石破首相がアジア版NATOを唱えている。「核共有」にも言及している(「[社説]石破茂首相は政権運営の重み踏まえた発言を」 2024/10/3 日本経済新聞電子版)。「模索するNATO 米欧同盟の実像 叢書 21世紀の国際環境と日本 010」(鶴岡路人著 千倉書房)において、『筆者は、機会があるたび、関連分野を扱う米国政府関係者に繰り返し「NATOが核同盟だとすれば日米同盟も核同盟なのか」と質問してきたが、直接的に「イエス」という返答をえたことはほとんどない。とある国務省高官は「核同盟でないとはいわない」との答えだったが、「核同盟だ」と「核同盟でないとはいわない」の差は大きい。NATOがほかの同盟と異なるのは、後述する「核共有(nuclear sharing)」を通じて一部の欧州諸国が、戦術核の平時における配備と有事の際の実際の使用に直接的役割を果たし、NATO内でその計画使用について協議する制度が成立しているためである』(p140)、「核共有とは欧州に配備された米国の戦術核を、有事の際にNATO加盟の一部欧州諸国の通常兵器・核兵器両用航空機(dual-capable aircraft : DCA)に搭載して使用することを軸とした同盟の枠組みである」(p150)とされている。石破首相はNATOと核共有はセットになっているという認識なのではないだろうか?戦闘機のF35とF16は戦術核が搭載できると見做されているが、F35は稼働率が低すぎて使い物にならない。
バーラトはアジア版NATOに関心はないが(「石破氏のアジア版NATO構想、共有せず=インド外相」 2024/10/2 ロイター)、大韓民国は協議に前向きだ(『石破氏提唱のアジア版NATO 「具体化すれば協議する事案」=韓国外相』 2024/10/7 聯合ニュース)。尹大統領はフィリピン軍が進める装備の近代化に協力すると発言している(「韓国大統領、フィリピン軍の能力強化を支援 首脳会談」 2024/10/7 日本経済新聞電子版)。また、大韓民国はインドネシアと戦闘機を共同開発している(「超音速戦闘機の共同開発 インドネシア分担額を大幅縮小=韓国政府」 2024/8/16 聯合ニュース)。同国は本家NATOのポーランド(焦点:韓国が武器製造でポーランドと大型提携、巨大軍産複合体目指す | ロイター (reuters.com) 2023/5/30)に加えてルーマニア(「“第2のポーランド”ルーマニアが大規模な兵器導入…韓国からの購入検討か」 2024/4/16 (KOREA WAVE)にも兵器を輸出する契約に成功しており、欧州とアジアで兵器が共通化されて効率的な運用ができそうだ。アジア版NATOは大韓民国製兵器の売り込むのに有効である。
ただし、肝心の本家NATOは加盟国こそ増えたが、内部では対立している。ハンガリーとスロバキアはロシアに対して融和的である。さらにドイツは、ノルドストリーム爆破の容疑者をポーランド当局が拘束せず母国ウクライナに逃亡させたことで、ポーランドと対立している。『ドイツ政府のある高官は「プーチン氏がわれわれの共通の敵であり、そのことを忘れてはならない」と述べた』(『「ノルドストリーム」爆破の真相、ドイツとポーランドの論争過熱』 2024/8/20 ダウ・ジョーンズ配信)が、安価なロシア産のエネルギーを失い経済が苦境に陥っているドイツ市民はそれを許さないだろう。支持を集めている「ドイツのための選択肢」の党首はパイプラインの修復を訴えている(ドイツ野党指導者、ロシアからの燃料輸入再開を要求 - 2024年9月27日, Sputnik 日本 (sputniknews.jp))。まるで、両国が東欧の覇権を争っていた第二次世界大戦直前のようだ(投資家の目線976(セルビアとポーランド))。
追記:
2024/10/10
↓大韓民国は多連装ミサイル砲、戦車、自走榴弾砲、戦闘機だけでなく、潜水艦までポーランドに売り込むようだ。
韓国HD現代重工業、欧州潜水艦市場攻略…現地企業とMROも協力 2024/10/10 中央日報日本語版
2024/10/17
10月11日、2024年のノーベル平和賞は「核兵器のない世界」の実現を訴えてきた日本原水爆被害者団体協議会に授与されることが決まった。西側諸国のSLBMの老朽化等、核兵器のバランスが西側に不利に働いているせいもあるのだろう。石破首相としては核同盟(アジア版NATO)を進めることが難しくなった。少なくとも米国がカマラ・ハリス政権になれば、アジアの西側諸国の安全保障は米韓同盟を中心に形成されることになるだろう。