高校の頃、アメリカの文豪エドガー・アラン・ポーに惚れこみ、小説全集を読破した覚えがある。
確か、創元推理文庫版で、分厚い文庫本サイズの全4冊だったと思う。
それまでも「モルグ街の殺人」「盗まれた手紙」「黒猫」「黄金虫」などの存在は知ってはいたが、この全集の存在に気付いて、「この際、全部読んでみよう」と思ったのだった。
ポーというと、恐怖モノ、推理モノ・・などのイメージが強かったが、この全集を読み進んでいくと、ポーの小説のジャンルの幅広さに驚きもし、またリスペクトしたものだった。
なにせ、様々なジャンルの小説が、その全集にはひしめきあっていたのだ。
怪奇ものや推理ものはもちろん、冒険もの、ナンセンスもの、風景描写もの、SFもの、風刺もの・・・いやはや、幅が広い。
ポーって、こんなに色んなタイプの小説を書いていたんだなあ・・・・そう思うと、敬服した覚えがある。
てっきり、恐怖小説や推理小説の作家だと思っていたから。
音楽ではビートルズがそうだったし、漫画では手塚治虫先生がそうであったように、私は、作風の幅の広いクリエーターには憧れるし、尊敬もする。
私のこの傾向は子供の頃からそうだった。
なので、ポーのその幅広さに、憧れてしまったのだった。
だが、このポーの全集を読んだのは高校時代・・という、今となっては遠い過去のことだし、その後この全集は引っ越しなどの時になくなってしまったので、読み返していない。
なので、膨大な数の収録小説のそれぞれの物語は、もう忘れてしまっている。
だが、いくつかの作品の構成要素の1ピースが、今も私の心の中に残っているものもある。
その中の一つが「ナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの物語」という小説。
これは、ポーとしては珍しく、長編小説である。
ポーというと、短編のイメージが強く、また実際に短編小説は多いのであるが、この「ピム」は長編小説だった。
ジャンルとしては、冒険小説。
細かいストーリーはもう覚えてないが、ピムという人物が船に密航し、その船が遭難し、船の中で猟奇的な出来事があり、やがて漂流。
で、その後助けられ、南極探検に向かう・・・そんな内容だったように覚えている。
読み終わった後、私にはこの作品の設定の中で、どうにも気になる要素があった。
それは・・
タイトルにもある「ナンタケット島」である。
小説の中で、この主人公ピムがナンタケット島出身である必要性がどういう意味があるのかは、私の記憶にはない。
ただただ、「ナンタケット島」という島が、どういうものなのかが気になっていた。
この小説に出会うまで、一度も見たり聞いたりしたことがない名前の謎の島だった。
なので、ポーの創作による架空の島かと思っていた。
だが・・
この作品をふと思い出し、「ナンタケット島」という島をグーグル検索してみたところ・・・これは実在の島であることが分かった。
ウィキによると、アメリカのマサチューセッツ州、ケープコッドの南30マイルにある島だそうだ。
位置的には、大西洋にある島・・・という言い方でいいかな。
だが、大西洋のど真ん中・・・・というほどではなく、しっかりとアメリカ大陸の近くである。
ポーの小説を読んだ時、私がイメージしたナンタケット島は、それこそ大海のど真ん中に浮かぶ島・・・どの大陸からも遠く離れた島・・・そんな想像だったのだが、どうやらそれは違っていたようだ。
ナンタケット島は・・・少なくても現在は、観光地であり、有名なリゾート地であるらしい。
かつては、捕鯨港として栄えたらしい。その頃は、今のような捕鯨禁止運動はなく、アメリカもまた捕鯨が盛んであったのだ。
ナンタケット島に関連する作品としては、ハーマン・メルヴィル著の「白鯨」という小説が有名らしい。
そのタイトルは私も知っているぐらい、かなり有名な作品だ。映像化もされているらしい。
だが、不勉強なことに、私はこの「白鯨」は、小説も読んでなければ映画も見ていない。
なので、やはり、私にとっては、ナンタケット島と言えば、ポーの「ナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの物語」なのだ。
たとえ作品中で、ナンタケット島というものが大きな意味をなしていなくても。
「白鯨」は、有名な作品ではあるものの、現地の人は、よそ者が思うほどには読んでいないらしい。
「白鯨」のような有名な作品でさえそうであるなら、「ナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの物語」は、なおさらかもしれない。
なので、ナンタケット島に仮に行くことがあったとしても、現地人にポーの小説のタイトルを持ち出しても、あまり意味はなさそうだ。
ナンタケット島は、1691年まではニューヨーク州デュークス郡の一部だったらしい。
ポーの「ナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの物語」が発表されたのは1837年というから、ポーがこの小説を発表した時は、すでにナンタケット島はマサチューセッツ州に属する島だったことになる。
この島の捕鯨は、南北戦争(1861~65年)が勃発するまでに衰退したらしいが、ポーがこの小説を書いた時はまだナンタケットは捕鯨の島であったのだろう。
ちなみに、メルヴィルの「白鯨」は1851年発表だというから、ポーの「ナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの物語」のほうが先に書かれたことになる。
ポーの作品のほうが発表は早いのだが、「ピム」の話はラストが未完・・・っぽい終わり方だったようだ。
・・ようだ・・という書き方を私がしたのは、この作品のラストを私はよく覚えてないせいだ。
未完っぽい・・・そんな終わり方だったことが、この作品はポーの代表作には挙げられない理由の一つなのかもしれない。
あくまでも、私の推測だが。
今ではナンタケット島は、富裕層の高級別荘地として有名らしい。
飛びぬけた観光名所があるわけではなさそうだが、国立歴史地区の指定を受けており、島には南北戦争前の建物が集中して残されている・・・という意義があるようだ。
何本もの映画やドラマの舞台ともなっているし、「ファンタジーの故郷」とも言われているとか。
日本人になじみのある点というと、なんと! あの東京ディズニーシーのケープゴッドは、ナンタケットの町並がモデルになっている・・ということだろう。
そんなことを知った上でナンタケット島を訪れると、楽しみは倍増することだろう。
かつて私が「架空の島」と勘違いして、色々頭の中で勝手に想像した「謎の島・ナンタケット島」は、今現在の実在するナンタケット島はだいぶかけ離れてしまっている。
このネタを書くにあたり、ナンタケット島のことを調べて、わずかではあるがナンタケット島のことを知れば知るほど、その隔たりは大きくなった。
私の中の冒険ファンタジーの謎の島ナンタケットは霧の彼方に消え、その代わりに、素敵なリゾート島がナンタケットという名前で浮上してきたような気分だ。
とりあえず言えることは、今現在、現実のナンタケット島は、とても素敵な島のようだ・・ということだ。
蛇足だが・・・
大学時代、私は、同輩の同人誌や、先輩の同人誌などに、小説を投稿してたりしたことがある。
その自作の小説類は、どれもポーからの影響が絶大だった。文体も、着想も。
で、当時書いた小説の一つは、この「ナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの物語」の影響が色濃くでていたことを、今再認識した。
私が「ピム」の影響で書いた小説は、「ピムの物語」に地球空洞説を混ぜた、海洋冒険小説だったことを思いだした。
ちなみに、当時書いた私のつたない小説の原稿は・・・・もう紛失してしまい、残っていない。
もしも原稿が残ってたら、ナンタケット島に埋めて、原稿の埋葬でもしてあげたい気分だ(笑)。
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