投資家の目線

投資家の目線898(外国人の入国規制緩和)

 11日に、入国者数の上限撤廃などの外国人の入国規制が緩和された。岸田首相の所信表明演説にもインバウンド観光客への期待が込められていた(令和4年10月3日 第二百十回国会における岸田内閣総理大臣所信表明演説 | 総理の演説・記者会見など | 首相官邸ホームページ )。インバウンド消費は外貨獲得の手段である。しかし、日本の食料自給率は低く、肥料や飼料のコスト上昇で農業経営はさらに厳しくなっている。日本はこのまま外国人観光客に満足な食事を提供し続けることができるのだろうか?先日は、初のG20の財務・農業相会合で食料危機について議論された(「食料危機に政策総動員 G20、初の財務・農業相会合」 2022/10/12 時事通信)。全世界で食料が足りなくなれば、日本で足りなければ外国から買ってくればいいということにはならない。また、この冬は気温が低めという予想が出ているが(「今冬、寒気で気温低めに ラニーニャ現象継続へ」 2022/10/12 日本経済新聞WEB版)、エネルギー不足の中で客室に暖房を供給し続けることができるのか?そもそも世界的なインフレーションで、外国人の生活にも余裕がない。

 

 中国からの部品輸入が滞り、製造業も思い通りの生産ができなくなっている。中期的には日本国内への生産回帰が期待される。しかし、ブルームバーグ・インテリジェンスは「アップルが生産能力の10%を中国から移転するだけでも約8年かかると試算」(「中国からの生産移転は容易でない、アップルのサプライチェーンが示す」 2022/10/3 Bloomberg)するなど、中国からの生産移転は容易ではなさそうだ。『【コラム】「中国抜き」サプライチェーンの現実味』(2022/9/21 ダウ・ジョーンズ配信)にも、「そのような国内回帰は何年もかかり、製造業の仕事が完全に欧米に戻ってくることは非現実的だ」と書かれている。部品の生産地点を中国以外に移すとしても、原材料が中国製では中国依存から脱却したとはいえない。

 

 8月の経常収支は589億円で黒字幅は大きく減少している(前年同月比マイナス1兆4416億円、7月速報値は2290億円の黒字)(令和4年8月中 国際収支状況(速報)の概要 : 財務省 ,関連リンク(参考1)国際収支の推移表)。貿易収支と、旅行収入も関係するサービス収支の赤字幅拡大の影響が大きい。地下資源の少ない日本が外貨獲得能力を失えば、日本円の信用が低下するのは当然と言える。サービス収支の改善という意味では外国人の入国規制緩和は支持される。しかし、インバウンド消費に期待するなら、食料不足、エネルギー不足の中でも、外国人旅行者に対するサービスを維持することは必須である。

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