何十年も前に大ヒットを飛ばし、その後しばらく表舞台から姿を見かけなくなった漫画家が、何十年ぶりかにどこかの出版社の企画で、新たな作品を描いた時、絵柄が昔と違っている場合がある。
その違いは、微妙なものである場合もあれば、かなり違う場合もある。
過去の作品と全く違う作品ならばともかく、過去の大ヒット作の「新作」「描きおろし」作品だと、その絵柄の違いは、けっこう目立つ。
それは、過去の大ヒット作との間隔が長ければ長いほど、絵柄の違いは大きい気がする。
主人公の顔のパーツの形状(目や輪郭など)、位置のズレ・・というものは、たとえそれがわずかな違いであっても、パッと見の印象はだいぶ変わる。
まるで別人が、オリジナルの画風を真似て描いているような感じの時もある。
とはいえ、ジ~~ッと見ると、同一作者らしき要素はあるのだが、パッと見の印象だと、どうも違う。
その作品の現役時を自分が好きであればあるほど。
また、キャラだけでなく、その違いは背景にも表れることがある。
若い頃の背景は、コマの隅々まで丹念に細々と描きこまれていたのに、何十年ぶりかの新作だと、背景があっさりしていたりもする。
作品が違えば、背景はその作品ならではの世界観・・・ということにして読むことも可能だが、同じ作品だと「やっぱり昔と違うなあ」と思い、少し残念に思う場合がある。
作者にとって「思い入れ」は今も昔もあるはずなのだが、思い入れの真っただ中にいる時と、過ぎ去ってしまった思い入れを取り戻そうとして引っ張り出した思い入れとでは、やはり密度に違いはある。
仮に、気持ちは同じでも、腕や指が昔のピーク時の状態にはついていけてない・・というか、戻りきれないというか。
寂しい言い方をすれば、「失われた絵柄」・・・ということになるのだろう。
思えば・・・代表作とも呼べる作品の連載時は、その漫画家にとって、ひとつのピークなのだろう。
そういう時に生み出される作品には、1コマ1コマの隅々まで、また、キャラの表情まで、オーラにあふれている。
描き手と、作品、そしてキャラ・・・などの作品構成要素が化学反応を起こし、1+1が3にも4にも、5にもなっている。
普段中々思いつかないような、奇跡のクオリティの偶然・・・・演出、背景、表情、キャラの芝居、その他の要素が作品中に頻発し、それがまた作者や作品を更に高いステージに押し上げている。
で、ピーク。
ピークがあるということは、いずれそのピークを過ぎてしまうこともあるということで。
ピーク時のようなパッションを何十年も持続させることは、どんなジャンルの人にとっても難しいだろう。
もちろん、それが出来れば、それは理想的ではある。
だが、人間には「老い」もあるし、それによって新たに得られる要素もあるが、一度物語が終了した作品に注ぎ込んだパッションは、その作品の終了と共に減退してしまう。
そのパッションが、ピーク時に連載していた別の作品に反映されることもあるが、ピーク時から長い年月がたってしまった時点で、ピーク時のようなパッションを復活させるのは、実際至難の業だと思う。
ある意味、ピーク時・・というのは、その人の奇跡の時期なのかもしれない。
で、リアルタイムで、ある作者のピーク時の作品に接することができるのは、その読者にとっても、極めて幸せなことなのだろう。
創造者の一番良い時期に、立ち会えてるわけだから。
なので
かつての名作が、終了後長い年月がたって、同じ作者で再び描かれる時、どこかあっさりとしてたりして、ファンとして寂しさを感じても、それは仕方ないのかもしれない。
引退したスポーツ選手が、引退後に長い年月がたって一時的に現役復帰した時のような感じかもしれない。
ある意味、長い年月を経て再会した、同窓会の出席者みたいなものかもしれない。
そこに往年のようなオーラや勢いがなく、物足りなさを読者が感じたとしても、その作品はファンにとっては「かつての大功労者」。
ファンに暖かく接してもらえる特権は、あってもいいのでは。
例え、そこに少し寂しさを感じたとしても。
ただ、若い頃のような絵柄ではなくなってしまった漫画家でも、新しい絵柄でリメークではない新たな作品を描いた場合、私がその漫画家のピーク時の作品に熱中して読んだ覚えがある場合、その漫画家とその新作に私は敬意は表したい。
例えば、このネタで紹介している 写真は、久松文雄先生の「諸葛孔明」。
久松先生といえば、なんといっても若かりし頃の「スーパージェッター」が代表作で、幼心にジェッターの絵柄が久松先生の絵柄として頭にインプットされている。
この「諸葛孔明」は、ジェッターよりもだいぶ後になって描かれた作品のようで、絵柄はジェッターとは違う。
でも、読みやすい絵柄である・・という点では長所は共通する。
先生は、意図的に絵柄を変えた・・という話があるが、こうしてジェッターとは全く違う作品であるなら、新たな作風として読めるし、敬意を払いたい。
ともあれ
こういうネタを書いていて、ふと思うのは・・・
漫画のヒーローたちは、描き手が意図しない限り、年はとらない。
その代わり、絵柄そのものが、年齢なのかもしれない・・・ということだ。
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