インドの映画界は、ボリウッドだけでなくどこでも俳優同士の結婚率がきわめて高いです。まあ日本でもそうなのですが、インドでは特にファンの憧れ度が高いため、共演作が多かったりするとすぐにカップルにされ、結婚を期待されるからかも知れません。今、ボリウッドのカップルで一番結婚に近いとされているのが、本作『SANJU/サンジュ』の主演男優ランビール・カプールと、日本では『スチューデント・オブ・ザ・イヤー 狙え!No.1!!』(2012)で知られるアーリアー・バットですが、この2人も両親は共にスターまたは映画監督。ランビール・カプールの両親は、1970年代・80年代のトップスターであるリシ・カプールとニートゥー・シン。当時の人気カップルでした。アーリアー・バットの方は、父が人気監督のマヘーシュ・バット、母が女優のソーニー・ラーズダーン。リシ・カプールは現在ガンの治療のためニューヨークに滞在中ですが、アーリアー・バットはランビールと共に治療の初期からリシ・カプール夫妻を支えてきた、という記事が出ていました。
『SANJU/サンジュサンジュ』のランビール・カプール
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前回の記事に書いたように、ナルギスもニューヨークでガン治療に取り組んだのですが、実はナルギスと夫スニール・ダットが築いたダット家と、ナルギスが一時は真剣に結婚を考えていたラージ・カプール、つまりはリシ・カプールの父でランビール・カプールの祖父であるラージ・カプールのカプール家とは、直接の婚姻関係はないのですが、ある因縁がのちに生じるのです。今日はそのお話をちょっとしておきたいと思います。(映画スチールでない写真は、いずれも1979年~81年の1月1日に撮影したものです)
ラージ・カプール(上の上写真手前左)には、息子が3人(本当はあと2人いたのですが、幼い時に亡くなりました)と娘が2人います。前にも書いたように、奥さんのクリシュナー(上写真2枚の白いサリー姿)はやはり俳優であるプレームナートの妹で、1980年頃にはカプール家の文字通りの「主婦」として、一家をまとめていました。親族だけでなく、ラージ・カプールの友人も仕事仲間もR.K.フィルムズのスタッフも、みんなが「バービー(兄嫁、嫂さん)」と呼んで、とても尊敬し、慕っていました。白いサリーを好むことでも有名でした。そのバービーは誕生日が1月1日で、従って元旦にはいつも、ラージ・カプール家で盛大なお誕生日パーティーが開かれたのです。ラージ・カプールの息子たち、長男ランディール(カリシュマーとカリーナーの父)、次男リシとその妻ニートゥ-・シン(ランビールの両親/下の写真)、次女でまだお嫁に行っていなかったリーマー(最近デビューしたアルマーン・ジャイン、アーダル・ジャインの母)、そして三男で末っ子のラージーウがいつもパーティーに集っていました。
ラージ・カプールと親しい芸能人としては、妻クリシュナーの妹と結婚しているプレーム・チョープラー、親友であるラージェーンドル・クマール、女優で司会者としても有能なシミー・ガレーワール、歌手のアーシャー・ボースレーとその夫の作曲家R.D.バルマンらがいて、パーティーの常連でした。下の写真は左から、長男のランディール、ラージェーンドル・クマール、そしてプレーム・チョープラーです。
1981年頃、ラージェーンドル・クマールの息子クマール・ゴゥラヴとラージ・カプールの末娘リーマーは婚約していて、親友同士が親戚にもなる、というので、ラージ・カプールの周囲の人たちはとても喜んでいました。リーマーはラージ・カプール似の色白で青い瞳のきれいな人で、末っ子らしいちょっと気の強いところもありましたが、みんなから可愛がられていました。下は1979年の写真なのでまだ少女っぽいですが、ポラロイド・カメラを持っていたりして、さすがお金持ち、と思ったものです。
リーマーの婚約者となったクマール・ゴゥラヴは、サンジャイ・ダットと同じ年、1981年に『Love Story(ラブストーリー)』という映画でデビューし、甘いマスクで一躍人気者になりました。そして『Star(スター)』(1982)を大ヒットさせたあと、マヘーシュ・バット監督作『Janam(誕生)』(1985)での演技力が認められ、将来を嘱望されるスターとなります。下は『Janam』のビデオカバーで、左からクマール・ゴゥラヴ、シャルナーズ・パーティル(のちに名脇役として活躍)、アヌパム・ケール、アニーター・カンワルです。この作品が公開される直前に、クマール・ゴゥラヴは結婚式を挙げるのですが、1984年12月9日に彼が結婚した相手はリーマーではなく、サンジャイ・ダットの妹ナムルターでした。
クマール・ゴゥラヴとリーマー・カプールの婚約が解消されたのがいつだったかは定かにはわかりませんが、それが原因でラージ・カプールとラージェーンドル・クマールの仲にもひびが入ります。そしてその後、クマール・ゴゥラヴとナムルター・ダットが結婚したことで、さらに2人の亀裂は決定的になりました。ラージ・カプールのナルギスへの仕打ちが、回り回ってこんなしっぺ返しになったように、映画ファンには思われたのでした。『Mother India(インドの母)』(1957)でナルギス、スニール・ダットと共演したラージェーンドル・クマール(下写真真ん中)は、息子の結婚以降特に、スニール・ダットの親友として、彼の政治活動やナルギス亡き後のダット家を支えていきます。クマール・ゴゥラヴとサンジャイ・ダットも、その後マヘーシュ・バット監督作『Naam(名前)』(1986)でダブル主演して大ヒットさせ、こちらも義兄弟であると同時に親友同士となります。
Courtesy: National Film Archive of India
こんな因縁のあるダット家とカプール家。その軋轢は、ランビール・カプールがサンジャイ・ダットを演じたというところで、やっと穏やかな着地点を迎えたように思います。過去の様々ないきさつを知りながらも、ランビール・カプールをキャスティングしたラージクマール・ヒラニ監督。リーマー叔母さんを巡る過去のゴタゴタを水に流し、全力でサンジャイ・ダット役に取り組んだランビール・カプール。どちらもすごい映画人魂ですね。
こんなまるで映画みたいな因縁があって出来上がった『SANJU/サンジュ』。いよいよ6月15日(土)から新宿武蔵野館ほかで公開されます。公式サイトはこちらです。最後に、最新版予告篇(ラージクマール・ヒラニ監督のコメント付き!!)も付けておきますので、ぜひ劇場に足をお運び下さい!
『SANJU/サンジュ』ヒラニ監督コメント映像♪
なお次回は、ソーナム・カプールが代表して演じた「サンジャイ・ダットのガールフレンド像」についてです。さて、うまくまとまるかどうか。何せ実際の数がすごいので...。