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気ままな雑記帳です。話題はあれこれ&あっちこっち、空を飛びます。別ブログ「時代屋小歌(音楽編)(旅編)」も、よろしく。

映画「ラブ・アンド・マーシー」を観て。

2015年09月02日 | レビュー(テレビ、ゲーム、本、映画、その他)

先日、映画「ラブ・アンド・マーシー」を見てきた。

これは、ビーチボーイズのリーダー、ブライアン・ウィルソンの波乱万丈のこれまでの生涯を描いた映画である。

 

ブライアンのこれまでの生き様に関しては、私はこれまで色んな文献を読んだり、映画を見たりしてきているので、おおまかにはある程度は知っているつもりであった。

 

実際、「ラブ・アンド・マーシー」で描かれた内容も、だいたいのところは知ってはいた。

以前、本物のブライアンやビーチボーイズが出てくる映画「ザ・ビーチボーイズ ・アン・アメリカン・バンド」を見た時に、「ラブ・アンド・マーシー」に描かれたエピソードの実際の映像が出てくるシーンがあったので、エピソード的にはブライアンファンにとっては、おなじみのエピソードが、「ラブ・アンド・マーシー」では役者たちによって再現されていた。

 

ペットサウンズやスマイルの制作過程は、「ザ・ビーチボーイズ アン・アメリカン・バンド」でも、この「ラブアンドマーシー」でも描かれており、個人的にはこのへんのシーンは、何度見ても面白い。

 

だが、以前の映画には盛り込まれなかったシーン(それが架空のものであれ、実際の逸話であれ)が、「ラブ・アンド・マーシー」には盛り込まれていた。

 

その結果、ブライアンがだんだん壊れていく過程などは、印象的だったし、強烈だった。例えばプールの深みでのシーンとか。

この映画はブライアン自身の公認によるものなので、彼が壊れていく過程は実際にあんな感じだったのだろう。怖いぐらいだった。周りの人たちの常識から、別次元にいる感じだった。

 

 

以前のビーチボーイズ映画「ザ・ビーチボーイズ アン・アメリカン・バンド」では触れられなかったエピソードで、「ラブ・アンド・マーシー」では描かれたエピソードで強力だったのは、ブライアンを支配していた主治医ランディとブライアンの関係ぶりだった。

これは・・・今まで私はよく知らなかった場面だ。

いや、主治医ランディがブライアンを支配していたことは私も本などで知っていたが、実際にどういう状況であったかは知らなかったので、ちょっとびっくり。

常軌を逸していた。

ランディの姿は、暴君のようでもあり、ブライアンを恫喝しているようでもあり。

映画の演出上の多少の誇張はあったのかもしれないが、それでもランディがブライアンを支配し、それをカールやメリンダ(ブライアンの現夫人)の協力でブライアンを救ったという、映画に描かれたような状況は、あったのだろう。

このくだりは、強烈だった。

 

 

ビーチボーイズといえば、長い歴史を誇る、アメリカを代表する伝説的バンドのひとつだし、60年代のイギリスのビートルズに対してのアメリカの返答がビーチボーイズだった・・と言われるほど、有名なバンド。

ブライアンは、そのリーダーだった人。

日本では、山下達郎さんなどのプッシュでも、おなじみの天才ミュージシャン。

世界中のミュージシャンからリスペクトされている。

 

だが、今となっては、老年ミュージシャン。

そのブライアンの伝記映画となると、けっこうカルトなのではないか・・・と思っていたのだが、劇場に行ってみたら、席は満席になっていた。

 

さすがに客の年齢層はやや高めだったが、思った以上に女性客もいて、なぜか私は嬉しくなった(笑)。

席がスカスカだったり、客がおじさんばかりだったら、ちょっと寂しく感じただろうと思う。

だが、そうでもなかった。よかった。

 

ブライアンを演じる役者は2人。

まず1人は、1960年代の若かりし頃のブライアン。演じるは、ポール・ダノ。

そしてもう1人の役者は、ランディにコントロールされてた頃の、1980年代の少し老けた年齢でのブライアン。演じるはジョン・キューザック。

 

特に若かりし頃のブライアンが、ビジュアル的にもそっくりで。

 

あと、ビーチボーイズも、役者によって演じられていたのだが、マイク・ラブなども雰囲気が良く似ていた。

 

この映画では、マイク・ラブはちょっと分が悪い描かれ方である。

リアルタイム時、ブライアンのスマイルやペットサウンズ制作にクレームをつけたからだろう。

ブライアンファンとしては、ついブライアンサイドに立って見てしまうし、ブライアンを贔屓してしまう。例えば私自身がそうだ。

だが、マイク・ラブの気持ちも理解できる部分もないことはない。

 

ビートルズをレノン&マッカートニーという名コンビが引っ張ったように、アメリカ代表のビーチボーイズは、マイクとしてはマイクとブライアンで引っ張りたかったのだろう。

ブライアンに歌詞のことで相談された時のマイクときたら、一瞬で態度が協力的に変わってしまったくだりは、あまりにわかりやすかった。、

 

マイクだって、非才ではないと私は思う。例えば「グッドバイブレーション」のメインの歌詞を考えたのはマイクだし、マイクのあの能天気なキャラが初期のビーチボーイズの顔のひとつであったことも間違いない。ビーチボーイズの初期の看板曲を歌う時のマイクは輝く。あの明るさもまた、ビーチボーイズのカラーだった。

 

だが、こと音楽面全般で言えば、ブライアンが凄すぎた。これほどの天才、対等に協力しあえる人など、そうそういるものではなかった。

 

