来年のお正月明け、中国語圏映画の感動作が続々公開となります。そのうちの3本を選んで、ご紹介しようと思います。
トップバッターは、台湾で作られた『光にふれる』。2012年に東京国際映画祭で上映された時、その迫力に圧倒された作品です。まずは作品データをどうぞ。
『光にふれる』
2012年/台湾・香港・中国/110分/中国語/
原題:逆光飛翔/英語題名:Touch of the Light/日本語字幕:樋口裕子
監督:張榮吉(チャン・ロンジー)
提供:王家衛(ウォン・カーウァイ)
主演:黄裕翔(ホアン・ユィシアン)、張榕容(サンドリーナ・ビンナ)、李烈(リー・リエ)、許芳宜(シュウ・ファンイー)
提供:クロックワークス、ショウゲート
配給:クロックワークス
2014年2月8日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町、シネマート新宿ほか全国ロードショー
© 2012 Block 2 Pictures Inc. All rights reserved.
物語は、裕翔(ユィシアン/黄裕翔)が大学入学のため台北へと旅立つ朝から始まります。台中の郊外で花卉栽培をしているユィシアンの家族は、両親と妹。妹と、やってくるバイクの音で誰が来たかあてっこしているユィシアンは、生まれつき目が不自由でした。しかしながら素晴らしい音楽の天分を持っているため、台北の音楽大学に入学することになったのです。
母(李烈)に付き添われて大学の寮に落ち着いたユィシアンでしたが、慣れない環境で不安がいっぱい。始まった音楽の授業では、先生はユィシアンに十分な配慮をしてくれるものの、教室移動の介助当番の学生は、面倒くさがって途中までしか同行してくれません。でも、ユィシアンは不満を母に訴えたりはしませんでした。ユィシアンには、幼い時に聞こえてきた、目の不自由な自分に対する言葉がトラウマとなっていたのです。寮の同室の相棒が気のいい朱自清(チン/閃亮)とわかったあと、母は後ろ髪を引かれる思いながら台中に戻ります。
チンはユィシアンを自分がやっているバンドSM(スーパー・ミュージック)に誘い、「おまえ、どんな女の子が好き?」と聞いたりして、ユィシアンにごく普通の友人として接してくれます。その問いに「声のきれいな人」と答えたユィシアンでしたが、その時彼の耳に、大学構内にドリンクの配達に来た小潔(シャオジエ/張榕容)の声が。シャオジエはダンスをやっている女の子で、ダンス・グループのリーダー阿嶽と恋人関係にありながらも、彼の浮気に悩まされて悶々としている最中でした。ドリンク店の店長(納豆こと林郁智)は、そんな彼女を彼独特の思いやりで見守ってくれますが、シャオジエには買い物マニアの母親もいて、彼女はストレスにさらされてイライラしていました。
ある時、道路横断ができなくて立ち往生をしているユィシアンを助けたシャオジエは、徐々に彼と親しくなっていきます。彼から受けた影響と、配達先で見つけた素晴らしいダンス教師(許芳宜)の存在によって、シャオジエの心は明るさを取り戻し、彼女は香港で行われるダンス・コンクールに出場する決心をします....。
© 2012 Block 2 Pictures Inc. All rights reserved.
本作は、張榮吉(チャン・ロンジー)監督が2008年に作った30分余りの短編映画『黒天(The End of the Tunnel)』を大きくふくらませたものです。『黒天』はYouTubeのこちらで見ることができますが、できれば『光にふれる』をご覧になってから鑑賞されることをお勧めします。裕翔の外見が違っているため、かなり印象の異なる作品になっているからです。『光にふれる』を見てから『黒天』を見てみると、この短編を見た王家衛(ウォン・カーウァイ)監督がチャン監督の才能に目をとめ、劇映画化を勧めたことがストンと納得できます。さらに、チャン監督が行った改編のうまさをも、つぶさに読み取ることができるのです。
『黒天』ではまず最初にホアン・ユィシアンありき、だったのでしょうが、日本で言えば梯剛之さんや辻井伸行さんといった感じですでに活躍しているユィシアンを、再度彼自身として『光にふれる』に起用するのは、冒険だったのではと思います。でも、チャン監督によって引き出されたユィシアンの演技力が、この映画をとても魅力的な作品にしています。前にも書いたのですが、アップで捉えられる彼の表情が実に雄弁で、映画の醍醐味を見る者に味わわせてくれます。
© 2012 Block 2 Pictures Inc. All rights reserved.
張榕容(サンドリーナ・ビンナ)が扮する小潔(シャオジエ)のパートが少し弱いと感じるのは、彼女のダンスが少々説得力に欠けるせいかも知れません。でもそれを補って余りあるのが、ダンス教師役の許芳宜(シュウ・ファンイー)の肉体表現。禁欲的なまでにコントロールされた肉体の動きで、研ぎ澄まされた美しい世界を表現して見せてくれる彼女のダンス。プレス資料によると、「台北とニューヨークを拠点に活躍する国際的に名高いダンサー。長年にわたり、マーサ・グラハム・ダンス・カンパニーの主要なダンサーの1人であった」とのことですが、ユィシアンの音楽と共に、豊かな世界が画面に広がります。
あと、私が好きなのは、寮の同室者チン君。エロ本をユィシアンの顔の前にかざしてみせて、「やっぱり見えねえか」という感じで確認してみたりと、ユィシアンの盲目というハンディキャップに同情するのではなく、それを単なる一つの現実として捉えている彼。この彼のキャラクターが、映画をさらに豊かに彩ってくれます。太ってるし、どちらかというとコミキャラなのですが、彼の存在で、最後コンテストに無理矢理出場するユーモラスなシーンも生きてきて、感動がよけいに深くなります。編集も担当している李念修(リー・ニエンシウ/ニサ・リー)の脚本、うまいですね。
何か、とても力強いものをもらった気がする『光にふれる』。あなたもぜひ、ユィシアン・ワールドを体験してみて下さい。2014年がきっといい年になりますよ。
わたしは映画祭で見逃してしまっていたので、こうして公開が決まってうれしいです。
インド映画の合間を縫って見に行けたらいいな、と思っています。
お知らせ、ありがとうございます。
この映画は二度目の鑑賞時も印象がまったくぶれず、むしろ新たな感動を与えてくれたので、やっぱりすごい映画なんだ~、と思いました。ぜひ、ご覧になって下さいね。
あと本日また、来年公開されそうなインド映画のタイトルが聞こえてきました。まだ、契約書の条項をいろいろクリアしないといけないとのことで、公開までには紆余曲折が残されているようですが、どこの配給会社さんも「時代はインド映画かも」と思い始めていらっしゃるようです。
来年は、インド映画の合間を縫っていただくのが結構大変になるかも、ですよ~~~。
最後のひと言ですが、いやいや、一芸に秀でていても自身が努力して飛翔しないとモテないのよ~、と言いたいです。というのも、『黒天』のユィシアンは全然印象が違うんですよ。どよーーーん、としてます(笑)。
というわけで、素敵なユィシアンからまず先に見ていただきたいのでした。