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子供の頃住んでた家の近くに、某会社の寮があった。
けっこう大きな寮で、建物は横長だった。
敷地はけっこう広く、中には芝生の庭があった。塀に囲まれていたので、中は見えなかった。
その寮の近くを夏歩いていると、その寮の庭でパーティらしきものが開かれていることがあった。
提灯みたいのが吊るされ、庭からはピアノの音が聞こえた。
誰かが弾く単音のメロディは、私にとってもお馴染みの曲で、しかも大好きな曲だった。
それは、ビートルズの「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」の出だしの主旋律を単音で弾いていたのだった。
「あ、ビートルズが好きな人が、パーティの中にいるんだなあ」などと思うと、無性にその庭の中に入りたくなった。
だが、寮の住人ではない私には、入れてもらえる理由がない気がしたし、知り合いのいないパーティにまざる口実も度胸もなかった。
住人同士でこういうパーティができるなら、自分も寮暮らしがしたい・・・などと思ったもんだった。
寮には、食堂らしき広い部屋もあったようで、そこは社交場のようにも思えた。
その寮の敷地内、実は私は一度も入ったことがない・・・というわけではなかった。
夏など、虫網や虫カゴを持って虫を追いかけて入ったこともあったし、忍者のように探検気分で寮の塀の中に飛び降りて入ったこともあった。
だが、それが当然のことながら、無断侵入であった。
子供だったからよかったものの、それと同じことを大人がやったら、今なら即刻通報されてもおかしくない行為だ。
中に入ってみると、広い芝生の庭がうらやましくて。
細長い建物に沿って、庭も奥まで続いていたが、さすがに奥の方まで侵入する勇気はなかった。
入口付近の庭や建物の景観を見るだけだった。
それゆえ、奥の方は、謎でもあったが、実は奥の方はどうなってるかは予想はついていた。
奥の方には地形的な段差があり、奥から少し下った所には、寮のテニスコートがあった。
庭は、テニスコートにつながっていたのだ。
だがテニスコートにはあまり興味がなかった私は、もっぱら広い芝生の庭がうらやましかった。
都心ではそんな広い庭がある家などなかったからね。
そんな庭で開かれているガーデンパーティ、自分には縁がないもの・・・と、いつしか諦めていたのだが、ある時それがあっさりと実現したことがあった。
それは、友達の実家に遊びに行った時。
その実家は山陰地方にあった。
田舎だ。
でも、だからこそ庭も広く。
歓迎の意味合いも込めて、その友人の実家の庭で、バーベキューパーティを開いてくれたのだった。
その庭は、前述の寮のそれに比べたら狭かったが、それでも、都心に暮らしてる私にとっては、十分に広かった。
一緒に行った友人はしこたま酔っぱらってしまったが、私もかなり酔っぱらったっけ。
旅の旅館でもなきゃ、ツアーの企画でもない、営利を目的としない自然発生的なパーティで、途中で近所に住む子供たちまで参加してきた。
その時。
前述の寮で行われていた、「ビートルズの曲が流れてたガーデンパーティ」も、もしかしたらこんな感じだったのかな・・・・なんて思ったものだった。
私には寮暮らしの経験がない。
寮にも色々あるだろう。
もしも、こんなガーデンパーティがたまに行われるのであれば、一度くらい寮暮らしをしてみたかったかなあ。
寮に自分の部屋があれば、庭でのパーティに飽きたら、自分の部屋にこっそりもどればいいだけだし(笑)、帰りの移動手段の心配もない。
寮の庭でのパーティなら、帰りたくても帰れない、帰りの移動手段が気になる・・・そういうパーティとは違うしね。
ところで・・・庭で「ア・デイ・イ・ザ・ライフ」をピアノで弾いてた人は・・・ピアノを庭に持ち出したのだろうか。
だとしたら・・・大変な労力ってことになりそうだが・・・・。
まさか、屋外である庭に、常設のピアノがあるとも思えないし・・・。
ともあれ。
住んでる場所の敷地内で納涼パーティみたいなものを開けるというのは、すごく羨ましかった。
それもまた、まさに「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」なのだ。
なお、写真は、この文中に出てくる「庭」には関係ありません。