ばん馬のいる風景-BANEI Photo Gallery -

ばん馬や馬文化のコラムと少し写真。

母として

2022-03-09 22:09:14 | 2022年
私がサラブレッドの競馬を始めたころは、「名馬の子は走らない」というのが通説だった。
牝馬は特にそうだった。「早く引退して繁殖になったほうがいいんだ」、そんなセリフを20代のわたしは悔しく感じていた。
サラブレッドの世界では、もう昔の話。名馬の子たちが次々と活躍している。

ただ、ばんえいはまだ「走った牝馬の子は走らない」と言われる。センゴクエースなんて稀なケース。非科学的な言葉だって当たり前のように聞く。

それでも名馬の子を取り上げたい、そう願う人がいる。昔ながらの考え方に「こんちくしょう」と思ったこともあるのかもしれない。「ほれみたことか」とほくそ笑んだこともあるかもしれない。

日本海を望む牧場で、夢を持って、努力して、試して、我慢して、大切に、大切に、彼女を見守ってきた姿を見させてもらってきた。
引退して2年、ようやく身ごもった。「今ねぇ、これだから!」と奥様は、お腹の前で手で丸みを作って見せた。まるで娘や嫁のように。

出産は命がけ。それは人も馬も同じ。
それにしても、あまりにも無情だ。関係者の心労はいかばかりか。

無事に出産して、競走馬になるのは、当たり前のことではない。奇跡の連続だ。
わかっていても、忘れてしまいがちだけれど。
春に引退した牝馬が、子を産んだ話を聞かないまま、名前を見なくなっていることがある。
知らないところで、悲しみや悔しさが生まれている。
しかし、そこからまた、新しい命に夢をかけているから馬産が続いているのだ。

キクが、少し先に天国へ行ってしまった芦毛のわが子と、連れ添って歩く姿を想像する。
…子どもにえさあげずに自分だけ食べてそうだな!
空でずっと親子の姿のまま、幸せに過ごしていてほしい。お疲れ様、キサラキク。

(気にかけてくれたから、と大変な時期にかかわらず、ご連絡いただきました ありがとうございます)

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