ここ最近見てきたドラマの中でも、特にお気に入りのドラマだったのが、「サムライせんせい」。
錦戸亮さん扮する、幕末の志士・武市半平太が平成の世にタイムスリップしてきた・・という設定のドラマだった。
当初このドラマのことを知った時、「え?なぜ武市半平太なの?」と私は思ったものだった。
だが、見始めてみたら、なぜ武市半平太だったのか、理由がよくわかった。
龍馬ではなく、半平太だからこその面白さがあった。
武市半平太とは、幕末維新のファンにはよく知られている人物。土佐の志士であり、土佐勤王党のリーダーだった人。
だが幕末維新のことをあまり知らない人にとっては、知る人ぞ知る人物だったのではないか。
もちろん、半平太の郷里である土佐では知らぬ人がいないほどの有名人。高知の町に旅した時、町の片隅に「武市先生終焉の地」と掘られた石碑を見かけたほど、地元人にとっては誇りの人物。
とはいえ、全国的な知名度では、同じ土佐出身の志士・坂本龍馬にはかなわない。
それは、幕末時に切腹させられ、大政奉還や明治の時代を見ることなくこの世を去ったからかもしれない。
長州の桂小五郎、薩摩の西郷隆盛と大久保利通の3人は、「維新三傑」と呼ばれるが、もしも半平太があの時代をもっと長く生き延びていたら、桂や西郷や大久保と並んで「維新四傑」と呼ばれていたかもしれない。そんな可能性も秘めた人物だったと思う。
なにしろ、土佐藩を一時は背負って立つほどの活躍をしていたこともあるから。他藩の志士たちとも積極的に交流していた。
私が半平太に持っていたイメージは、統率力があり、品行方正、堅物で、女性に一途で、殿への忠義心に厚く、勉学にも剣術にもすぐれ、冷酷で、過激。そして、龍馬の友(龍馬とは遠縁にあたる間柄でもあった)。
そんな感じだ。
当時の半平太を知る人の言葉によると、半平太は並はずれた大人物だった・・ということである。誰もが半平太のことは「先生」と呼んでいたという。唯一、龍馬以外は(笑)。
龍馬は半平太を「アギ(アゴのこと。半平太はアゴが長かったかららしい)」と呼び、半平太は龍馬を「アザ(背中にアザがあったから)」と呼んでいたとのこと。このへん、親密ぶりがよくわかる。
女性に一途というイメージは、半平太は生涯奥さんだけを愛し抜いたから。
殿への忠義心は高かったが、当時の殿であった山内容堂の本心を見抜けず、切腹に追い込まれてしまった。
長州の久坂玄瑞は半平太に脱藩を勧め、長州に来るように言ったが、半平太は切腹になることを恐れずに土佐に戻り、結局切腹させられてしまった。
冷酷で過激・・というのは、土佐勤王党の党首として、後に岡田以蔵などを使って、京都で「天誅」と称した暗殺に何件も関与していたことからくるイメージだ。このへんの半平太は過激で、けっこう怖い。
しかも、以蔵が後に使い物にならなくなると、捨てたりしている。
やがて以蔵が捕まると、その自白を恐れた半平太は、かつての部下であった以蔵を毒殺しようと試みたりした。まあ、このへんは、半平太の闇の部分であろう。
「サムライせんせい」では、半平太の闇の部分や冷酷な部分はあまり描かれていない。
だが、女性に一途で、マジメで、堅物で、品行方正で剣の達人である点はドラマに反映されている。
ドラマ内では、現代にタイムスリップしてきた半平太が、くさいセリフを吐いたりするが、そのくさいセリフも、堅物の幕末のサムライである武市半平太が言うから、違和感なく見ていられたし、むしろ心地よかった。にあっていた。
半平太のような侍が言うなら設定的に納得できる。
これが、現代の若者が言ったセリフだと、くさくて見てるこちらとしては引いてしまいそうだ。
ドラマ中では龍馬も現代にタイムスリップしてきているが、半平太と同じ時代の人間である龍馬ではあっても、半平太の言うセリフは龍馬には似合わないセリフだったりする。
あくまでも半平太だからこそ、そういうセリフがイメージ的に合うのだ。
言葉づかいはもちろん、礼儀作法、年長者や恩人への接し方、など今の感覚で見ると、堅苦しい。今ではそういうのは単に「時代錯誤」だとか「古い」だとか「面倒くさい」とか思われてしまいそうな気はするが、元々そういうのは古来の日本人が持っていた良さでもあったはず。
それを現代人ではなく、幕末の侍が現代人にそれを見せる姿が、かえって新鮮。半平太にとっては、そういう姿勢は「あたりまえ」のことだったであろう。
時にはその堅苦しさがギャグになってしまったりもした。
一方、彼は実際に剣術の師範代の腕前で、幕末の時代には実際に真剣で命のやりとりをしていただけあって、戦闘シーンでは無頼の強さを発揮する。
現代で、地域をふるえあがらせた番長も、凶悪犯人も、半平太にはかなわない。
そこへもってきて、昔堅気の男気を持ち合わせている。周りの人に尊敬されていた、侍としての男気を。
かなり魅力的なキャラクターになっている。
ドラマ時代はコメディであり、幕末の侍が現代にタイムスリップしてくる設定など、いかにもコミックが原作という感じだ。
「仁」のような重厚なヒューマンドラマではなく、あくまでも明るく軽いノリである。
若者向けのような作品でありながらも、その半平太の古風さが現代人に渇を入れるあたりは、けっこう痛快で、幅広い世代の視聴者が見ても楽しめるドラマだと思った。
これはやはり龍馬ではなく、半平太だから面白いのだ。
その龍馬は、現代に順応した今風の人物として登場しているが、心の中では幕末の志士ならではの熱さを持っており、半平太とはコンビとしてドラマ内で大いに活躍する。
コメディではありながらも、幕末ファンのツボを刺激するようなセリフも随所に盛り込まれ、幕末の流れ・・とりわけ龍馬周辺のエピソードを知っていればいるほど楽しめるセリフもよく出てくる。
幕末ファンの私としては、聞いてて思わずニヤリとするようなセリフも多数。
そういう意味では、幕末ファンもしっかり楽しめるような要素も盛り込まれている。
だからこそ、私はハマってしまったのだ。
放送時間帯が金曜の深夜枠・・・夜23時過ぎからの放送というのがもったいないぐらい。
ゴールデンで放送しても十分勝負できる作品だと思った。
半平太の「古さ」が、逆に痛快で、時にユーモラスであり、時に実にかっこいい。
錦戸さんは、ちょんまげ、よく似会うね。
普段のヘアスタイルより、こちらのほうがいいのでは・・・と思ったりもした。
それほど、ハマリ役だと思った。
欲を言えば、半平太が持っていた闇の部分・・・冷酷で過激な要素も、ドラマ内でもう少し顔を出す部分があれば、半平太のキャラは更に凄みのある、強力なキャラになったような気はする。
だが、そうすると、あの愛すべきドラマキャラとしてはマイナスになってしまうのだろう。
ドラマ自体も、少し暗くなってしまうかもしれない。
ともあれ、今回のこのドラマで描かれた半平太像によって、少なくても武市半平太の名前は、幕末を知らない人にも知られるようになったはず。
そして、武市半平太という実在の人物に興味を持った人も多かろう。
そういう意味では、幕末ファンとしては嬉しい。
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