アジア映画巡礼

アジア映画にのめり込んでン十年、まだまだ熱くアジア映画を語ります

第14回東京フィルメックスの日々

2013-11-29 | アジア映画全般

今回の東京フィルメックスはなかなか毎日通えないのですが、それでも2日か3日に一度の割合で出勤しています。というわけで、11月27日(水)と本日29日(金)のレポートをまとめてアップします。まずは、東南アジア三部作(?)のご紹介を。

『カラオケ・ガール』
 2012/タイ、アメリカ/原題:Sao Karaoke
 監督:ウィッサラー・ウィチットワータカーン

ドキュドラマとでも言うべき作品で、実際にカラオケ・バーに勤めるサーという女性を主人公に起用し、彼女自身を演じさせている斬新な試みの映画です。登場する実家の両親や伯母、弟妹たちは”リアル”で、彼女とつきあっているバーテンダーはどうやら俳優が演じているようでした。濃い化粧でテーブルを回っていくサーですが、帰省した時に見せる素顔はまるで別人。実家には「工場に勤めている」と言っているようで、病気の父の治療費など、すべてが彼女の肩にかかってきます。最初にアカペラで歌われる「私は慰み者のカラオケ・ガール...でも、私は自分自身だけのもの」という歌が印象的でした。女性監督ウィッサラー・ウィチットワータカーンは、最初サーの家に同居して数週間過ごし、姉妹のようになってから脚本を執筆したとか。

『トランジット』
 2013/フィリピン/原題:Transit
 監督:ハンナ・エスピア/主演:イルマ・アドラワン、ピン・メディナ、メルセデス・カブラル

イスラエルを舞台にしたこの物語は、4つのパートに分かれています。イスラエル人と結婚したものの、離婚して今は滞在ビザも切れているフィリピン女性ジャネット(イルマ・アドラワン)、ジャネットの弟で幼い息子ジョシュア(マーク・ジャスティン・アルバレス)を抱え介護士として働くモイゼス(ピン・メディナ)、フィリピンからやってきてジャネットを頼るティナ(メルセデス・カブラル)、そしてジャネットの混血の娘ヤエル(ジャスミン・カーティス)です。モイゼスは以前フィリピン女性と結婚していたのですが、彼女は彼の元を去り、今はイスラエル人の妻となっています。映画は、”5歳以下の子供は本国に強制送還する”というイスラエルの法律をかいくぐり、ジョシュアと一緒に暮らそうとするモイゼスの緊張の毎日を中心に、それぞれに問題に直面している女性たち3人の日常を描いていきます。

終了後Q&Aがあり、ハンナ・エスビア監督とプロデューサーのポール・ソリアーノが登壇しました。監督はどこにも居場所がない人々について映画を撮りたいと思っていたところ、偶然テルアビブからマニラへ行く飛行機でイスラエル在住のフィリピン人と乗り合わせ、イスラエルが移民を増やさないために5歳未満の子供を強制送還していることを知ったのだとか。2009年にできた子供の強制送還の法律は2011年から施行されたのですが、人々の抗議を受けて、1.イスラエルに5年以上住んでいる、2.ヘブライ語を流暢に話す、3.イスラエルの学校に通っている、4.親が正式のビザを持っている、という条件で子供の滞在が認められるようになったそうです。

劇中の出演者たちは、ヘブライ語も上手にしゃべります。それに関しては、まず脚本を英語で執筆、その後俳優が自然にセリフが言えるようタガログ語に直し、さらにそれを全部ヘブライ語に直してもらったそうです。その上で6週間俳優にヘブライ語の特訓を施し、全員がしゃべれるようになったのだとか。ジョシュア役の俳優は実際には8歳だったそうですが、ヘブライ語を流ちょうにしゃべっています。監督はもともと編集を本職としており、撮影後にこのように複数の人間の視点から物語る構成にしたそうで、数台のカメラを使って撮影したため十分なフッテージがあってよかったと語っていました。 

