人の情緒は固有のメロディ—で、 その中に流れと彩りと輝きがある。 そのメ口ディーがいきいきしていると、 生命の緑の芽も青々としている。 そんな人には、 何を見ても深い彩りや輝きの中に見えるだろう。 ところが、 この芽が色あせてきたり、 枯れてしまったりしている人がある。 そんな人には何を見ても枯野のようにしか見えないだろう。 これが物質王義者とよばれる人たちである。 生命の緑の芽の青々とした人なら、 冬枯れの野に大根畑を見れば、 あそこに生命があるとすぐわかる。 生命が生命を認識するのである。 こうした人にはまた、 真善美の実在することもわかる。 しかし、 物質王義者には決してわからない。
「 春風夏雨 」 ( 情緒と日本人 27頁)
「 春風夏雨 」 ( 情緒と日本人 27頁)