9月12日(金)から始まる映画祭、アジアフォーカス・福岡国際映画祭となら国際映画祭を先日ご紹介しましたが、したまちコメディ映画祭in台東も本日から始まりました。そこで東京でのお披露目が果たされるのが、タイ映画『愛しのゴースト』です。1ヶ月後には公開されるのですが、とっても面白い作品なので、早めにご覧になっておくことをオススメします。
それと、この作品、2度見るとよくわかる、という点があちこちあるのです。タイではお馴染みのゴースト・ストーリー「ナン・ナーク(ナーク夫人)」または「メー・ナーク(ナークお母さん)」の何度目かの映画化なのですが、かなり現代的にあちこち変えてあって、ホラーだけでなくサスペンスも盛り込んであるという、これまでの「ナン・ナーク」ものとは一味違う作品になっています。一度目では見逃したところも、再度見ると「そうだったのか!」。ぜひ「したコメ」と公開劇場とで、二度ご覧下さいませ。では、まず基本データをどうぞ。
『愛しのゴースト』 公式サイト 「したコメ」サイト
2012年/タイ/タイ語/112分/原題:Pee Mak(マークお兄さん)
監督:バンジョン・ピサンタナクーン
出演:マリオ・マウラー、ダビカ・ホーン、ナタポン・チャートポン、ポンサトーン・ジゥヨンウィラート
提供:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
配給:キネマ旬報DD
宣伝:ファントムフィルム
10月18日(土)よりヒューマントラストシネマ渋谷、シネマート六本木ほか全国公開
<したまちコメディ映画祭in台東>での上映
2014年9月14日(日) 開場14:00/開演14:30
開催場所:浅草公会堂
(C)2013 Gmm Tai Hub Co.,Ltd. All Rights Reserved.
ストーリーは、アジア映画ファンの皆さんならご存じですよね。今回は、マークの戦友4人という新キャラが登場します。
時代は18世紀末か19世紀、タイが近隣諸国と戦争を繰り返していた頃のこと。プラカノーンの村に住むマーク(マリオ・マウラー)は身重の妻ナーク(ダビカ・ホーン)を残し、戦場で戦っていました。彼と一緒に戦っていたのは、パイナップル頭でスケベなプアック、メガネのドゥー、口髭を生やしたエー、そして子供時代の頭頂部マゲをそのまま残した臆病なシンという親友4人組。彼らは重傷を負いながらも何とか生還し、まだ傷の癒えないマークを送りがてら、プラカノーンへとやって来ます。左から、プアック、ドゥー、マーク、エー、そしてシンです。
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家では、ナークが嬉しそうに迎えてくれます。マークの出征後に生まれた赤ん坊のデーンも、ゆりかごですやすや。戦友4人はマークに勧められるまま、対岸にある空き家でしばらく過ごすことにします。ところが村の市に行ってみると、みんなはマークを恐がり、何だか様子が変です。酒屋のおばさんは、「真実が知りたかったら、またの間からのぞいてみるんだね」とわめいてその後何か言おうとしたのですが、息子に口をふさがれてしまいます。5人の間に、いやーな感じが漂います。
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その後、怪しいことがいろいろと起こります。シンが夜、酒盛りにマークを誘おうと対岸に渡ってみると、マークの家は朽ち果てたあばら屋になっていたり、4人を歓迎するためのナークのご馳走が、枯れた葉っぱやうごめく虫だったり。これは、ナークが幽霊という村の噂は本当かも知れない....。裏の森でナークの指輪をしている遺体を見つけた彼らは、その確信を深めます。ですが、逃げだそうにもマークを置いては行けません。しかし、マークはナークと仲良く暮らしている様子。ということは、マークも幽霊なのか? 戦場で重傷を負ったあの時、マークはすでに死んでいたのかも.....。疑問と恐怖はふくらみ、やがてその真相が解き明かされる時がやって来ます....。
