長く「国民的映画」として親しまれた「男はつらいよ」。
渥美清さんの他界で終了するまで全48作もの映画が作られたのは、皆さんもご存知の通り。
もっとも、その後、「特別編」や「お帰り寅さん」なども作られて、シリーズ総数では50作ということになっているが、少なくても渥美さんが存命中に作られた寅さんシリーズは48作。
映画のシリーズ作品として、その48作という数字はギネスにも登録されている本数だという。
テレビドラマならいざしらず、年に1作か2作しか作られなかった映画で、48作というのは、スタッフにとっても役者にとっても、まさに「ライフワーク」といって差し支えなかった作品であっただろう。
寅さん映画に関しては、私は熱心なマニアというほどではなかったかもしれないが、それでも好きな映画であったのは間違いないし、好きなシリーズでもあった。
劇場に観に行ったことは何度もあったし、テレビで寅さん映画が放送される時は、都合がつく時はたいがい見ていた。
なので、全話見てるかどうかはわからないが、それでも大半の作品は見てきているはずだ。
で、寅さん映画を何作も見ていると、それなりに気がつくことも出てくるようになった。
例えば、寅さんのケンカである。
ご存知のように、寅さんはよくケンカをする。
たいがいは、「とらや(くるまや)」内などで、他愛のないことがきっかけで起きる内輪ケンカだったりする。
で、よくケンカをする寅さんではあるが、ケンカの時にげんこつパンチで相手の顔をなぐったりすることは・・私の記憶ではほとんどなかったような気がするのだ。
よく見ると、全くない・・・というわけでもないのかもしれないが。
だが、たいがいは、ペチッとひっぱたいたり、押したり、はがいじめしたりするぐらいではなかったろうか。
へたしたら、じゃれあってるようなケンカでもあった。
その様は、一応ケンカではありながらも、他愛ないケンカではあった。
ケンカで相手を本気で倒したい場合、たとえば襟首をつかんで、げんこつパンチで相手の顔面などをなぐったりするのではないか。
だが、寅さんはそんなケンカのやり方はほとんどしなかった印象がある。
寅さんが、げんこつのストレートパンチを相手の顔面に繰り出して、相手を倒して出血させたりしたシーンは、少なくても私の記憶にはない。
泥棒などを相手にパンチをお見舞いしたことはあったような気はするが、それでも流血まではいかなかったと思う。
つまり、寅さんのケンカは、基本的に「手加減」していたのだと思う。まあ、それは根底に「とらや」の人たちをはじめとする周りの人たちに対する愛情があったからであろう。
いや、どうも私のイメージの中での寅さんは、「とらや」のメンバー以外とケンカした場合でも、相手をパンチで殴り倒して流血させて気絶させたことは・・・なかった印象がある。
つまり、寅さんは、ケンカっ早いけど、相手を殴り倒して卒倒させるようなケンカはしなかった人・・・私は、そう思っている。
そこに、寅さんの人間性が、透けてみえたのだ。いくら暴れん坊でも。
だから、寅さんが映画の中で何度もケンカしても、登場人物や観客から許され、愛され続けたのではないだろうか。
寅さん映画があれだけ長く続いた理由のひとつに、上記の要素もあったように思える。
もしも、あれだけケンカっ早い寅さんが、相手をストレートパンチで顔などを殴って、相手を流血させ気絶させたりしてたら、「男はつらいよ」映画は、もっと違う印象になっていたような気はする。
もしも手に凶器みたいなものでも持ちだしていたら、なおさら。だが、寅さんはそんなことはしなかった。
昨今、小中学生などのケンカやいじめなどの問題で、それがエスカレートしてしまい、自殺などの深刻な事件に繋がるケースがあるが、そこには守らなければいけない「一線」を越えたり、ある意味「手加減」するものがなく、加減を知らないで突き進んでいってしまうからだろう。
そういう意味では、寅さんはケンカの仕方を知っていたということだろう。
まあ、ケンカする相手にもよるのだろうけれど。
映画で描かれている限りでの寅さんは、加減をしないでいいケンカ相手に出会うことはあまりなかった・・ということもあったのだろう。
もしも寅さんが実在して、映画では描かれなかったような相手と出会い、それが「手加減」をする必要がない相手であったら、そういうケースではきっと寅さんの戦い方は違ったのだろうね。
はがいじめや、ひっぱたく程度ではおさまらない相手であれば。
そういう人を相手にする時の寅さんは、どんな感じだったのだろう。
それも知りたい気はするが、もしもそういうケースがあったとしても、それはきっと映画では描かれないだろうけど。
ともかく、映画の中での寅さんは、ケンカしても、相手をストレートパンチで顔などを殴って流血させて気絶させるようなケンカはしなかった。
私は、そんな印象がある。
もしも、そんなシーンもあったのだとしたら、それは単に私の記憶が抜け落ちているのだろう。
だから暴力沙汰も珍しくないと思われますが、私も1度もそういう乱暴な場面を観たことがありません。
むしろ暴力場面があったら、日本国民に普遍的に愛される映画にはならなかったでしょうね。
『男はつらいよ』は、ほんわか温かい、大人の映画であり続けてほしいです。
だから、いくらケンカのシーンがあっても、あまり生々しくは感じられなかったのでしょう。
最近、別の配役で「贋作・男はつらいよ」というテレビドラマが作られました。
「贋作」という言葉がタイトルについてるのがポイントですね(笑)。
そのドラマでも、ほんわかあたたかい作風は健在でした。