酒馬鹿三兄弟、次男の岸壁はしご酒

酒は飲んだら飲まれましょう、しかし仲良く。拙い酒と乱暴ポエトリ月夜の酩酊ランデブー

アンダーカバー

2016-01-22 17:33:34 | 






葉子は
俺に酒の飲み方を指南する、可愛いセラピストのように。

健康的に飲んでいますか。
たしなみを持っていますか?



節度と言うものと無縁の男に、
健康的な酒が飲めるものか、
それは自信がないが、

医者にもお酒が体調のすべてを狂わせていますね
と言われれば、
言い返す気も確かになかった




俺が狂っているのとしてそれが、
酒のせいならば
喜んで酒なんかやめていい
飲まないことで正常になるのなら
代償なんか求めない。が、


しかしそいつもまた間違いだろう



俺は狂わない為に
一つのグラスを抱いてソファーに寝そべっている

ウォッカの瓶がこの世から全て無くなったら
俺はなにかに向かって叫び続けるだろう
きちがいのように。

プラシーボさえ無いこの世の中で、


ただ一つ葉子にも俺にもわかることは有るとして。


子供を持つ身になった俺は親になり
どうやら命が惜しいと思うようになった
健やかに生きることも知った、かもしれない。

娘とのささやかな楽しみに夜を費やすのも厭わないと思った
過度の酒がその夜を妨げる


であれば、
俺は酒を注意して飲むようになるだろう



葉子の進言は
時宜を得ていたという事だ












NEW BORN

2015-11-27 18:37:49 | 




闇雲に俺は真実を隠し、
短い手紙を書いている

切れ切れに。

他愛のない、昔の知り合いの女の子供の話などだしにして
そろそろ喋り出した頃の赤ん坊を持つ、
おんなの元に
小さな細切れの手紙を書いている



もう今は雲隠れする事も無く、
大胆に手を振って、
自分の生活について
ずいぶんと年季の入った母親のように口にする



俺が途方に暮れるのもしらず





葉子の喜びを頓狂な顔で俺は称えてはいるが
悲しみが目の色に表れてもいる

彼女は恐れ為す事も無く
愛と結晶の名において、もうじき二度目の産声を聞くだろう
本物の愛があるとすればきっとそれに辿り着いたろう


それを知るこの夜の為に
俺は生きてきた

一つの夢と違った、またもう一つの夢を叶えようと
生きてきた




つまりそれは願いと共に死んでいくと言う事だ



少しも受け入れ難い事ではない

ただ、祝うために、ほんの少しの塩辛いスコッチが欲しい











五月晴れの 、 雨の夜では

2015-05-14 12:10:15 | 


”わたしは元気よ”


