投資家の目線

投資家の目線706(ゴーン日産自動車会長逮捕と日EU・EPA)

 2月1日に日EU・EPA(経済連携協定)が発効する。署名は2018年7月17日である。日産自動車のゴーン会長(当時)らの逮捕はその間の11月19日である。

 「日EU経済連携協定(EPA)に関するファクトシート 外務省経済局 平成29年12月15日」には、次のように書かれている。

「Ⅰ 日EU・EPAの意義
(1)戦略的意義
EUは,我が国にとって,民主主義,法の支配,基本的人権といった基本的価値を共有する重要なグローバルパートナーである。」

 カルロス・ゴーン元会長の弁護士の立会いできない取り調べ、長期拘束は、欧米では人権問題として認識されている。しかし、東京地検の久木元伸次席検事は11月29日の定例記者会見で、海外メディアでの勾留期間への批判に『「それぞれの国の歴史と文化があって制度がある。他国の制度が違うからといってすぐに批判するのはいかがなものか」と反論した。』(『ゴーン前会長の勾留「問題ない」 地検幹部が批判に反論2018/11/29 朝日新聞デジタル)といい、検察自ら日本は欧米の常識が通用しない国だと開き直っている。これは日EU・EPAの戦略的意義に反している。

 日産自動車の西川社長は、将来のルノー社との資本関係見直しについても言及している(「日産自動車、資本関係見直し「宿題のひとつ」、西川社長、仏ルノー巡り。」 2019/1/9 日経産業新聞)。同ファクトシートには投資について、

「(3)投資
原則全ての分野を自由化の対象とし,自由化を留保する措置や分野を列挙するネガティブ・リスト方式を採用し,透明性の高い自由化約束を確保した。
なお,日本は,既存の国内法令に加え,社会事業サービス(保健,社会保障及び社会保険等),初等及び中等教育サービス,並びにエネルギー産業等について包括的な留保を行っており,必要な政策の裁量を確保した。」

と、投資を原則自由化することが書かれている。自動車分野については自由化留保の対象の中に見当たらない。ルノーが日産自動車株式の保有比率を高めて支配権を強めても問題ないはずだ。また、日EU・EPAの協定書には、経営幹部についても特定の国籍を有する個人を役員、理事又は取締役に任命することを要求してはならない(第8・10条)とされている。よって、日産自動車の役員は日本国籍である必要はない。フランスはEUの加盟国。EPA発効直前のこの事件は、日EU・EPAの意義を失わせるものになるだろう。日本政府は何のためにEPAをやるのだろうか・・・。

経済上の連携に関する日本国と欧州連合との間の協定
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000382088.pdf

附属書8。 第8章に関する表
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000382082.pdf

 なお、日産自動車は米国ミシシッピ州のキャントン工場で人員削減を行うという「日産、米工場で最大700人削減へ。」(2019/1/18 日本経済新聞夕刊)。日米自動車摩擦を考えれば、生産を日本から米国に移管した方がよい。日本での雇用は失われるが関税引き上げ等の影響は受けず、米国での販売台数は維持できるだろう。日本での生産にこだわり、米国での販売台数を維持できなければ、企業の利益と日本での雇用の両方を失うことになろう。日産自動車は経営陣の内輪モメをやっている場合ではない。
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