文 美 禄 ( bunbiroku )

美禄にはいままで一切縁が無かった。かといって、決して大酒飲みでもないし美酒を求めてきたこともない。忘備録になればと。

岡潔の言葉 ( その12 ) 

2016年11月30日 05時30分25秒 | 岡潔
 情操教育が進んで、 欲望と情操との限界、 これを 「 情界 」 といいます、その情界が上がってゆくに従って、 漫画的なものは見るも醜悪で顔をそむけたくなるか、 または怒りがこみ上げてきます。 これは公憤であって、 私憤ではありません。
 ここまでお話してきまして、私は情操教育で一番大切なことが何であるかを、 ようやく自覚することができました。
 「 何よりも漫画的なものを見せないこと 」 であります。
 これが道元禅師の特にやかましくいった 「 諸悪莫作 」 であります。

   「 月影 」 ( 情緒と日本人 165頁 )   注: 諸悪莫作 ( しょあくなすなかれ )


岡潔の言葉 ( その11 ) 

2016年11月29日 05時14分31秒 | 岡潔
 数学によく似ているのは詰将棋である。 これは詰まらないからいかにも不思議に思う。 だからおもしろいのである。 そういうときは盤や駒は使わない。 目はやはり閉じているのだが、 額の裏とおぼしき所に盤と駒が見えるのである。 詰めが終わって小便に立つと、 便所の壁にハッキリと将棋盤と駒が映る。 これは肉眼で見えるのである。 「 月影 」 ( 情緒と日本人 108頁 )


「 数学する人生 」 を読んでいます。

2016年11月27日 08時17分44秒 | 岡潔

数学する人生

数学する人生

  • 作者: 岡 潔
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2016/02/18
  • メディア: 単行本


  「 松原さおり/父、岡潔の思い出 」 を 5 回 にわたって掲載しましたが、これは今回掲載した 「 数学する人生 」 岡 潔、森田真生編 の 「 刊行記念インタビュー 」 の記事を一部掲載したものです。 (全文はネット上で読むことができます) 読みかけですが 「 数学する人生 」 には、 岡潔氏の書いたり語ったりした内容が、 凝縮されているようです。


父、岡潔の思い出 (その5) (完)

2016年11月25日 07時53分35秒 | 岡潔
 父は私たちによくこう言いました。 「 何かやりたいこと、 成したいことがあったら、 一生それを思い続けなさい。 一生思い続けて駄目だったら、 二生目も、 三生目も思い続けなさい。 そうすれば、 やがて実る 」 。
 岡潔に関してとにかくびっくりするのは、 普通の人には見えないところまで、 ものが見えたということです。 父の前に座って何も口にしなくても、 私が何を考えているか、 見通していたでしょう。
 表面に出てきた事物を見て、 出るに至る心の軌跡を見通してしまうのです。 世間的、 物質的なことにはとらわれず、 心を綺麗にして、 真摯に自我を張らずにやっていると、 段々心の目がよく見えてくるのでしょう。
 こういうことができたのは、 父の人間が古いからなのだと私は思っています。 何生も生きてきたその 「 生 」 の数が多いのでしょう。 積み重ねてきた経験がたくさんあるから、 ずっと先の方まで見通すことができた。 そういう意味で、 父は古い人間で、 誰よりも心優しく、 信頼できる人でした。

[ 岡 潔、森田真生編 『 数学する人生 』 刊行記念インタビュー ]
松原さおり/父、岡潔の思い出 聞き手・森田真生 (独立研究者)


父、岡潔の思い出 (その4)

2016年11月24日 07時41分45秒 | 岡潔
 父は、 「 人を先にして自分を後にせよ 」 という家訓のもとに育てられました。 私もこの教えをずっと貫こうと思っています。 父の思想にはいろいろな側面がありますが、 根本は、 「 自分を後にする」ということだと思います。 つまり自我を抑えて真我になる。 そうすると自他の区別がなくなる。 自分も他人も自然も同じ心の中の一つの個になる。 だから父は、 びっくりするほど心が澄み切っていました。 人のことを構わず、強い物言いをするときもありましたが、 それは他人だと思っていないから。
 とにかく、 自我をのさばらせないこと。 子どもを育てるときには特にそうですが、 これがすべてに通じる基本だと思うのです。