それは

その声は
ひらひらとした紙に書かれていただけで

何の音もしなかったが

俺にはその時その日、女が
“私大丈夫よ”
とはにかんだ様に
耳に聞こえた気がした


相変わらず

無理して明るく振舞って
小さく重い物を、
背負っているように聞こえた。

明るく、笑顔で、
それは何よりあの娘の取り柄なんだが。



俺はその部屋から出て行ってしまったし、
彼女は幼子を努めて育てている

まだ会う事も無いだろう
声の代わりの
ひらひらした紙でも
俺は十分だ
胸のつかえが少しは取れたかもしれない


ほんとにあの子が笑顔で幸せならば

俺は会う必要もなく
バーボンを一日6杯飲んで寝るだけだ




dirty texture

2014-11-07 13:06:14 | 






"楽しい酒を飲みなさい、"
と言う医者もいる、



その反義語がおれにはよく分からない

楽しい酒がわからないでもない

しかし酒に、
背景があるとすれば

世界にその姿は多い。


昨日は弔うように飲んだ、
仕事場で一人残り、最後の鍵を閉め
駅前の、場末の酒場の、
バカ騒ぎの中でおれは一人で静かに飲んだ、




よく話もしない、
パートタイムの女が一人
てんかんだろうと医者に言われたらしい

職場に伝えると
契約の更新は止まった。


この年が終われば女は居なくなる
治療をし、薬を飲み続け新しい仕事を探し
男に見捨てられるかもしれないと、不安な日々を過ごすのかもしれない

おれは特にする事も無い
同情しても治療代も払えなければ新しい仕事を探してやる事も出来ない



酒を飲んでも何も変わらない
年上の女は言う


もっともだ





やるべき事を探せればいいが
俺は安っぽく変わらない水のような酒を飲んでいる
















すべて夜に

2014-10-14 17:38:50 | 





夜になる、
俺の精神は萎えてしまう
不愉快な想像力のが消えず
弱い感じになっていく

それで俺は酒を口にして
胸を撫で下ろしたりしていて
夜毎のウイスキーで、無意味に威勢のいいこともあるが
大抵は虚勢だ

それでも朝にはおれの精神は少しあたらしくなる
日毎、太陽に晒される労働で、不愉快な想像力は湧き出る隙もない


そして俺はいつの夜も萎えていく

死んだ猫 幼い娘
終わらない返済、断ち切れない過去
何もかもがおれを弱いものにするが

たとえ虚勢でも
俺はウイスキーを注ぎ、
悪いことには全部蓋をして
忘れるようにする

無実の者とはいかないが
神様おれに押し付けるのはお門違いだ、と
ちょっと歯向かってみる、

そんな感じだ


9年の日々

2014-10-02 08:57:50 | 









生後一か月の猫がおれのところにやってきたのは
冬の終わりの頃だった

メスだった。
か細い声で鳴いたが、威勢は良かった


おれはなんと言うか、パンクスとか
刹那主義とかを思っているくせ
なぜ猫なんか。




どちらかと言えば
鳥は鳥かごから放してやりたかった
犬は野良で吠えていればいいと思ったし

野性というものに惹かれているはずだった


それでも猫を愛した
いたずらに腹を立てたが
嫌いになることは一度もなかった

何の役にも立たない猫の手が
おれの心を掴んだ


かつては、
手放したくない女が何人かいたにはいたが
今はほとんど忘れてしまった



昨日、
9年という日々を過ごした猫が死んだ





おれはしばらくは、
その猫のことを忘れることはないだろう














ときどき黒くなりそうな事

2014-06-10 18:01:39 | 



しまいには
泣き出しそうな
もし
彼女がそうだとしても
出ていく俺は

責任を感じない

まったく人が人を信用しない世の中で

彼女だけを信頼してもいいが、
世の中はつまり社会は
誰もが食い散らかしているだけなので、
同情することができない、
不憫で、不幸で、いつもいつもなげくしか無く
俺たちは常に煮え湯を飲まされた。

