気の遠くなるほど自転車をこいでいると、ある感覚は麻痺してくるが研ぎ澄まされるものもあると思う。
私の場合はふと感じる匂いが気になる。
望月の街を通り抜けるとき、ほのかに味噌の香りが漂っていた。
両側から民家が迫る、旧街道。
匂いも逃げ場がなく漂い続ける。
古くからの味噌屋でもあるに違いない。
市街地から田園地帯に入ると途端に田圃の匂いがしてくる。
草いきれとも違う、水と草の混ざったような懐かしい匂い。
戸倉温泉街はお祭りの最中だった。
綿菓子などの香ばしい匂いと夜店を照らす裸電球が郷愁を誘う。
時間の流れに抗おうと自転車をこぎつづけ、いつしか時空間を超越したような錯覚に陥る。
しかし通過する場所ごとに固有の匂いがある。
嗅覚への刺激は、私に途方もなく永い時間の蓄積を連想させる。