えー、<3>からだいぶ間が空いてしまいましたが、どうしてもご紹介しておきたい作品があるので、<香港国際映画祭報告>の4回目です。
作品のタイトルは『わが愛しき唐辛子の地(My Sweet Pepper Land)』、あるいは『わがピーマンの地』とも訳せます。そして製作国は、フランス、ドイツ、クルディスタン。ええっー、クルディスタンって、いつ独立国になったの? うむむ、イラクの中のクルド人自治区、クルディスタンのことでしょうか? この「?」と、それから主演がアスガル・ファルハディ監督の『彼女が消えた浜辺』(2009)や、アフガニスタン映画『悲しみを聴く石』(2012)のゴルシフテ・ファラハニーということで見始めたのでした。
物語は、男が泣きながら処刑場へと引き立てられていくシーンから始まります。そこに、「2003年4月、クルディスタンは独立した。フセインの時代は終わった」というセリフが入ります。どうやら、独立直後の混乱の中で裁判が行われたらしく、判事や有識者など寄せ集めの陪審員が男に死刑という判決を下したものの、絞首刑の縄が切れて刑が執行できないなど、ドタバタが続きます。陪審員の1人だったバランはあきれてしまい、さっさと帰省することに。
自宅に戻ったバランは年老いた母から見合いを勧められ、次々と女性と引き合わされたりします。こりゃたまらん、とバランは僻地の農村での警官という仕事を見つけ、その村へと赴任していきます。村は有力者の老人アーガーが支配しており、密輸で稼いだ金力と手下たちの暴力とで誰も逆らえないようになっていました。さらに、少女たちによるゲリラ隊がおり、アーガーの一団と対立していました。助手と共に赴任したバランは、徐々に村の実態を掴んでいきます。
そんな折、バランはこの村の小学校の教師ゴヴェンドと出会います。彼女はたった1人で小学校内の宿舎に住み、子供たちに勉強を教えているのでした。彼女の趣味は、不思議な楽器を弾くこと。大きな石のようなこの楽器は、中が空洞になっていて、彼女が奏でるとやさしいメロディーが生み出されていきます。
ところが、アーガーは女が学校の先生をしていることが許せず、何とか彼女を追い出そうとします。また、バランも捕まえた密輸団のメンバーをアーガーによって無罪にされてしまうなど、徐々にアーガー一味との対決の構図ができていきます。さらに、医薬品をほしがっている少女ゲリラたちのためにバランは尽力しますが、薬をアーガー一味に奪われたりして、緊張はついに頂点に。その上、町にいるゴヴェンドの婚約者や親戚が彼女を連れ戻そうと村にやってきます。ですがその頃には、バランとゴヴェンドは互いに恋に落ちていたのでした....。
西部劇+黒社会もの+恋愛映画、とでも言えばいいでしょうか。ネタばれ承知で書くと、最後のクライマックスでバランとゴヴェンドは見事ベッドインして結ばれてしまい、さらに思いがけない展開でアーガー一味は退治されて、絵に描いたようなめでたし、めでたしになります。そーゆーラストなの?と、こちらはいっぱい喰わされた気分。何とも人を喰った映画なのですが、随所に才気が感じられて、とても楽しめました。
監督は、イラクのクルディスタン出身のヒネル・サリーム(Hiner Saleem)。1964年3月生まれだそうなので、もう50歳ですね。17歳の時にイラクを出てイタリアに渡り、そこで高校、大学教育を終え、その後フランスに移住。今もフランス在住だそうです。クルド人地域に関する映画は湾岸戦争後から撮り始め、1997年に第1作が完成、翌年のヴェネチア国際映画祭でお披露目されました。その後も『ウォッカ・レモン(Vodka Lemon)』(2003)などを作っており、本作は8作目にあたります。
全編クルド語のこの映画、不思議な魅力に溢れた作品だったので、もう一度日本語字幕でじっくりと見てみたい気分です。昨年のカンヌ国際映画祭にも出品されたそうなので、どこかの配給会社さんが....買ってないだろうな~。映画祭上映に望みを託しましょう。
予告編はこちらです。お、予告編をYouTubeで探していたら、あの楽器が出てきました。こちらの映像で、楽器の名前はハング・ドラム(Hang Drum)と言うのだそうです。予告編にも出てきますので、やさしい音を楽しんでみて下さいね。