この冬のこと。それは、真夜中。
窓の外で聴こえる妙な音で目が覚めた。
妙な音・・・それはサイレンの音だった。
消防車のサイレンの音らしかった。
家の近くで聞こえた。
かといって、家の横や前を通っていくほどの近さではないようだったので、火事は少し離れた家だろう・・・と思って、そのまま布団の中に居続けた。
やがて、なにやら話し声が聞こえ。
サイレンの音はひっきりなしに響いていた。
なんとなく不安になってきた。
呑気にかまえている間に、外では火が広がり、気づいた時にはもう遅い・・・なんてことになったら、たまったものではない。
そう思うと、いてもたってもいられなくなり、布団から出て、窓のカーテンを開け、家の周りを見てみた。
だが、火事らしきものは見当たらない。
だが、消防士らしき人たちが何人も家の近くの道を歩いて行ってる。
火事は・・・どこだ。どこなんだ。
少なくても、窓から見える景色内では、火事の気配はなかった。
結局、火事がどこであったのかは分からなかった。
だが、消防車がいつまでもサイレンを流し続け、消防士たちが深夜の道をバタバタ歩いていたのは確かで、少なくても近くで火事があったのは確かだ。
風の強い夜だったので、もし火が燃え広がったらどうしよう・・・そう思うと寝付けなかった・・・。
そうかと思えば。
ある日、仕事である町を歩いていたら、発生したばかりの火事現場に出くわした。
ビルの3階か4階あたりの窓から煙がモウモウと出ている。
消防車はまだ着いたばかりで、消火活動はこれから始まるところだった。
あたり一面、真っ白い煙で覆われ。
その臭いはかなり遠くまで漂っており。
明らかに有毒なガスであることがわかった。
こういう時に限ってマスクをしていなかった私。
思わずハンカチで鼻をふさぎ、現場を通り過ぎた。足早に。
ビルにはいくつかの店舗が入っているみたいだが、気の毒なことに、しばらく営業は無理だろう。
隣のビルにいた人や店にとっても、たまったもんじゃなかったろう。
今起きたばかりの火事を、こんな至近距離で見る機会なんて・・・・。
あの後、火はどうなったのだろう。
東京の冬は空気が乾燥しているものだ。
いずれまた冬はやってくる。
我が家も含めて、ご近所さんも、そしてどこのエリアの人も、火には十分注意しないといけない。
もしも自分が火事の元凶になってしまったら、人生終わりだ。
償いきれるものではないのだ。
償いきれなくても、一生償いのために働かなくてはいけなくなるかもしれない。
火は、家屋だけでなく、人生そのものをも燃やして灰にしてしまう。
どこかで火事が。
近くで火事が。
消防士たちの足音や話し声。
消防車のサイレンの夜。
気持ちが凍てついて、不安感。
ある寝付けない夜の出来事と、火事になっている、あるビルの前での思い。