私がたまに行くレンタルビデオ屋さんは、DVDを一度に5枚借りると割安になる。
なるべく作品のジャンルがかぶらないように5枚選び、休日はDVD三昧になることがある。
最近借りてきたDVDの中で、深く心に残った映画がある。
それは「アンヴィル」という作品。
これはアンヴイルというロックバンドのドキュメント映画である。
アンヴィルは、ジャンルでいうとヘビメタのバンドなのだが、不勉強なことに私は、この映画を見るまでアンヴィルというバンド名すら知らなかった。
だが、この映画はけっこう前から気になっていた。
というのは、他のDVDを借りた時に、巻頭に収録されていた、この映画の予告編を見て、気になっていたからだ。
「他のバンドは皆売れたが、このバンドだけは売れなかった」という紹介のされ方が、どうも心に引っかかっていた。
これは、時代の波に乗れなかった、売れないバンドのドキュメント映画なのだ。
思えば、私はハードロックはけっこう聴いていた時期があるが、ヘビメタまでは聴いていなかった。
一応インディーズから出たアルバムがそれなりに評価されたことはあったものの、メジャーから大ヒットを飛ばしたというわけではないアンヴィルというヘビメタバンドのことを私が知らなかったのは、仕方のないことだったかもしれない。
で、見てみて。
結論から先に書こう。
参ったよ。たまらない。
心を揺さぶられてしまった・・というか、深く染みこんだ。
こんな心に染み込んだ映画は、久しぶりだ。
映画は、ボーカル&ギターのリップスと、その相棒にしてドラムのロブの2人を中心に、カメラは追う。
はっきり言って、リップスもロブも、どうしようもない奴であり、大バカ者だ。
売れないバンドを解散もせずに何十年もやり続け、50代になっても「ロックスターになるんだ!」という気持ちだけは変わらず、家族には迷惑かけっぱなし。
ツアーでは、観客がたった5人しかいない店で演奏したり、店からはギャラを払われなかったり、駅の構内で野宿して「俺らはこれでもプロか?」とぼやいたり、大手のレコード会社からは相手にされなかったり、普段の日常での「生活費を得るための仕事・・給食運びの運転手・・」を「クソのような日常」と自虐的になったり、メンバーに八つ当たりして大げんかしたり。
散々である。
でも。
そんな大馬鹿な・・・・音楽バカな彼らだが、この映画を見てると愛おしくてたまらなくなる。
私はヘビメタというジャンルは今もさほど大好きというわけではないが、それとは別に、この「愛すべきロックバカオヤジ」を応援したくてたまらなくなる。
そして、そんなリップスやロブを支える奥さんたちも愛おしくてたまらなくなる。
「(ロックバンドで成功したいのは分かるけど、)いつまで待てばいいの?」・・・と言っても、結局は夫の夢に賭けてるんだよなあ。
50代になっても、ヘビメタバンドをやり続け「ロックスターになるんだ!」と言い続けるオヤジを。
アンヴィルのプライドは、解散もせずに何十年もバンドをやり続けている・・ということ。それだけが彼らの支え。
いくつもの有名バンドが、アンヴィルには刺激を受けたと明かす。
アンヴィルから盗んで、有名になって、その後アンヴィルを捨ててしまった、我々はもっとアンヴィルをリスペクトするべきだった・・・と語る。
うだつが上がらないまま、何十年もバンドを続けている・・・考えてみれば、それは奇跡的なことかもしれない。
この先も、音楽面でボンジョビやスコーピオンズ、ガンズなどのような世界的なブレイクは、アンヴィルはないかもしれない。
考えてみれば、アンヴィルのような、うだつのあがらないバンドは世界中にあふれているだろう。
下積みのまま終わってしまうバンドもいるはず。
その中でアンヴィルは、こうしてドキュメント映画を作られ、バンドの存在が多くの人に知られることになった。
その意味では、アンヴィルは幸せなのだろう。
とはいえ、バンドの音楽面での成功というわけではない・・ってのが、現実の難しさや厳しさを見せつけられる思いだが。
この映画を見たからといって、私がヘビメタのファンになるわけでもない。
アンヴィルの楽曲が私の感性にピッタリ・・というわけでもない。
でも、この愛すべきロックバカオヤジだちを応援せずにはいられない。
妙な気分だ。
ホント、こいつらからロックを取ってしまったら、何もないような気がする。
日本人の私にとって、意外でもあり嬉しくもあるのが、彼らにとって日本は特別な場所であるということ。
なんてったって、日本で始まって、そしてクライマックスの舞台もまた、まさか日本だったとは・・・。
途中はコメディ作品を見てるような気分で笑って見たりしていた私が、クライマックスのステージのシーンでは、私は不覚にも泣けてしまった。
そう、不覚にも、だ。しかも号泣だ。
たまらなかった。
この映画のために撮られたドキュメント映像の編集技術もすごい。見事な、つなぎだ。
そしてその後にリップスとロブが夜の渋谷の町を歩いている時の表情は最高に良くて、救われる思いだった。
まるで、小僧のような無邪気な表情。
何十年も報われずにきたが、ほんのちょっぴりでも、ささやかでも報われてよかった。
たとえそれがバンドの大成功とは程遠くても。
そして、好きになった。こいつらが。
リップス、そしてロブ。
この先もたいして報われないかもしれない。
前にも書いたが、ボンジョビやガンズやスコーピオンズみたいには成功できないかもしれない。
でも、大事なことは続けることだろ?
これからも愛すべきロックバカオヤジでいてくれ。
Keep on Rockin`!
世界中のバンドマン必見!!
いや・・
バンドマン必見というより、すべてのロックファンに見てもらいたい。
ヘビメタが好きかどうかは、この映画にはさして大事なことではなく、たまたまこいつらがヘビメタだったというだけだ。
ジャンルは関係ない。
そして・・さらに。
ロックというより、夢を持つ全ての人に見てもらいたい。
身につまされるものが、きっとあるはず。
現実と理想のはざまで。
夢を持つ人には、彼らの気持ちは分かる。痛いくらいに。
でも、現実の中では、夢は中々実現はしない。
そんな中で、夢をあきらめる人の、なんと多いことか。
「夢はかなう」・・・フレーズとしては美しい。だけど、現実の中では、そんな生易しいことではなく、むしろそれは勝者の「上から目線」である場合もある。
だから、アンヴィルの連中が夢を追うリアリティには、共感もし、苦笑もし、泣かされる。
そう、途中けっこう笑えたりもするのだが、最後まで見ると、そんな彼らを笑えなくなる。
夢を追い続けている人や、夢が中々かなわない人がこれを見たら、最後はいつしか胸が熱くなっていることだろう。
そしてアンヴィルを応援したくなっているのがわかるだろう。
それは、ある意味、自分を応援することでもあるのかもしれない。彼らに置き換えて。
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