰れない。
田舎のため、仕事がないからだ。
仕事がないと借金は返せない。
主人が死んだときは、子供たちは、社会人一人に大学生2人、高校生一人だった。
死亡保険金なんてないも同然。保険嫌いの主人だった。
寡婦年金も出なかった。
かろうじて18歳未満の子供が一人いたので、月10万円の年金が出た。
震える毎日を、過ごしていた。
そんな時、一人暮らしの実の母の認知症が重症になった。
9年前のことである。いろいろ考え、働きながら、母の面倒を見ることにした。
簡単なことではなかった。
今は、大学生2人も卒業し、高校生も大学に行け、もうとっくに卒業した。
仕事にも恵まれ、私は、借金を順調に返している。
ここにいることは戦っているのではない。
自分の使命を果たしているのだ。
そして、幸せを感じている。
単純承認は、間違っていなかったと思っている。
ただ、相続の際には、専門家に相談することをお勧めする。
私の場合、誰に相談したらよいかわからなかった。
もっとよい方法があったのかもしれない。
私の選択はこの方法しかなかった。
単純承認。だ。