投資家の目線

投資家の目線702(「ドル防衛と日米関係」とF35)

 高橋和宏著「ドル防衛と日米関係 高度成長期日本の経済外交 1959~1969年」(叢書 21世紀の国際環境と日本007 千倉書房)では、高度成長期の日本等同盟国の国際収支の改善、米国の国際収支の悪化に伴い、米国の国際収支の安定化およびドル防衛のため、日本等同盟国に負担分担を求めていく経緯が書かれている。

 1950年代、初めに米国が日本に求めたのは貿易自由化だった。その頃は米国製品が日本製品より圧倒的に競争力があったのだ。その後日本に対して、ドル流出を制限するための利子平衡税創設、ベトナム戦争の財政負担に悩むジョンソン政権下で本格化した同盟国に米国製装備品を購入させることで軍事部門の収支均衡を図る軍事オフセット、共産化を防ぐためのアジアへの経済援助、米国債券の購入という資本収支問題に進展していく。

 イージス・アショアやF35戦闘機の追加購入は軍事オフセットの一環と考えられる。日系企業の現地生産拡大は資本収支の問題につながる。米国の国際収支の安定化に協力することは、日本にとっても利益がある。1971年のニクソン・ショックや、1985年のプラザ合意による米ドルの急激な下落はドル防衛の失敗ともいえ、日本経済はその副作用に翻弄された。

 とはいえ、米国から購入する兵器は日本の防衛にとって本当に必要なものかよく考えて欲しいものだ。対米収支均衡のためにお付き合いでそれほど必要でない兵器を購入し、その辻褄合わせのために新たに税金が投入されるのは勘弁願いたい。護衛艦「いずも」を改修してF35を搭載できるようにするという。航空母艦の保有は海上自衛隊の悲願と言われるが(うろ覚えだが、大賀良平元海上幕僚長の著書「シーレーンの秘密」に書いてあったと思う、艦名は「いずも」ではなく「やまと」だが)、少子化の日本でどれだけの数のパイロットを育成できるのだろう?「空母」を就役させても、パイロットがいなければ役には立たない。

 2017年の米国の対日貿易赤字は697億米ドル(国別では第3位:「2017年の貿易赤字は4年連続で前年比増(米国)」 2018年5月16日 JETRO)で、軍事オフセットだけではとても足りない。「日米の物品貿易協定(TAG)の交渉開始時期が、2019年1月から先送りになるとの見方が日本政府内で浮上している」(「TAG交渉、先送り観測、米は対中90日協議優先、日本にプラスか、楽観と悲観交錯。」 2018/12/13 日本経済新聞 朝刊)という。TAG交渉は、もともとは今年4月の訪米時に安倍首相からトランプ大統領に提案したものだ。日本は先送りしていいのか?昨年2月には日米経済対話や対米インフラ投資を提案しているが、安倍首相は自ら提案しながらその後はロクに行動していない。マスメディアは「シンゾー・ドナルド関係」を良好ともてはやすが、口先だけで行動が伴わない安倍首相と、周囲と軋轢を起こしながらも有言実行のトランプ大統領が、本当に良好な関係にあるのか甚だ疑問である。

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