『ILO ILO(英題)』
 2013/シンガポール/原題:[父+巴]媽不在家
 監督:アンソニー・チェン(陳哲藝)/出演:ヨー・イェンイェン、チェン・ティエンウン、アンジェリ・バヤニ、コー・ジアルー
 配給:アステア

カンヌ国際映画祭で新人監督賞を受賞しただけあって、期待に違わぬ出来でした。先日台湾で行われた金馬奨でも、作品賞、助演女優賞、新人監督賞などを受賞しています。助演女優賞を受賞したのは主人公の少年の母親役を演じたヨー・イェンイェンですが、『歌え!パパイヤ』のビッグ・パパイヤだった彼女が大きなお腹をして登場し、息子の問題児ぶりにいら立つ閉塞感溢れる共働き女性を好演しています。妊婦姿がどうも演技ではないように思われ、帰宅後調べてみると、実際に妊娠していた彼女を使っての撮影だったようです。最後の出産シーンは、きっと”リアル”の場面だったのですね。

1997年、アジア通貨危機に見舞われたシンガポール。夫は株に手を出して失敗、セールスマンとして勤めていた会社も止め、禁煙していたタバコにまた手を出すようになります。息子は宝くじの当選番号を集めることに熱心で、学校ではクラスメートとケンカしたりして問題児扱い。妻は「希望はあなた自身に存在する」と唱えるあやしげな自己啓発セミナーに大金を投じるようになります。そんな家庭にフィリピン人のお手伝いさんがやってきて、またいろいろな波風が立ちます。ですが、彼女の存在によって一家のほころびは修復され、彼女が去ったあと一家は再生の道を歩み始めるのです。緊張をはらむ、無駄のない脚本が素晴らしく、俳優たちの演技とあいまって、秀作が誕生していました。日本公開が待たれます。

 『夏休みの宿題』
 2013/台湾/原題:暑假作業
 監督:チャン・ツォーチ(張作驥)/主演:楊亮兪(ヤン・リャンユー)、管管(クァンクァン)

台北に住む10歳のバオ(ヤン・リャンユー)は、夏休みに父に連れられ祖父(クァンクァン)の住む田舎へやって来ます。その一夏の間に友人の死や台風など、バオが多くのことを体験する物語です。久々のチャン・ツォーチ監督作で期待していたのですが、ちょっと平板でいまひとつ。でも、主人公のバオを演じたヤン・リャンユー君がゲストとして来日してくれたのは大きなサプライズでした。

今は12歳というヤン君、映画よりちょっぴり大きくなっていて、態度も落ち着いています。通訳の樋口裕子さんとは、まるで母子のようでした。

司会は、フィルメックス事務局の岡崎匡さん。普段ですとディレクターの林加奈子さんか市山尚三さんが司会を担当するのですが、今回はめずらしく岡崎さん。岡崎さんは「ちいさなひとのえいががっこう」という子供向けの映画講座も手がけていたりするので、それを見込まれての司会かも知れません。ヤン君の堂々たる回答ぶりに、岡崎さんもすっかり感銘を受けたようでした。

ヤン君の話によると、最初監督はかつての台北県、現新北市の学校を回って主演の子供たちを探したそうで、「ちょっと遊んでて」とか言いながらカメラに収め、それを見てヤン君を主演にキャスティングしたのだとか。共演の子供たちも、みんなそうやって選ばれたとのことです。撮影時には場面やセリフを説明してくれ、「こうこうだけど、自分のアドリブを加えてもいいからね」と言ってくれたそうです。

ヤン君はこれが初めての演技経験だそうで、その後も俳優としての仕事はしていないとのこと。「でも役者になりたいので、大学を出たあといっぱいいっぱいいい演技をしたいと思います」

終了後、ロビーではヤン君のサイン会が。台湾映画関係者の日本の方(右側/『KANO』というのがチラと聞こえたような...)と記念撮影もしたりして、大人気でした。左側はヤン君のお父さんです。

