これまで、中国ドラマに出てくる、丸坊主で後ろだけ髪の毛がある「弁髪」が
どうも好きになれず、清朝時代の「紫禁城」舞台のドラマは
進んで観たいとは思わなかった。
歴史については詳しくないが「西太后」という女帝の名前も浮かび
勝手に残酷なイメージを持っていたのもあった。
ドラマの1話から結構インパクトのある内容。
エイラクが、宮廷の刺繍工房(繍房)で働いていた姉の死の真相を探るために
自分もここに入るところから始まる。
エイラクという女性は、繍房の仲間からの自分への攻撃はほとんど無視して
親しい仲間が嫌がらせをされると、さりげなく賢くやり込める。
彼女の賢さと不屈の精神が小気味よく、彼女の人となりがわかる序盤の筋から
私はドンドン引き込まれていった。
ここでの画面に映る刺繍の作品も芸術的でとても美しく
当然、側室たちや皇帝が纏う衣装の美しさは、映像でも引き立っている。
この中国ドラマに、視聴者が引き込まれていく理由があるのだと思う。
「瓔珞」は「清朝第6代皇帝・乾隆帝(けんりゅうてい)」の時代
1700年半ば頃統治した、実在の皇帝をモデルにしたフィクションらしい。
まず、相当な費用をかけているセットや調度品と、衣装の豪華さには感服する。
最終回で乾隆帝と瓔珞が着ている衣装の、立体感が施された刺繍の豪華さは
テレビを通して観ても群を抜いていたので、実際見たら
どれほどまばゆいかと想像するほどだった。
まるで映画並みのセットも臨場感を醸し出している。
登場する役者さんたちの芝居のうまさは言うまでもない。
この紫禁城という伏魔殿のような所にあって
乾隆帝の皇后 富察(ふちゃ)氏と、皇后の弟でエイラクと恋仲になる侍衛の
富察傅恒(ふちゃふこう)が、ひときわ清らかで透明感を放っている。
最初エイラクは、姉の死の真相を追求していく途中で
姉を殺したかもしれない犯人を富察ふこうだと誤解する。
しかし誤解が溶けてからは次第に想い合う仲になり
皇后のそば仕えに引き立てられて、その後姉を辱め殺害した犯人たちを
突き止め成敗する。
そしてこの後は順調と思っていたら、色々な陰謀に巻き込まれて
宮廷の一番低い過酷な部署に落とされてしまう前半と
皇后が自害した後、この死の真相を暴くために皇帝の側室になって
皇后の仇うちを果たし、最後には最高位の側室にまで上り詰めるという
後半との二部で描かれている。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6b/d9/146caae8eee2fefd6d13c961dc41e9fe.png)
この皇后は、第一子を幼くして亡くしようやく生まれた第二子の息子を
自分の親友で側室になった女性の、嫉妬と陰謀によって死なせてしまい
絶望の中で自害してしまう。
不屈の魂を持ち賢く機転が効くエイラクの才能を、皇后はいち早く見出し
引き上げてくれて、いつも姉のように優しく導いてくれた。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/50/6f/13927cf055a43f3c3e5ac80543071f87.png)
生前のある時、皇后は「エイラクは私の希望なのです」と皇帝に話す。
幼くして皇帝に嫁ぎ、優しく冷静で落ち着いて後宮をまとめて
国民の母として居続けねばならなかった彼女は
エイラクの自由で健気でたくましく
清廉潔白な部分に憧れていた自分の気持ちを、この時初めて皇帝に話す。
皇帝は「それでもそなたは国民の母であり皇后なのだ」と言い
皇后を弱すぎると非難した。
この皇帝の言葉は、その後皇后が失意で自害してしまう要因にもなった。
史実にある乾隆帝は、30代の若さで病気で亡くなった皇后を
生涯愛し続けたそうだ。
それにしても、皇帝が毎夜どこかの側室のところに通う「お渡り」には
子孫繁栄のためとはいえ、皇帝の立場に少し同情してしまう。
皇帝の大勢の側室たちは、皇子を生んで権力を持とうと
敵対する側室に毒薬を盛ったり、自分の侍女に
何本もの針を体に刺して虐待するなど
後宮での壮絶な陰謀劇の、鳥肌が立つようなおぞましい場面が満載。
皇帝は初めは、エイラクのその小賢しさを嫌っている風に見えた。
生前の皇后は
弟とエイラクが恋仲で一緒にさせてあげたいと皇帝に願い出るも
身分が違うなどの理由で反対している皇帝が実は
エイラクを気に入っていることに気づき
側室にすることを提案した。
皇帝は、まるで好きな子に意地悪する男の子のように
エイラクに過酷な罰を与えたりするが
彼女は一切弱音を吐かず黙ってやり遂げる。
次第に彼女の不屈の精神や生き方に、皇帝も一目を置き惹かれていく。
側室になってからのエイラクと皇帝のやりとりは
小悪魔的なエイラクにやり込められながらも
皇后の時には見たことのない、皇帝の相好を崩す表情と
会話のキャッチボールは見ていて微笑ましい。
最終回、想い人だった富察ふこうが遠征先で殉死し
彼の武官仲間のハイランチャが、ふこうの遺言を携えて帰ってくる。
「生まれ変わったら来世で一緒になってくれるか?」
この問いにエイラクは、長い長い沈黙の後、万感の思いで絞り出すように
「ハオ(わかった)」と答える。
時の経過と共にこの場面が心に残る。
乾隆帝扮する二エ・ユエンと、エイラクのウー・ジンイェンのコンビで
明日日曜日NHKBSプレミアムで、秦の始皇帝の母の「コウラン伝」が始まる。
じわじわと中国ドラマの人気がNHKまで来たのかと嬉しくなっている。