阿武山(あぶさん)と栗本軒貞国の狂歌とサンフレ昔話

コロナ禍は去りぬいやまだ言ひ合ふを
ホッホッ笑ふアオバズクかも

by小林じゃ

豊島嘉兵衛編「狂歌集」

2022-03-22 21:06:15 | 栗本軒貞国
 国会図書館デジタルコレクションで狂歌の本を読み進めるうちに、タイトルの狂歌集に、「徒然の友」に載っている貞国の贈答歌と似た歌があった。引用してみよう。


   来て見れば名も廣嶋にひろひろと
    七ツなからにねておられけり

   はつかしやいなか木綿のおりわるふ
    おまへにめをはあけてもろふた


この狂歌集の編者、徳山村の豊島嘉兵衛氏は明治初年の山口県においては屈指の豪商であったという。ウィキペディアの徳山藩の項に名前があるから幕末の生まれなのかもしれない。狂歌とのかかわりについてはわからないのだけど、この狂歌集は作者名の入った歌は一つもなくて、題や詞書は数首に入っている。この二首もこれだけでは状況がわかりにくい。次に徒然の友の「貞国のはなし」を引用してみる。


    ○貞国のはなし
廣島に貞國(ていこく)とて狂歌(きようか)の名人ありしが或日の夕方一人の狂歌師尋ね来りけるに折節(をりふし)貞國うゝた寝(ね)してありければ

 貞國と名は廣島にはたばりて七つ半(なから)でねてをられけり

とよみたりしかば貞國目をさまして返しに

 はづかしやいなかもめんのをりわるふ目をばそなたにあけて貰(もら)ふた


ここでは、最初の歌の「はたばりて」という言葉に着目して貞国は織物の縁語を畳みかけて返している。徒然の友には出典の記載はなく、この歌が本当に貞国作かどうかは確信が持てないのだけど、軽快に縁語を駆使する貞国初期の作風に似ているとは言えるだろう。

一方、豊島氏編の狂歌集では、はたばりても貞国も出てこないが、広島という地名は入っている。また、二首目も伝言ゲームのように語句や語順が異なっている。これだけではどちらが先とか決められないのだけど、狂歌集の方には他にも私が知っている歌に似ているけど微妙に違う歌が入っている。例えば、

   
   達磨とのちとこちむきやれ世の中は
    月雪花に酒と三味線

   世の中に酒とおんなはかたきなり
    とふそかたきにめくりあひたし


など、南畝の歌と少し違ってるような気もする。これをどう考えるか。また、この狂歌集には南畝の他、貞徳、貞柳、貞佐、一休道歌などが確認できるが、この本が出版された徳山など周防を詠んだ歌もある。


   とく山の富はうとんかそうめんか
    ひへたともいふのひたともいふ

   そろはんの橋は二一天さくか
    人けんわさとは誰か岩國


「二一天作の五」といって、旧式のそろばんの割り算の九九のようなものらしい。昔は掛け算だけでなく割り算も覚えなければならなかったようだ。算盤橋といえばもちろん錦帯橋のことだ。この他、フグを詠んだ歌など、周防の人が作った狂歌も多数入っていると思われる。貞国の周防の弟子と編者の豊島氏の間に何らかの接点があって、貞国のエピソードを伝える歌が入ったとも考えられる。もう一度、周防の柳門の系譜が書いてある栗陰軒の本を当たってみないといけない。