石ノ森作品からは私は子供の頃にいくつものSF用語を教わった。
例えば「サイボーグ」や「ミュータント」がそうであり、今回取りあげる作品に出てきた「アンドロイド」という言葉もそうだ。
今でこそ「アンドロイド」は、通信手段のひとつとして一般的に知られているが、私が初めてこの言葉を知ったのは、石ノ森章太郎先生の古い漫画「アンドロイドV」で、だった。
サイボーグが改造人間。
ミュータントが、突然変異体。
そして・・この作品に出てきたアンドロイドとは、人間型ロボットのことだ。
人間型ロボット・・・いわば、ヒューマノイド型ロボットだ。
サイボーグは生身の人間の体を残しているし、、ミュータンドは生身の肉体が突然変異によって通常人とは違う体質になっている。
アンドロイドは、完全なるロボットである。
サイボーグでは、代表的なキャラはサイボーグ009、仮面ライダーなどがそうだ。
ミュータントはアメリカンヒーローに多く、例えば超人ハルク、キャプテンアメリカ、スパイダーマンなどが代表格か。
石ノ森作品では「ミュータント・サブ」というのがあった。
で、アンドロイドというと、日本の古いロボット漫画の多くがそうだった。例えば鉄腕アトムやエイトマン、アラレちゃんなど。ドラえもんなどは猫型アンドロイドと言えなくもない。これらのキャラは完全ロボットだった。
で、アンドロイドV。
私はこの作品をリアルタイムで読めた覚えがない。
当時の少年月刊誌「冒険王」に1965年(昭和40年)1月号〜10月号まで掲載されていたらしい。
だが私は連載では読んだわけではなく、のちに秋田書店発行の単行本「サンデーコミックス」で1冊にまとめられた「アンドロイドV」を買って読んだのが初めて。
というか、それが最初で最後。他の媒体では読んだことが無い。
なぜ私がこの作品を読んでみようと思ったか。その理由は単純。
主人公である「V」のキャラが、まんま「サイボーグ009」だったから(笑)。
演劇で言えば、009を演じた役者が、再びこの作品で主役を演じた・・・そんな感じ。
私は009のルックスが大好きだったのだ(笑)。
この作品、量は単行本で1冊分だけの量。
たいして多いわけではない。大作であり大長編でもあった009との量の差は歴然。
なので、石ノ森作品としては、小品のような存在であろう。
代表作のひとつとして捉えるには、少々無理があるかもしれない。
009にはキャラ達の心には悲しみや苦悩があったし、物語には当時の世相が反映されたりもしていたし、作者の強いメッセージ性も感じられる入魂の1作になっていた。
それに比べたら、この「アンドロイドV」は、作者が肩ひじ張らずに、ライトな感覚で描かれていた印象があった。
009にあった悲壮感みたいなものはなく、エンタテインメントに徹した少年ヒーロー活劇だ。
作品の傾向としてはスペースオペラ。そう、舞台は宇宙。
主人公のVは、宇宙秘密警察のアルファベット戦隊に所属するアンドロイドの隊員。
アルファベット戦隊の隊員は全員がアンドロイドで、それぞれにアルファベットの名前がつけられている。A、B、C・・・V・・というネーミングで。
Vは、009のような優秀なキャラではない。どちらかというと、落ちこぼれ気味の隊員。
教官には怒られてばかりだった。
だが、そんなVに、ひょんなことから宇宙生命体が宿り、Vは大活躍をするようになる・・そんな展開だ。
その宇宙生命体は、自分らの星が爆発してしまい、住む星が無くなってしまい、宇宙をさまよい、宿れる体を探していた。で、Vの体に宿らせてもらうことになった。
その代わり、折に触れVに協力するということで。
物語を読んでるとわかるが、Vの体に宿った宇宙生命体はたびたびVのピンチを救うことになる。落ちこぼれだったVは、みちがえるようなヒーロー的な活躍を見せるようになった。
ある意味、石ノ森先生は、息抜きみたいな感じで描いた作品ではなかったろうか。
先生の代表作というほどではないと思うし、今では時の流れの中に埋もれている作品であろう。
だが、私は、この作品を描いた頃の石ノ森先生の画風が大好きだった。
009にしても、熱心なファンならおわかりいただけると思うが、物語が長く続くにつれて、画風はだんだんかわっていった。
初期の009と、後期の009では、だいぶ画風が違う。
わかりやすいのは、目の形。
初期の頃の009は、目が大きく、アイライトがいくつも入ったりすることもあり、目がキラキラ輝いていた。
後期の009の目は、やや目が小さくなり、少し悲しみをたたえたような、うつろな目をして、やや写実的な目になっていた。
初期の009の絵柄が好きだった私は、009の絵を友人に頼まれて描いてた時、いつも初期の009の画風の009を描いていた。
で、アンドロイドVは、初期の009のような画風なのだ。
きっと、初期の009の頃に描かれた作品だったのだと思う。絵柄で、そう思える。
それが好きだったから私は、たとえ小品であろうと、その絵柄に惹かれて、この作品の単行本を買ったのだと思う。
初期の009の画風がお好きな人なら、009そっくりのアンドロイドVには親近感を持つと思うし、楽しめると思う。
設定や舞台が違うだけで、絵柄も性格も初期の009に通じるキャラ、それがアンドロイドVだ。
ちなみにアンドロイドVでは、終盤に002そっくりのキャラも出てくる。
Vでは、悪役として出てくるのが面白い。
まるで、サイボーグ009で009と002を演じた役者が、このアンドロイドVで共演してる・・・そんな感じだ。
また、チョイ役だが、サイボーグ004に似たキャラも出てくる。
Vと同じアルファベット戦隊の一員で、アンドロイドKがそうだ。顔はほとんど004だ。
だが、Kはあまり活躍の場面がなく、あっさり敵にやられてしまう。まさに「ちょい役」。
K役の役者としては、「おいおい、せっかく友情出演(?)したのに、俺の出番って、これだけ?」とでも言いたいかもしれないね(笑)。
でも一応、009と002と004が同じ作品で再び共演したような形だ。
もっとも、Kは002似の悪役とはからまないけどね。
002似の悪役は、終盤に物語に絡んでくるし、それなりの存在感もある。
009役者が他の作品で再び主役をはり、そこに002役者と004役者がゲスト出演したような感じで読める。
とりあえず、そんなことを考えながら読むのもまた一興かと。
この記事を書くにあたって、久々にこのアンドロイドVを読み返してみたのだが、読みながら「今この瞬間、日本でこのアンドロイドVを読んでる人は、何人いるんだろう。もしかしたら自分だけかもしれないなあ。」とも思った(笑)。
あまりにも埋もれた作品になっているので。
初期のサイボーグ009がお好きな人は、機会があれば読んでみてはいかがだろう。
初期の009の絵柄のキャラが、そこにある。
お父様もかなりな漫画ファンだったんですね、アンドロイドVをお持ちだなんて。
写真が趣味の人が、構図の取り方を、昔の漫画で覚えた…なるほどです!
