台湾は日清戦争の結果日本の植民地となったが、第2次大戦時の日本の敗戦で中国に戻された。国務次官補、国務次官、国務長官を歴任したディーン・アチソンの回顧録には、日本の領土問題について次のような記述がある。「領土問題は、占領取り決めに先立って、カイロ、ヤルタ、そしてポツダムで暫定的に決められていた―どちらの(極東および対日)委員会もこれを論議する権限をもたなかった。これらの取り決めで日本は、四つの主要島嶼と今後決定せらるべき小島嶼に局限された。中国は満州、台湾、そして澎湖島をとり戻した―朝鮮は自由を回復して独立することになった―ソヴィエト連邦は千島列島と南樺太とを占領した。」(「アチソン回顧録 2」 ディーン・アチソン著 吉沢清次郎訳 恒文社 p79)。「日本側が、台湾、千島列島、そして南サハリンに対する主権を誰に引き渡すかについての合意不能は、引き受け手をきめず、単に日本主権の放棄を規定することによって解決した。」(「アチソン回顧録 2」 ディーン・アチソン著 吉沢清次郎訳 恒文社 p209)
米国の「ひとつの中国」の原則はトルーマン政権時代から続いている。「一月五日、大統領は議会での一般教書を行なった翌日、四節からなる発表をしたが、そのうちで、合衆国政府は台湾を何らの条件なしに中国領土なりとみなすことを宣言した後に、次のとおりに続けた―。合衆国は台湾その他いかなる中国領土に対しても貪婪なたくらみをもつものではない。合衆国はこの時点において特別の権利あるいは特典を獲得したり、台湾に軍事基地を設けるがごとき願望をもつものではない。また現事態に介入するために軍事力を使用する意図を有するものでもない。合衆国政府は中国における内戦への介入に至るがごとき道程を追及するつもりはない。」(「アチソン回顧録 1」 ディーン・アチソン著 吉沢清次郎訳 恒文社 p424)。
日本では、故李登輝氏の評価が高い。しかし、『台湾において、李氏に対する評価は立場によって異なっており、熱狂的な支持者がいる一方で、「黒金政客」(暴力団や金権に頼った政治屋)」「台湾独立に加担した逆賊」などと批判する者も珍しくない。』(「李登輝死去報道が映し出す日台中の温度差」 本田善彦2020/8/28 週刊金曜日 1293号)という。台湾独立は米国の台湾は中国領土という原則に反している。また、暴力団とつながるような人物を支援しようとするもの好きは日本ぐらいなので、日本寄りの発言をするだけだったのかもしれない。台湾マフィアは日本に覚せい剤を密輸する(「【衝撃事件の核心】日本に浸食する「チャイニーズ覚醒剤」…背後で蠢く中国・台湾・日本の麻薬コネクション 逮捕された裏社会の有名人」 2017/3/24 産経新聞sankei.com)。マフィアとつながるような人物を高評価してどうする?
デカルト・データマインによれば、昨年通年で、アジア10か国・地域発米国向け海上コンテナの輸送量で最大の国は中国で12,440,933TEU(シェア60.7%、前年比21.6%増)、台湾は4位で1,076,760TEU(シェア5.2%、前年比14.4%増)、ちなみに日本は9位で409,517TEU(シェア2.0%、前年比2.3%減)であった(「海上コンテナ輸送量/アジア発米国向けが通年2000万TEU越え」 2022/1/11 物流ニュースのLNEWS)。今年1月のデータは、1位中国で1,091,279TEU(シェア61.6%、前年比10.7%増)、4位台湾75,564TEU(シェア4.3%、前年比3.6%減)、10位日本36,880TEU(シェア2.1%、前年比3.3%減)(「海上コンテナ輸送量/アジア発米国向けが19か月連続プラス」 2022/2/14 物流ニュースのLNEWS)。経済安保で中国ハイテク企業の輸出規制を強めたなどと言われるが、実際には中国から米国への海上コンテナ輸送は増えている。昨年4月、アーミテージ氏ら米国の安保関係者が台北を訪問したのと同時期に、米国の経済ミッションは北京を訪れている。純粋にカネ儲けを考えれば台北より北京を選ぶのは当然だろう。台湾に最新兵器を売れれば、米国の軍需産業も儲かる。
しかし台湾の軍事力は心許ない。一昨年には、米国製最新兵器の導入は進んでも補給体制は旧態依然で修理部品が不足し、保有する戦車の半分はまともに動かず、実戦で使用できる武器はもっと少ないだろうと報じられた(「中国軍の侵攻で台湾軍は崩壊する──見せ鰍ッの強硬姿勢と内部腐敗の実態」 メ[ル・ホアン 2020/9/25 Newsweek日本版)。初期生産車が朝鮮戦争に投入されたM41軽戦車(ウォーカー・ブルドッグ)の改良型は先日退役したばかりである(「陸軍の重要な戦力として活躍 M41A3軽戦車が退役/台湾」 2022/2/25 中央社フォーカス台湾)。
安倍元首相は、台湾有事を煽っているように見える。かつては日台連合王国などという構想もあったようだが、今の日本には台湾を支えるほどの経済力もない。核兵器保有を目指すと、ロシアの安全を脅かすような声明を出していたウクライナ(「核保有を目指すウクライナ、諸外国の協力で容易に実現可能=露大統領 2022/2/22 sputnik日本)は、大国ロシアの虎の尾を踏み自滅した。台湾はウクライナ同様、故ズビグニュー・ブレジンスキーの著書「Strategic Vision」(2012年)にアメリカの衰退(America’s decline)で最も危険な地域の一つとして挙げられていた。
アチソン回顧録には次の記述もある。「この誤解は、日本の軍国政府がアジアで何を目論んでいるかについてではなく、われわれの禁輸が挑発したであろう敵対意識についてではなくて、東條大将が彼の目的を達成するためにあえて冒すであろう信じられないほど高度の危険についてであった。ワシントンにおける何びともが、彼および彼の体制が、アジアの征服を、ある野望の達成とみず、一体制の生死のかかるところとみたことを、悟らなかった。それは彼らにとって死生をかけた問題であった。彼らは、彼らが敵性大国―合衆国、ソヴィエト連邦、そしておそらく帰死回生を遂げた中国―に囲繞された日本の危なかしい地位のうちに生き続けることを絶対に肯じなかった。」(「アチソン回顧録 1」 ディーン・アチソン著 吉沢清次郎訳 恒文社 p58)。実力不足のうえに、堪え性も無いようでは、日本は第2次大戦時以上の敗戦を繰り返すだけだろう。
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