アリ@チャピ堂 お気楽本のブログ

日々の読書記録を勝手きままに書き記す

読む順序が、その本の意味合いを大きく変えるという体験

2010-10-11 22:44:02 | フィリップ・K・ディック
「流れよ我が涙、と警官は言った」 多世界解釈に基づくハードSFであったのか


「流れよ我が涙、と警官は言った」“Flow My Tears, The Policeman Said” 1974年作品
友枝康子訳 サンリオSF文庫 1981年発行

ディックはいい加減なことは書かない
幻覚も自身のLSDなどの薬物による体験をもとにしていたり
多くの小道具には文献にあたって論理的に補強された
それなりの裏書きのあるものが多い

もちろん惑星間航行ロケットやタイムマシンなどは
SF小説的常識の範囲で自由に使われていたり
プレコグの実在世界への関与などでは平気で矛盾を無視したりしていることも事実である

これは、その道具ごとへのこだわりより
その小説に対するディックの思い入れの問題もあるのだろうか

この小説の主人公は誰なのだろうか
題名から明らかで迷うことはないとも思えるが
前半から後半えと視点の転回はいつもながらディックらしい
そこには読者を「はめる」ディックの意図が働いているのかもしれない

いずれにしろ「自分が存在しない社会」に引きづり込まれる
そこからの回帰についての描写はディックらしく面白い

前に、「量子力学の解釈問題」という本を紹介した
そこで語られている並行世界のイメージが(きわめて科学的根拠を持った)
ここでは巧妙に使われている
初めてこの小説を読んだ時にはこの論理を知らなかった
それを知った今読み直してみると
ディックのめくるめく世界はすべて薬物による幻覚が創りだしたものではなく
科学的に示された論理に基づいた可能性の表現であると思える
ある意味、とてもSFらしいSFなのかもしれない


「流れよわが涙、と警官は言った」 友枝康子訳 ハヤカワ文庫 1989年発行


1996年 第8刷カバー


2009年 第13刷カバー



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