わかる気がします。そういう人達は、昔のプラモデルなどのパッケージのイラストなどにも影響をうけたかもしれませんね。
009の画風に関しては私が初めて009に出会ったのは初期の009でした。
なので私にとっては009は初期のキャラの方が馴染み深いのです。
009に初めて出会ったのが後期の画風の方は、後期の画風の方がしっくりくるのでしようね。
龍神沼、懐かしいです。 石ノ森先生が執筆した「漫画家入門」という本に掲載されてました。
幻想的な作品で、いろいろなテクニックを駆使して描かれてた作品でした。
ナガシマさんの絵の技術、相当お上手で、拝見させていただくたびに感服してます、
漫画家が執筆した本を読むと、誰もが映画をたくさん見ることを薦めてました。
やはり、映画は、漫画家にとってアイデアの宝庫なのだと思います。
サンデーコミックスを持ってないと、中々通して読む機会は少ないのでは。
手塚先生のスターシステムは有名ですよね。
他の作品で主役だったキャラが別の作品で脇役で出てきたりすると、思わずニヤリとしてしまいます。
ロックというキャラもお馴染みてすね。
確かに悪役の場合が目立ちますが、作品によっては正義側だったりもする、名優(?)ですよね。
手塚先生のカメラアングルは、その後の漫画家に絶大な影響を与えたはずです。
石ノ森作品で、「リュウの道」という作品がありましたが、そのコマ割は、かなり凝ってました。
単なるコミックの枠を超えた斬新さがありました。
アートに近いようなクオリティーでした。
画面構成の妙、ともおっしゃられています。ぼくは良くわかりませんが、写真の趣味がある連中が「構図の取り方は石森作品をはじめ、昔のマンガで覚えた」と言います。藤子不二雄作品も同じだそうで、あれらのマンガを読んでいれば、そういう勘所は自然に備わるそうです。
画風は変わりましたよね。愁いを帯びた表情&頭身が高い後期のデザインの方が、一般には人気があると思います。「龍神沼」みたいな初期のコロッとした?デザインも好きです。
「鉄腕アトム」も頭身が変わりましたが、可愛らしいデザインの方が人気があったそうです。(やはり父親の本棚にあった)サンコミックスの冒頭に手塚治虫の「当時こんなことがあった」なんてプロローグが入っていまして、あれこれ悩みながら書いていた様子でした。
ぼくは好きなアニメの絵を模写したり、最近は劇中にないシーンを書いたりしますが(全くの手慰みです)、マンガ絵でも難しいです。せめてデッサンは可笑しくならないように気を付けていますが、普段から狂いがないものを眺めていれば勘所はわかると思います。それにしても名だたる巨匠たちの発送はやデザインは、どこに源泉があるんだろう?と考えます。やはり映画なんでしょうね…。
「アンドロイドV」、これはボクはまだ残念ながら、
未読です。サンデーコミックスに、挟まってるカタログの
写真で作品名は知っていたのですが…。
>演劇で言えば、009を演じた役者が、再びこの作品で主役を演じた・・・そんな感じ。
これは、手塚先生が始められたスターシステムというやつですね。
手塚先生のキャラに、ロック・ホームというワルのキャラがいますが
バンパイヤや、火の鳥・未来編、ブラックジャックなどで好演しています。
映画のようなコマ割り、カメラワーク、そしてマンガのキャラを映画俳優に見立てマンガの中で
演技させるシステムを、マンガの表現方法として確立しました。
石森先生のマンガで、ボクがスゴイと思うところは、マンガの見開き2ページの
画面構成の妙。 石森先生のマンガって、凝った構成なのにとても読みやすい。
なにげないシーンでも、主人公の心理描写を細やかに描きつつ、
斬新なコマ割りでストーリーが進行していく様は、見事としか
言いようがありません。絵のタッチも書道の行書のように柔軟で
躍動感あふれる活きた線が、素晴らしいです。