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1999年のノンスィー・ニミブット監督作品『ナン・ナーク』が、格調高く、端正なホラー・ラブストーリーだったのに対し、『愛しのゴースト』はまさに21世紀の若者版「ナン・ナーク」となっています。日本語字幕はタイ語通訳であり、タイ映画の紹介にも尽力しておられる高杉美和さんですが、現代語表現がいっぱい使ってあるところを見ると、元のタイ語も若者言葉なのでは、と思います。それが、「ドタバタ『ナン・ナーク』」「お笑い『ナン・ナーク』」とでも呼ぶべき本作に、ピッタリとハマって楽しさを盛り上げてくれます。
バンジョン・ピサンタナクーン監督は、大ヒットした1999年版『ナン・ナーク』を大いに意識して作っており、「次はあのシーンかな?」と思っていると、そのシーンをパロった場面になる、といった風に、観客の期待に応えて存分に楽しませてくれます。それが、『愛しのゴースト』が昨年、『アナと雪の女王』などを抑えてメガヒットとなり、タイ映画の歴代興収第1位を叩き出した大きな理由の1つでしょう。
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ほかにも、ヒットの理由はいくつか見つけられます。
1.原題を、「ナークお母さん」から「マークお兄さん」にしたこと。つまり、マークが主役なんだよ、とうたっているわけで、これにはどんな人も興味を引かれます。「ナン・ナーク/メー・ナーク」に対応する「ピー・マーク」。これって、ひょっとしてマークの幽霊譚なの? とタイの観客は思うはず。こりゃー見なくっちゃ、となってしまいますよね。
2.コメディ・リリーフとして、マークの戦友の4人組を登場させたこと。上でちょっとご紹介しましたが、4人ともそれぞれ個性のある顔立ちで、中でもシンは出川○朗そっくり。ちょっと知的なメガネ男子トゥーも、途中ある事情からボコボコの顔になって出てきます。その4人が思いっきりヘンな言動で笑わせてくれるという、これまでになかった「ナン・ナーク」なのです。
3.仏教の存在感を薄めたこと。今回見て驚いたのは、『ナン・ナーク』は仏教の偉大さを喧伝する物語だ、と思っていたのが、お坊さんは登場してもその存在は「耐えられない軽さ」になっている、ということでした。前作の『ナン・ナーク』では、まず村のお坊さんがマークに「ナークは幽霊だ」とダメ押しし、「心を静めてまたの間からのぞくと真実が見える」と教えます。そして、最後にナークが正体を現し、村のお坊さんの手に負えなくなったら、バンコクから高僧を呼んでナークの魂を鎮め、成仏させてやるのです。ところが今回は....。そのあたり、じっくりご覧になってみて下さい。
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今回のテーマは、「仏教は偉大なり」ではなくて、「愛情&友情は偉大なり」ということのようです。それと、「笑いは魂を救う」といったところでしょうか。最後の最後まで笑わせてくれますので、「あ、エンドだ~」と油断しないようにして下さいね。前にもアップしたのですが、バンコク北東部、マハーブット寺境内にあるナーク廟の写真を再度付けておきます。
このナーク像も長い黒髪ですが、前作『ナン・ナーク』では史実に基づいて刈り上げのような髪をしていたナークは、今回長い黒髪になっています。やっぱりこれが理想のナーク像なんでしょうかしら。
マークを演じたマリオ・マウラーは、日本でも公開された『ミウの歌』(2007/映画祭上映題名は『サイアム・スクエア』)などで名前が知られています。一方、ナーク役のダビカ・ホーンも、今後人気女優になる可能性大。こちらでご紹介したように(名前の表記がちょっと違っています。すみません)、今夏公開されたリメイク版『傷あと』でも主演して、印象的な演技を見せているからです。本作がヒットして、タイ映画がいろいろ公開されるようになるといいですね。
日曜日の「したコメ」上映には、バンジョン・ピサンタナクーン監督がゲストとして登壇し、Q&Aが行われる予定です。この機会に、『愛しのゴースト』をぜひ!