それでもあの娘には
俺は何か気の利いたことは言えない



逃げ出すという事が
生き延びるという事



それを甘ったるい人間関係のせいで覚れない


小さな戦闘機でアメリカの戦艦にでも特攻したいなら
あの女をきっと許すだろう。


それの意味が分っているのだとしたら、だが。

クソったれ その2

2014-01-10 17:05:54 | 





また始まったこの体の
悪い夢のような、左腕の、脚のしびれは
もう20年も前になる兄貴の、予兆のようだ

20年前の真夏の日、
左半身を痺れさせ、倒れ、担ぎ込まれ
兄貴から職と栄誉を奪い去った
視床下部脳梗塞


俺のからだにも爆弾の様に仕組まれてるように感じる予兆

それでも俺は俺に根性と言い聞かせる
俺を守るものを守れ、と、発破を掛ける

そしてそんな自前の説法が俺の詩作の原点だから
誰も読まない物だとしても一向に構わない


俺は俺が生き続ける為に書き始め、
病の予兆が起こるたびに
タフになれと言い聞かせる、





こう書きながら、

俺は倒れることは無い
そのうちぶっ倒れるだろうと言う想像は拭えないのに
俺は倒れることは無いと決意する

俺を守るものを守ることが俺を守ることなんだ
呪詛の様に神さまを罵倒するのも、同じことだ


おれはおれの為に生きているわけではない
誰かに生かされてるとすればそれは天の神さまにでも無い


虫や、犬や稲妻や、
流れる血のおかげで俺は生き、
そして今すぐは決して倒れないと俺と契る


この声明を誰も読まないとしても一向に構わない、
生きる為の肉声を、書いているだけだからだ、

ただ一言で書けば
恐怖に

克つ為に書いているだけだ



へいちゃらだ、

百もの能書き

2013-12-28 08:05:31 | 





俺は俺の役割を終えもせず
ソファーで赤ワインを飲んでいる、
瓶から直接
猫はとにかく寒いのは懲り懲りだと言わんばかりに
傍のクッションに埋もれている
食べ物はきっと腹をこわしそうなテリーヌだけが
冷蔵庫で半分傷み
冷えて美しいビールだけが冷蔵庫に鎮座まします


俺はワインを飲んでいる
グラスもなく、瓶に口をつけ
俺はただ待っている、
役割も終えず
ただそのまま何もかも終わってしまうことを






Ugry all day

2013-12-27 12:31:37 | 





俺は何かをぶち壊した様な気がしているが、
また別の事にも係わり合っていて、それどころでもない

消え入りそうな冬の太陽を眺め
朝からウォッカを求めている、少々クレイジーだが


そんな日に、
電話一本でも気分は変わるものだ、と
あの女と話し終えて思う

大した話はしていない、
小さな娘のこと
これから産まれる子供の事




俺は全てを思い出す、
あの娘はその全てを知らなかっただろう、

ただその姿を見たかったためだけに
芝居がかった、ハイキングのようなチームを作ったことを

あの娘が好きだと言ったオレンジの色、
だから俺は20周年パーティーとか言うやつに
沢山のオレンジのガーベラやアルス、
グロリオサの花を会場中に飾ったこと


あの娘がランウェイを、モデルの様に歩いたらサマになるだろうか、
そう思って、夜のパーティーで
俺は音楽を鳴り散らかし、
彼女は、赤い帽子を着飾り、ポーズを取ったことを


全ての取るに足らないことは常に彼女の為にあったことを



この街を出て行く女たちに、俺は何度か花を贈ったが、
それも、最後にはあの娘に一番の大きな花束を
それも沢山のオレンジの花の、
それを贈る為の前説にしか過ぎなかったことを


しかし、あの娘に花束を贈るチャンスはもうないだろう


それでも今日声が聴けたことで

何かをぶち壊した様な一日は





クソのような日ではなくなった








8ヶ月

2013-12-09 14:01:04 | 





俺は素面でそれが見られるか心配だ
しっかりと目を合わせられか、自信はまるでない

朝の8時半、ホテルのロビーで
俺は素面で、何気ない振りで
心臓と言うか魂が萎えているのが分かる


が、しかしガッツを振り絞る
どうしてって、
それは彼女のもっとも栄光に映えた姿だからだ
娘と一心同体になって
すでに俺には届かない光の中から
なんと笑って手招きをし、俺にその子に触れろと腹を突き出す

その目を見つめていたら
忘れていたものがいくつも呼びだされ
危うく膝をつきそうなほど
ガッツは萎えていた

それでも俺は詩の朗読の為に
バッジを受け取り、胸にネームを貼り付け
堂々と踵を返す、
振りをする。

どいつもこいつもの聴衆の為に
俺は来たくもない海辺にいるが、

気付けばかがんだ俺の隣には
眩しいあの女が同じ姿勢で微笑んでいた。




不覚にも俺は泣いていた








Soul for siren

2013-12-04 12:49:36 | 





世の中にある全ての無駄な事は

詩作についてだけ
予言に溢れている



 