[ 岡 潔、森田真生編 『 数学する人生 』 刊行記念インタビュー ]
松原さおり/父、岡潔の思い出 聞き手・森田真生(独立研究者)


父、岡潔の思い出 (その3)

2016年11月23日 05時35分19秒 | 岡潔
 講義もそうですが、 この書はもっと難解です。 いま読まれると誤解されることもあるだろうと思います。 それでも、 二百年後か三百年後かに、 理解される日が来ると信じています。 それまで、 きちんとこの作品を残しておきたいと思います。
 近くで生きてきて一つ言えることは、 父は、本当のこと、 確信していることしか口にしないということです。 いつどんな場合でもそうでした。
 だから、 岡潔の言っていることは、 全部本当だと思っているのです。 「春雨の曲」にも、 講義録にも、 わからないところはたくさんありますが、 わからないのは私が幼な児のように無垢じゃないから。 それでも、 ここに書かれていることはすべて真実だと思って読んでいます。 私が人としてもっと成長した将来、 これは常識として受け止めているでしょう。

  [ 岡 潔、森田真生編 『 数学する人生 』 刊行記念インタビュー ]
  松原さおり/父、岡潔の思い出 聞き手・森田真生(独立研究者)


父、岡潔の思い出 (その2)

2016年11月22日 07時46分37秒 | 岡潔
 父は、 「 人を先にして自分を後にせよ 」 という家訓のもとに育てられました。 私もこの教えをずっと貫こうと思っています。 父の思想にはいろいろな側面がありますが、 根本は、 「 自分を後にする 」 ということだと思います。 つまり自我を抑えて真我になる。 そうすると自他の区別がなくなる。 自分も他人も自然も同じ心の中の一つの個になる。 だから父は、 びっくりするほど心が澄み切っていました。 人のことを構わず、 強い物言いをするときもありましたが、 それは他人だと思っていないから。
 とにかく、 自我をのさばらせないこと。 子どもを育てるときには特にそうですが、 これがすべてに通じる基本だと思うのです。

  [ 岡 潔、森田真生編『数学する人生 』 刊行記念インタビュー ]
  松原さおり/父、岡潔の思い出 聞き手・森田真生 (独立研究者)


父、岡潔の思い出

2016年11月21日 05時24分21秒 | 岡潔
 とにかく、集中しているときは、研究以外のことはなにも無くなってしまうのです。
 これも私が十歳の頃ですが、 あるとき父が考え事をしながら向こうから歩いてくるので、 ちょっといたずらをしてやろうと、目の前に行って、 仰々しくお辞儀をしてみたことがあります。 すると父は、えも言われぬ優しい笑顔で、びっくりするほど丁寧にお辞儀を返して、 そのまままっすぐ歩いて行きました。 いくら集中しているとはいえ、 娘と認識してもらえなかったのですから、 このときはさすがに戸惑いました。
 いま思えば父はそのとき、 理屈も言葉も何もない「情」だけの世界にいたのです。 だからあんなになんともいえない笑顔だったのでしょう。

[ 岡 潔、森田真生編 『 数学する人生 』 刊行記念インタビュー ]
松原さおり/父、岡潔の思い出 聞き手・森田真生(独立研究者)



岡潔の言葉 ( その10 )

2016年11月15日 07時33分01秒 | 岡潔
 情緒がよくわかるように教育するとどういう利益があるかを、 一つだけここで言っておこう。 情緒がよく見えるようになると、 自分の今の心の色どりがすぐにわかるから、 いやな心はすぐ除き捨てるようになる。 これは実に 「 念の異を覚する大菩薩の戒 」 の守り方である。 それが一般の人たちに容易に実践できるようになると、 そうなるとどんなによいだろうとお思いになりませんか。  「紫の火花」 ( 情緒と日本人 146頁 )


岡潔の言葉 ( その9 ) 

2016年11月11日 14時51分43秒 | 岡潔

情緒と日本人 (PHP文庫)

情緒と日本人 (PHP文庫)

  • 作者: 岡 潔
  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 2015/04/03
  • メディア: 文庫


 心の眼が開いていないと、 もののあるなしはわかるが、 もののよさはわからない。 たとえば秋の日射しの深々とした趣はけっしてわからないのである。
「 月影 」 ( 情緒と日本人 47頁 )