免疫というのは、
生体防御の大切なメカニズムです。
新型コロナウイルスでは
免疫攻撃
という文字には敏感に反応しています。
日本細菌学の父、
北里柴三郎の血清療法発見以来、
医学の分野では
いかにして免疫力をつけるか、
作用を強めるかということが
課題にされてきたようです。
こうして天然痘は撲滅され、
今もHIVワクチン開発が進められています。
これに対して、
免疫反応を抑えるにはどうしたらよいかという
研究もなされています。
関節リウマチなどの膠原病やⅠ型糖尿病は、
免疫系が
自分自身の細胞や組織を敵とみなし
過剰反応して起こる自己免疫疾患です。
また、
アレルギー疾患は
特定の抗原に対する過剰な免疫反応です。
今注目される潰瘍性大腸炎も、
免疫異常が関係していると考えられているようです。
こうしたことがなぜ起こるのか。
免疫反応を抑えコントロールできれば、
これらの治療につながり、
臓器移植の拒絶反応などにも応用が広がるのです。
逆に、
がん細胞に対しては
免疫反応が起きてほしいのに
うまく働かないことがあるようで、
免疫の抑制を解除してやれば、
がん細胞に対する免疫反応を高めることが出来てくるといわれています。
かつて免疫抑制の働きについては、
サプレッサーT細胞というものが考えられて、
獲得免疫反応をもつある種のT細胞が、
頃合いを見計らって免疫反応を終了させるのだと・・・。
1970年代後半には
盛んに研究されていましたが、
どうも実体が見つからなく、
それどころか分子生物学的にありえないとわかり、
論議は雲散霧消してしまったと・・・。
しかし、
何らかの制御するT細胞が存在しないと、
どうしても免疫反応を説明することができないと、
制御する細胞があるはずだと研究されていたのです。
正常なマウスから
ある種のT細胞のグループ(サブセット)を取り除くと
自己免疫病が起こることがわかり、
90年代半ばに
制御性T細胞がようやく日の目を見たといわれています。
2003年には
機能をもつ分子マーカーとして
Foxp3という転写因子も見つけられ、
世界が一度忘れかけた免疫機能の課題が解決したことで、
制御性T細胞に関する研究が一気に開花したと・・・。
実験結果などから、
Foxp3遺伝子は
制御性T細胞の発生および機能において
重要な役割を果たすマスター遺伝子であると考えら
研究が進められています。
いろいろと立証されてきた制御性T細胞は、
現在は多くの分野の人々に注目され、
さまざまな研究が加速しています。
臨床試験にも、
すでに各国で取り組まれて、
骨髄移植に際して制御性T細胞を入れ、
移植した骨髄中のT細胞が患者を攻撃することで
起こる移植片対宿主反応を抑えることができたというのです。
従来は、
免疫抑制剤によって、
すべての免疫反応を弱めていたので、
他のウイルス攻撃などにも気を遣っていたと・・、
そんな心配がなくなりつつあるようです。
また、子供のⅠ型糖尿病に対して
制御性T細胞を体外で増やして戻したり、
体内で増やしてやるという試みあり、
がん治療として
制御性T細胞を減らし、
その後ワクチン療法を行うというような
取り組みがなされているようです。
制御性T細胞は文字通り、
免疫の働きを制御しています。
自己抗原に反応するようなT細胞は、
胸腺で成熟するまでに除外されます。
しかし胸腺で発現していない自己抗原を異物とみなして、
攻撃するT細胞が残ります。
それが活性化したり増殖して、
自己抗原を攻撃しないように抑えるのが制御性T細胞です。
このような仕組みを免疫自己寛容といわれています。
そもそも、
制御性T細胞は複数の免疫抑制機構をもっており、
どのメカニズムが最も重要かというのは
医学的価値判断のようで、
生物学的見地と医学的見地は
必ずしも一致するものではないといわれています。
これまで刺激を受けたことのないT細胞は、
樹状細胞などが異物についての抗原を提示するだけでは
活性化しません。
もうひとつ、
共刺激と呼ばれる
別の刺激が必要のようです。
あと数年もすれば、
そのどれがコアなのか、
あるいはそういうことではないのか
といったことがわかるといわれています。