朝井まかて・著
2022年1月 祥伝社
牧野富太郎の伝記小説。
牧野は日本植物学の父と呼ばれ、来年の朝ドラで取り上げられることが決まっているそうだ。
だからというわけでもないだろうが、人気本だ。
朝井まかて氏は綿密な調査を元に着々と描いて行く作家、決して歌い上げることはない。
牧野は明治、大正、昭和の近代日本の土佐、6代続いた裕福な造り酒屋の一人息子でありながら、植物研究にしか興味を持てず、その常識破りで波瀾万丈の生き方には度肝を抜かれる。
これはどんな書き方をしても面白くならざるを得ない。
生き方、考え方自体が作品なのだ。
植物研究の他は、金銭にも名誉にも興味を持たない、というより持てず、ゆえに実家は潰れ、借金取りに追われ、常に貧乏人の子沢山、学歴も肩書きもなく生涯を植物研究に捧げた。
その突き抜けた生活能力のなさが、人の注目を浴びて生き抜いてしまうのだから、何事も徹底すれば怖いものはないということか。
植物図鑑という最も地味な分野に、この情熱。
好きということこそが、才能なのだろう。
彼のおかげで今日の植物図鑑がある。