こんな風に、ゲストとの距離が近い東京フィルメックス。そのほか、観客の中に知り合いも多く、会場に行くのが楽しみなフィルメックスでもあります(りからんさん、久々にお目にかかれて嬉しかったです!)。本日は、中国インディペント映画祭『卵と石』が上映される黄驥(ホアン・ジー)監督にもお目にかかり、先日ご主人の大塚龍治さんとお会いしたのと合わせて、素敵な出会いとなりました。映画祭は残すところあと2日ですが、さらなる出会いを期待したいと思います。

 

 


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4 コメント

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アハマド様 (cinetama)
2014-02-04 00:56:29
久しぶりのコメント、ありがとうございました。

『KILLERS/キラーズ』のことは全然ノーチェックでした。情報、ありがとうございました。
現在公開中で、公式サイトはこちらです。18禁になってしまったようですね。
http://www.killers-movie.com/menu.html

『ザ・レイド GOKUDO』という題になるらしい『ザ・レイド』の続編は、まだ公開情報が出ていないようです。また試写で拝見したりしたらご紹介しますね~。
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SQ機内での悲劇 (アハマド)
2014-02-03 14:44:57
こんにちは、ジャカルタ近郊のアハマド轟です。
長らくご無沙汰しておりました。

先週シンガポールへ日帰り出張があり、SQだったので喜び勇んでILO ILO を拝見しました。無駄のないショットの連続とBGMなしの構成に引き込まれましたが、ジャカルタとシンガポール間は約1時間半のフライトのため中盤までしか見られませんでした。まあ帰りもSQなので帰りの便で見ればいいやと思っていたら、なんと機体が違うと上映番組も違うことが判明。仕方ないので「そして父になる」を見たのですが、こんどは早送り機能なしのため、こちらも最後まで見られず。滅茶苦茶悔しいです...両方ともインドネシアでは上映してないし、DVD販売もあるのかどうか...

なお、シンガポールでは久しぶりに紀伊国屋書店へ行きましたが、ILO ILO のDVDが入り口付近で各賞受賞記念の鳴り物入りで売られてました。本国でも高く評価されているようです。日本での劇場公開が成功するといいですね。

ぜんぜん別件で恐縮ですが、日本では1日から公開が始まった、初の日本=インドネシア合作映画KILLERS の紹介もよろしくお願いいたします!レイド2もまもなく公開ですし、インドネシア映画にとって今年が更なる飛躍の年となりますように!
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せんきち様 (cinetama)
2013-12-01 00:21:44
コメントありがとうございました。

私はYahoo! Singaporeの英語サイトで、「ILO ILO Yeo Yann Yann pregnancy」とかいいかげんに単語を入れて検索したら、この画像などが出てきて、いろいろ(笑)わかったのでした。

http://www.razor.tv/video/484601/pregnant-mother-not-in-original-script

アンソニー・チェン監督は、実際の父親よりも先に赤ちゃんの顔を見たとのことですが、あそこだけが母親の笑顔のシーンになっているのですごく印象に残りますね。
なお、今気が付いたのですが、上記の画像にはいっぱいいろいろ(^^)なクリップが含まれていて、金馬奨からシンガポールに凱旋したヨー・イェンイェンやコー・ジアルーのインタビューも見られます。ジアルー君はちょっぴり大人になってますが、歯並びの悪さ(ゴメン!)ですぐ彼だとわかりますね。
「監督は?」と聞かれたヨー・イェンイェンが、「今、東京よ。東京映画祭に行ってるの」と答えてるところでは、「東京フィルメックスだって!」と突っ込んでしまいました~。
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たしかに (せんきち)
2013-11-30 22:11:14
こんにちは。
こちらの記事もご参照なさったかもしれませんが、出産シーンは実際の映像だったそうです。
http://udn.com/NEWS/ENTERTAINMENT/ENTS1/8316028.shtml
最近、雁雁さんのフェイスブックページをチェックするようになったのですが、そこによく赤ちゃんと一緒の写真がアップされていて「ひょっとして?」と思い、当方もさっそく調べてみたという次第です。
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