昨年、ドイツの陸上選手権の走り幅跳びで義足の選手が健常者を超えて優勝するというニュースがありました。
この時着用されていた義足は、ヘラのような形状の競技に特化した義足でした。
(こちらは今回の展示の「ドライカーボン製陸上競技用義足」。
上記のニュースの競技で使用されたものではありませんが、陸上競技ではこういった形の義足が使用されているんですね。)
義足であることが目立たないように人の肌に近づけた義足ではなく、このようにスポーツに特化した”機能”や、義足であることを隠さずにファッションの一部とも捉えられるような”美しい形状”など、デザインされた新しい義足を提案する展覧会が東京大学で開催されています。
Designing Body 美しい義足をつくる @東京大学生産技術研究所
工業デザインの分野で有名な東京大学・山中俊治先生の研究室で7年にわたって取り組まれてきた「美しい義足」プロジェクトと、これからはじまるプロジェクトについて紹介されています。
(こちらは女性選手とともに開発が進められた競技用義足。実際に使用されたもののようで、使い込まれた跡が見られます。
選手のリクエストという鮮やかなピンク色も印象的です。)
会場は大きく3つの展示で構成されています。
- ひとりひとりに合った義足を設計・製造しやすくするMIAMIプロジェクトの紹介
- スポーツ用義足についての基礎研究の紹介
- 「美しい義足プロジェクト」の紹介とモック展示
各プロジェクトでの山中先生のスケッチも公開されています。
(陸上競技用義足 「Rami」 のためのスケッチ)
今回の展示を見ていてまず気になったのは③の「美しい義足プロジェクト」。
「”美しい”義足」をつくる、ということに対して当初はやや複雑な想いもあったのですが、女性のスカート用・ズボン用の義足や、高活動の子供向けの義足、といった目的別に設計された義足を拝見していると、現行品とどちらの方がよいという話ではなくて、“選択肢“があることが重要なんじゃないかな、と感じました。 (価格なども含めた意味で。)
(女性用大腿義足。人の皮膚に似せて”隠す”義足ではなく、金属の質感を活かしつつも身体の形状に調和させた”魅せる”義足。
すねとふくらはぎのパーツは着脱可能で、スカートかパンツかによって使い分けられるそうです。)
すねとふくらはぎのパーツは着脱可能で、スカートかパンツかによって使い分けられるそうです。)
変な例えですが、家電を選ぶときにも「多機能・高性能でそれひとつあれば事が足りるけれど、大きくて重い製品」とか、「単機能で性能もそこそこだけど、とにかく軽い製品を用途別に分けて持ちたい」と、意見が分かれます。
それが個人で毎日身につけるものであればなおさら、「ずっと使えて目立たないものが良い」「機能別に使い分けたい」「とにかく美しいデザインのものが良い」といったことは選べるようであって欲しいなぁと。
それが個人で毎日身につけるものであればなおさら、「ずっと使えて目立たないものが良い」「機能別に使い分けたい」「とにかく美しいデザインのものが良い」といったことは選べるようであって欲しいなぁと。
そんな選択肢を増やすためには「価格」も大きな要因となると思いますが、その点で ①の「MIAMIプロジェクト」もとても興味深いものでした。("MIAMI" = Manufacturing Initiative through Additive Manufacturing Innovation)
こちらは、AM技術(Additive Manufacturing技術、俗にいう3Dプリンティング技術)を使って最終製品を生み出すための設計手法や加工技術についての研究プロジェクト。スポーツ用義足の開発をマイルストーンとして進められているそうです。
MIAMIプロジェクトの紹介で展示されていたのは、複雑な形状に肉抜き(?)されたこちらの義足。
(陸上競技用義足 Rami 。
こちらの複雑な形状は、骨や植物の葉脈のような自然界の組織を模したものでしょうか。)
こちらの複雑な形状は、骨や植物の葉脈のような自然界の組織を模したものでしょうか。)
どうやって加工するのか伺ってみたところ、SLS造形という熱可塑性樹脂の粉体にレーザー照射して、溶融・固化させる成形方法(3Dプリンティングの手法の1つ)なのだそうです。設計は山中研究室、加工技術は東大・新野研究室が担当されているとのことでした。
こうした技術が進化して、”人の体にフィットし、必要十分な強度と軽量性を有し、かつ美しい” 義足が、必要とする多くの人の手に渡る日が早く来るといいな…と思いながら会場を後にしました。
なお、展覧会では山中先生の著書「カーボン・アスリート 美しい義足に描く夢 / 山中俊治」の言葉がところどころに引用されていました。
デザインの意図や教育的な視点など、山中先生の様々な考え方を垣間みることができたので、こちらの本も読んでみたいなと思いました。(現在、品切れ中になっていますが…)
デザインの意図や教育的な視点など、山中先生の様々な考え方を垣間みることができたので、こちらの本も読んでみたいなと思いました。(現在、品切れ中になっていますが…)
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■ DATA
Designing Body 美しい義足をつくる
Designing Body Making Beautiful Prothetics
日時 2015年6月4日(木)- 6月14日(日)
11:00 - 19:00(入場無料)
場所 東京大学生産技術研究所S棟1階ギャラリー(access)
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