下村博文自由民主党政務調査会長が毎日新聞のインタビューで、日本学術会議に対し、防衛省研究を一切認めないなら行政機関から外れるべきだと述べている(『「軍事研究否定なら、行政機関から外れるべきだ」 自民・下村博文氏、学術会議巡り』 2020/11/10 毎日新聞)。下村氏の言う軍事研究とはどんなものであろう。
日本の都市には防空壕と呼べるものがない。日本の旧海軍省は、
「現今の都市において陸海空軍のいづれかに對し相當の防禦施設を備へ、又は有事の際、相當兵力を配備せぬものはあり得ないのであるから、恐らく重要都市はすべていはゆる防守都市となるであらう。
そして一旦『防守せられた都市』等となれば攻撃者はこれ等に対して軍事的目標に限らず無差別の攻撃を加へることが出来得る。(英米兩國の陸戦訓令には、防守せられたる都市町村等を砲撃する場合に、その砲撃目標は要塞、軍隊等の防禦施設のみに限定するの要なき旨を規定してゐる。)防守非防守の観念は被攻撃者に對し極めて危険であるといふわけである。」(昭和13年8月17日(1938/08/17)週報第96号内閣情報部編集 「空爆と国際法」海軍省海軍軍事普及部)と、重要都市は防守都市に該当し、攻撃可能と述べている。
旧海軍省の見解によれば、自衛隊基地や在日米軍基地のある都市は防守都市と見做され、攻撃を受ける可能性がある。東京の都心でも六本木のヘリポートや天現寺のニュー山王ホテルは米軍の管轄である。練馬等には陸上自衛隊の駐屯地がある。東京も攻撃を受けてもおかしくはない。最近対中包囲網が論議される中華人民共和国の北京市等には防空壕があり、夏には避暑のために開放されることがある(「中国に3億5000万平米の防空壕、夕涼みや映写会にも使用」 2017/6/11 NEWSポストセブン)。日本海でミサイル発射実験を行う朝鮮民主主義人民共和国の平壌市の地下鉄は大深度にあり、核シェルターも兼ねると推測されている。一方日本では、2017年4月13日、安倍首相(当時)は参議院外交防衛委員会でサリンが弾頭に使用される可能性を指摘したが(『【北朝鮮情勢】安倍晋三首相「サリン弾頭の着弾能力を保有している可能性」 自衛隊のミサイル防衛の限界にも言及』 2017/4/12 産経ニュース)、イスラエルと異なり、政府は市民にガスマスクを支給したりはしない。
アジア・太平洋戦争時では、補給の軽視が問題視されている。2018年の水害で山陽本線の一部が不通になった時には、7両編成のコンテナ列車が山陰本線の伯耆大山駅から山口線経由で一日一往復した。山陰本線の複線区間は京都口付近や京都府の綾部から福知山間、鳥取県の伯耆大山から島根県の出雲市間の一部に過ぎず、それどころか高速化工事などの際に行き違い施設がなくなった駅もある。しかも、国鉄型ディーゼル機関車DD51の廃車の進行で本州に配備される幹線を引くディーゼル機関車がほとんどなくなり、山陽本線不通の際には西日本の物流に大きな支障が出るだろう。北陸線、信越線、羽越線、奥羽線をつなげた東日本の日本海縦貫線はそれに比べればマシだが、一部に単線区間が残り、それが物流のネックになる可能性がある。日本の補給の軽視は、現在でも直っていないのではないだろうか?
鉄道を複線化することを「軍事協力」と非難する人はいないだろう。日本政府は旅客中心の新幹線網の整備は熱心だが、物流などの基本的なインフラストラクチャーは整備しない。それどころか、新幹線並行区間を第三セクター化してしまい、非常時の対応を難しくしているように思う。
以上のような基礎ができていないからこそ、先制攻撃などの短期決戦主義にすがるしかないのだろう。しかし、攻撃を受けても被害を少なくする国土設計という基本を疎かにする輩に、兵器研究だけやらせても惨憺たる結果に終わるだけだろう。
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