長い廊下

医局のある旧い建物と、病棟のある新棟とをつなぐ２階の渡り廊下は、５０ｍはあると思う。
向こうから人が歩いてくると、どの地点で挨拶をかわそうかと考えるくらい長い。

朝は、たいてい点けっ放しになっている廊下の電気をワタシが消している。

前後に誰も歩いていないときは、左手を上下に振ってビブラートをかける練習をしながら歩く。

今度発表会で弾く曲はアンダンテなので、歩きながらテンポをとり、歌ったりもする（もちろん小声で）。

夕方、タイミングがよければ、きれいな夕焼けを眺めることもできる。

ちょうど廊下の窓からは、敷地の外に大きなケヤキの木が見えて、そのシルエットで季節を感じることもできる。

今日は廊下を早足で何度も往復しなければならないくらい忙しい一日だった。
朝から気合をいれて動かなければならない日だった。
ケヤキの木も見ていない。
夕焼けだったかどうかも覚えていない。

『くじけるな、ふんばれ、必ず切り抜けられる！』
長い廊下を歩きながら、何度も自分を励ました。
明日もまた闘いだ。