夜勤明けの夫が、仮眠から起きてきて、
私の顔を見て、思いついたように、
犬を連れて、出かけようと言った。
山の日に、私は何も予定など無かったから、
気分転換になればと思い、喜んだ。
車を走らせた時は、暑くて一瞬たりとも外に出られないと思った。
気温は、37度。
高速道路をひた走る。
他府県のナンバーの車が、沢山走っているのを見るだけで、ワクワクした。
高速を降りると、ドライブウェイを使って、山をぐんぐん上がっていった。
いきなり、1000メートル以上上がったところで、車を降りた。
時刻は、5時半。
そこは、雲の中の世界だった。
その雲が、風に流され常に姿を変える。
途切れる合間には、眼下に多くの山並みが広がり、
そこに雲海を見た。
夫と私は、犬を挟んで、ベンチに座り、
日が暮れるまで、景色をずっと見ていられた。
何気なく握ったおにぎりを
夫は、美味しいと言って、何個も食べていた。
平凡な夫婦の姿だなあと思った。
日暮れと共に、駐車場には車が増えて、観光バスも数台入って来た。
私たちは知らなかったが、
ここで今夜、天体観測のイベントが行われるらしかった。
スタッフのマイクの声が聞こえ始めた。
日没だ。
寒い。
そう思って、長袖を羽織ったとき、
彼の言葉を思い出した。
つい先日、彼は、朝晩は、肌寒いと言っていた。
夏の大三角形が、見えてきた。
織姫と彦星は、そのうちの二つだった。知らないことばかり。
さらに説明が聞こえてくる。
その間に、天の川が見えるのだけど、今日は、月が明るいから見えないらしい。
また思い出した。
彼の家からは、天の川が見えると言っていた。
彼は、星のことも、よく知っていた。
私も蠍座が、どれだかわかったよ。
北斗七星も、見えて来たよ。
やがて、また、空が雲に覆われて、何も見えなくなった。
イベントは、まだまだ続いていたけど、
私は、寒そうにしている夫に言った。
そろそろ帰ろうか?
車の温度計は、20度。
私は、心の中で、彼に言った。
ねえ、今日はもしかしたら、あなたに少し、近づけたかも?って。
日付が変わる頃、家に帰って来た。
相変わらず、蒸し暑い夜だった。