10の螻蛄

2013-12-02 10:56:33 | 


男は
若く、野性的でいながら
煙草を咥え、俺のやることには意味があるんだろうかと
将来を夢見ながら息を切らしているようだった

若く、それでいてインテリで
どうしてもキルケゴールやダンテを読み続け、
深く自分の内部を探っていく

理知に富めば、明日の自分の危うさを
嫌でも知るだろう
図太くなるには、まだ彼には少々敗北が足らない
アントニオは、”バカになれ”と叫ぶが、
かといって誰もが無神経になれるわけでもない

または
カート・コーベンが言ったように
ショウビジネスの世界では
もっと鈍くないと生きていけない
だとしても、それはヘロインに溺れた内省的な男の哀れな言葉に過ぎない

“男はタフでなければ生きていけない”
古めかしい私立探偵の名台詞には
優しく無ければ生きていく資格が無い
と言う追いの句があるのは有名な話だが

だがそれでも
やはりタフでなければ生きていく資格が無いだろう

敗北の味はきみをきっとタフにするだろう

詩を書く男の中に、タフな男を見かけたことがあるが
大抵は臆病者だ、俺も例外にもれない

敗北のあとの苦い酒は、臆病者を少しだけ奮い立たせてくれるものさ

だから俺は
きっとその青年と、
一本のテキーラを分け合うだろう
そして6本のビールを続けるだろう、

この世に実現するかもしれない夢がある限り、
男に臆病風なんぞ許されるわけもない










25年目のスピリッツ

2013-10-17 17:56:55 | 




葉子が、雲隠れしていた彼女が
子を孕んだらしい、
素晴らしい
加えて良いことに、それは俺の子供でない
相手の男の事は全く知らないので、
そいつにお祝いを言うわけではないが。

なにか昔、予感めいた事を思った気がするが、
女が子供を孕むのは必然でもあるだろう、
アフリカだとして、アフガニスタンだとしたって、
どんなに枯れようが荒もうが

この世にDNAと太陽がある限り、
人はこの運命から手は切れない、

どんなに荒涼で、見えない世界だとしても
男は跨り女は撓り愛に似たしかしそれほど高潔でもない一滴が
実ればまた人間だ、見渡せば、
呆れるほどの人間の数で
東京なら幾分うんざりするが
胎児のいる女には、見えなくても感じる新世界が有るだろう、

産まれて来た子供が笑う時、
誰かしらも、涼しい風が吹いた時の様な表情になる、
幼子が、この地上に足りない物をまだしっかりと持っているからかもしれない
やがて失ってしまうかもしれない道

答えにならない物を答える何かがタオに有るように
タオを通じて子供の心に見えるような気がした
ようやく道が何なのか、判りかけて来たようだ。

25年も飲み続けている酒を横に、
9杯目のタンカレーオンザロックを飲みながら。



そして俺は何を失くしたか知る気はしない







sails must be harder

2013-10-09 17:45:55 | 






あの娘の笑顔は、
夜の酒場で及第点だ
もっともくだを巻く酔った男たちの隣の席でではない

カウンター
の中で


ボトルから氷のグラスへ注ぐ、エヴァンウィリアムス
何事もない仕草でクールに決めている
しかし笑顔は発せられている

酔った中年たちはみっともないくらい
その振る舞いに見とれているが
むしろ彼女は、
その視線を無視しながら
愛嬌を振りまく事に長けている

噂が噂を呼び
時にはバーに、
夥しい人数の酔った男たちが
汚い札を握りしめ
殺到する夜もあるだろう、
どこかでグラスは割れ、
年増の娼婦たちは
ジェラシーでみだりにテーブルを汚し
些細な諍いも絶えない店で
それでもあの娘は
ボウモアやヘネシーやルイ13世を
クールにきめてボトルを振るだろう

どんな夜が来たとしても
この店は地上には無いので

つまり

その船の上では少々覚悟のいる事だろう


風にマストは大いに揺れる




船が長い一廻りを済まして
いつかここに戻る日があるとして
その時は

陸上の酒でもご馳走しよう