 

ビートルズには、対等の才能を誇る二人の天才・ジョンとポールがいた。ジョンはポールに相談でき、ポールはジョンに相談できた。

そして、彼らの音楽を音楽的素養で理解してあげられるプロデューサー・ジョージ・マーチンがいた。

また、外圧からビートルズを守ってくれるマネージャー・ブライアン・エプスタインもいた。

 

だが、ビーチボーイズは、スバ抜けたブライアンの天才ぶりに対等に渡り合えるメンバーはいなかった。というか、それが普通だろうと思う。対等に渡り合える天才が二人揃っていたビートルズが特殊なのだ。

 

また、ビーチボーイズには、理解してくれるプロデューサーはいなかった。当初はブライアンの父がその役をやっていたが、ブライアンの進化を理解できなかった。

その結果、ブライアン自身がプロデューサーをつとめるようになった。まあ、ブライアン自身がプロデュースにこだわりがあったといせいもあるけど。

 

つまり、ブライアン・ウィルソンはビートルズでいえば、1人でレノンとマッカートニーとジョージ・マーチンの役の3役をやっていたことになる。

で、1対3の劣勢(?)で、ビートルズに対抗していたのだ。

 

それでも、「ペットサウンズ」という作品を完成させることができた。

それだけでも、とんでもないことだと思う。

 

そしてさらに「ペットサウンズ」をも凌駕しようと「スマイル」制作にとりくんだら、ビートルズに「サージェント・ペパーズ」というアルバムで先を越されてしまった。

そして・・追い込まれていき、壊れていった・・。

このへんのエピソードは、ブライアンファンにはよく知られていることだが、あらためてこうして映画でストーリーとして見ていると、もしもブライアンにレノンやマッカートニーみたいな対等の天才パートナーがいたら・・とか、ジョージ・マーチンのような理解者がいたら、どうだっただろう・・・とかを、改めて私は思ってしまった。

 

そうしたら、あんなに壊れなくてもすんだのかもしれないし、あの時代での「スマイル」も完成させることができたのかもしれない。

そうなれば、ランディに支配されることもなかったはず。

まあ、このへんは、ロックファンの「IF」ファンタジーであることは重々分かってはいるが、「ラブ・アンド・マーシー」を見てると、どうしてもそう思ってしまう。

 

ともあれ、「ラブ・アンド・マーシー」、ブライアンファンには必見の作品だと思うが、天才とそれを利用しようとする人の関係を描いた作品という意味で、ブライアンファンじゃなくても、楽しめると思う。

 

 

世の中には名作アルバムとされているアルバムはたくさんあるが、ミュージシャンは1枚の名作アルバムを制作するのにどれだけ心血を注いでいるか、よくわかる作品。

 

安易に作られたアルバムと、心血を注いで作られたアルバム、その両者には大きな違いがある。

 

 

この映画「ラブ・アンド・マーシー」を見て、私は改めて「ペットサウンズ」や「スマイル」を聴き返している。

この映画を見たブライアンファンには、きっとそういう人は多いに違いない。

 

もしも、これまでブライアンやビーチボーイズをよく知らなかったり、「スマイル」や「ペットサウンズ」を聴いたことがない人は、この機会に、この映画を見て「スマイル」や「ペットサウンズ」を体験されてみてはいかがであろうか。

 

 

ともかく・・天才と、それをとりまく人たちの関係・・・・つくづく天才というのは大変だ。その天才が、無垢であればあるほど、周りでその天才を利用しようとする人が現れる。

ましてや、ブライアンは、リアルタイムで、その音楽の才能は「金のなる木」ならぬ「金を生みだせる天才」だったのだから。

 

さらにやっかいなことに、ブライアンには当時精神状態が最悪だったという弱点があったから、なおさら・・・。

 

 

ランディに関していえば、この映画ではすっかり悪役だが、精神状態も体調も最悪だったブライアンを治療し、復活させた功績は、ちゃんと評価されてしかるべきだと思う。

ランディが治療しなかったら、ブライアンは廃人同然のままだった可能性もあるわけだし、へたしたら寿命にも影響した可能性もある。

 

ただ、ブライアンがあまりに「金のなる木」である天才だったばかりに、ランディは欲が出てしまったのではないか。そんな気もする。

そして、その欲はエスカレートしてしまっていった・・。

ランディはブライアンの治療費では法外な値段を要求していたともいうし、ブライアンをビーチボーイズのメンバーや家族とも引き離して独占していたともいう。

それと、セラピストであるランディがブライアンのソングライティングにまで口を出すようになってしまうのは、やはりおかしいと思う。伝え聞く情報だけでも、いきすぎの感はある。

エスカレートせず、強欲を出さなければ、ランディはブライアンを復活させたセラピストとして、もっと名声を得ていただろうに・・。

 

 

ともあれ、ランディの治療で復活したブライアンが、初のソロアルバムとして発表したアルバムに収録されて、その後ヒットした曲のタイトル、それこそ「ラブ・アンド・マーシー」であった。

そして、それは、今回ブライアンのこれまでの生涯を描いた映画のタイトルにもなったというわけだ。

 

 

ユージン・ランディは2006年に他界。

ブライアン・ウィルソンは今も精力的に活躍中。作りだす音楽は、変わらず美しい。

 

 

ちなみに写真は、映画「ラブ・アンド・マーシー」のパンフレットです。CDのブックレットをいくぶん大きくしたような作りになっています。ブックレットの表紙に使われてる写真は、初期のビーチボーイズのアルバムジャケットを模したものです。


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