投資家の目線

投資家の目線911(ポーランドをハイエナに例えたチャーチル)

 「第二次世界大戦 1」(W.S.チャーチル著 佐藤亮一訳 河出文庫)には、ポーランドについて次のような記述がある。1938年、「チェコスロバキアの解体は進んだ。ドイツ人だけが死骸に群がるハゲタカではなかった。ポーランド政府は国境テッシェン地方の即時割譲を要求する、二十四時間期限の最後通牒をチェコに送った。この過酷な要求にも抵抗する方法がなかった。ハンガリーまでが彼らの要求を携えて現われた。」(p229)、「そしていまや、これらの援助と利益の一つ一つがむだにされ、捨て去られてしまったとき、はじめてイギリスはフランスの手を引き、ポーランドの保全の保障に乗り出したのである。そのポーランドはわずか六か月前には、ハイエナのどん欲さをもってチェコスロバキアの強奪と破壊に片棒を担いだのであった」(p246)。ポーランドをハイエナに例えながらも、当時の英国はポーランドの安全を保障した。

 

追記 2023/1/16

「内密にポーランドの支持を得ていたハンガリー部隊は、彼らが要求していたチェコスロバキアの東部地方、すなわちカルパト・ウクライナに侵入した」(同書p242)。ハンガリーの行動を支持するなど、当時ポーランドはチェコスロバキア解体に積極的に関わっていたようだ。

2023/6/21

↓第二次大戦直前のポーランドの外相ユゼフ・ベック大佐は反ソ・「対独宥和」外交を推進していた。

シコルスキの対ソ政策(1939-1943) : ポーランド問題序説 (hokudai.ac.jp) 広瀬佳一 北海道大学

ソ連を倒した後も、ベック大佐は対独融和外交を続けたのだろうか?

 

 昨年、ロシアとドイツを結ぶガスパイプライン「ノルドストリーム」の破壊にされたとき、次のようなことがあった。以前にも書いた(投資家の目線896(エネルギー価格高騰でピンチに陥る欧州経済))が、” Radek Sikorski is a member of European Parliament representing Poland and is the country's former defense and foreign minister. His Twitter account on Tuesday featured a photo of gas bubbling up to the top of the Baltic Sea, with the brief message: "Thank you, USA."”(欧州会議議員でもあるシコルスキ元ポーランド国防・外務大臣の、バルト海で泡立つガスの写真とともに上げられた「ありがとう、アメリカ」という火曜日のツィートを挙げた)(”Tucker Carlson conjectures that US behind alleged Nord Stream sabotage” By AARON BLAKE THE WASHINGTON POST September 28, 2022(Stars&Stripes))と、ポーランドの元閣僚はドイツのエネルギー供給に甚大な被害を及ぼすノルドストリームの破壊を喜んでいた。ロシア国防省は、ノルドストリームの破壊に「英海軍の専門家」が関与していると主張している(『ロシア国防省、パイプライン爆発に「英国関係者が関与」』 2022/10/29 日本経済新聞WEB版)。リズ・トラス前首相は、外相時代の私用携帯電話がハッキング被害を受けていた(「イギリス前首相ハッキング被害 ロシア関与の恐れ、現地報道」 2022/10/30 日本経済新聞WEB版)。トラス氏の通信が傍受されていたのは外相時代だけなのだろうか?ポーランドと英国は連携しているように見える。

 

 ポーランドはドイツ製戦車「レオパルト2」をウクライナへ供与しようとしているが、同戦車を外国に供与するにはドイツの承認を要する(「英国、初の戦車供与へ ウクライナ大統領に伝達」 2023/1/14 日本経済新聞WEB版)。ポーランド・リトアニア王国支配下でウクライナの大貴族がポーランド化した結果として、「正教やルーシの言語は下層階級のものとみな」(「物語 ウクライナの歴史 ヨーロッパ最後の大国」 黒川祐次著 中公新書p75)す偏見が身に染みついている現在のキエフ側が、東部のロシア語話者勢力を対等に扱うことなどあり得るだろうか?(注1)ゼレンスキー政権の主張するウクライナの領土一体性の回復は、ロシア語話者勢力への弾圧を復活させるだけに終わろう。ミンスク合意に違反しながら被害者面をする、「当たり屋」のようなウクライナのゼレンスキー政権に肩入れするのは、ポーランドがキエフの政権に恩を売り、リガ条約当時の「領土」を回復する思惑が大きいためだろう。第二次世界大戦前には、ポーランドはドイツなどとともにチェコスロバキアを分割した。今度ポーランドはドイツを対ロシア戦に引きずり込もうとしている。ドイツ国防省の辞任(「ドイツ国防相、来週にも辞任へ 独メディア報道」 2023/1/14 日本経済新聞WEB版)は、それを回避するためのように見える。ポーランドはドイツに戦後賠償請求をしている(注2)。ドイツがポーランドを警戒するのは当然だろう。ポーランド人は戦後にもユダヤ人を襲撃するポグロムを引き起している。「その犠牲者はあわせて二〇〇〇人と見積もられている。なかでも有名なのは四六年七月のキェルツェ事件である。群衆が根も葉もない噂に興奮してつぎつぎと四〇人を虐殺し、それを当局が傍観視した。多くのユダヤ系市民は恐怖に駆られて出国した。その数は四五年七月から一年半で十三万人にのぼった」(「新版 世界各国史 20 ポーランド・ウクライナ・バルト史」 伊藤孝之、井内敏夫、中井和夫編 山川出版社 p369)と、ポーランドは非暴力の国ではない。ハイエナが周囲をうろついている状況は危険だ。クマはハイエナを檻に閉じ込めようとするだろう。

追記 

注1:2022年6月2日、ゼレンスキー政権は和平を主張する政党「野党プラットフォーム・生活優先」を率いるヴィクトル・メドヴェドチュク議員を国家反逆罪で訴追した。多民族融和型のウクライナ国家建設を目指すメドヴェチュク党首の訴えをプーチン大統領への協力とみなすゼレンスキー政権には、少数民族を対等に扱う気はないということだ。(2023/1/27)

 

注2:1923年に、フランスとベルギーは石炭の供給がベルサイユ条約で決められた量より少なかったため、ドイツの条約不履行を理由にルール地方を占領した例がある

 

 今月4日、プーチン大統領は極超音速ミサイル「ツィルコン」を搭載するフリゲート艦「アドミラル・ゴルシコフ」の実戦配備を発表した。『ロシアの独立系ニュースサイトのメデューサはツィルコンについて、「対艦超極音速ミサイルで、最高時速はマッハ9(音速の9倍)を超える」と伝えている。西側の既存の兵器では、探知、追尾、迎撃は困難だ』(『「西側には撃ち落とせない」 ──プーチンが極超音速ミサイル「ツィルコン」を実戦配備』 2023/1/5 ニューズウィーク日本版)と報じている。「ツィルコン」を現行のイージスシステムで迎撃できなければ、イージス艦に護衛される米国海軍ご自慢の空母打撃群も無防備の状態になり、ますます米軍の勝ち目は薄くなる。海上自衛隊の「いずも」型護衛艦空母化計画もその意味を失うのではないだろうか?

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