今日は『ジャイ・ホー』の日でした。『ジャイ・ホー~A.R.ラフマーンの音世界』の上映が夜にあったのと、その前にこの映画コーディネートをしたKさんに誘われ、日本に着いたばかりのウメーシュ・アグルワール監督をホテルに訪ねて、その後何時間がご一緒したのです。映画上映時のお話はあとにして、まずウメーシュ・アグルワール監督の素顔をちょっとお伝えしましょう。
『ジャイ・ホー』については、英語字幕付きDVDで見たのでその簡単な感想をDay 2レポートで書いたのですが、その時びっくりしたのは、ラフマーンが自然体で実によくしゃべっていること。聞くところによると、ラフマーンはもの静かな人で、あまりインタビューとかも受けないということだったので、彼にこれだけしゃべらせたウメーシュ・アグルワール監督ってどんな人なのかしら、と好奇心いっぱいだったのでした。会ってみるとアグルワール監督はこれまた静かに話す人で、「オレが、オレ様が」タイプが多いインド人監督とは対極にある人。何でも、大学で政治学を学んだあと映像制作現場に入り、テレビやドキュメンタリーを中心にスキルを積んできたとか。
で、驚かされたのは、アグルワール監督から昼食のご招待を受けたこと。実はアグルワール監督はベジタリアンで、この日は一緒に遅い昼食を取る予定だったため、「どこのレストランに行こうか、野菜天ぷらならOKかしら、でも、出汁や醤油のかつおのうま味がイヤというベジタリアンもいるし...」と、Kさんやもう一人のお仲間Mさんと頭を悩ませていたのでした。ところがロビーで会ったアグルワール監督は、「よかったら、部屋で一緒にインドから持参した料理を食べませんか?」と誘って下さり、お邪魔してみるとタッパーとアルミホイルの山が! すでに食べたあとの写真ですが、こんな感じです。
弟さんご一家とニューデリーのディフェンス・コロニーにお住まいのアグルワール監督、その弟さんのお嫁さんがいっぱいお料理を持たせてくれたそうで、この日はポテトのクミン炒め(右)、オクラのカレー(左)、それから青菜を炒めたカレーを、三角形のパラーター(パン)と共にいただきました。ちゃんと使い捨て紙皿やナプキンも用意されていて、弟嫁さんのおいしい家庭料理を堪能させていただきました。ホテルの部屋に、電子レンジを貸し出してあげたい...。なお、アグルワール監督ご自身は独身だそうです。
で、その後六本木に移動し、私は別の作品を見たあと、夜9時10分からの上映に臨んだのでした。
大画面、大音量で見た『ジャイ・ホー』は、DVDで見た時よりも格段の迫力で迫って来、もっと長くラフマーンのコンサート・シーンなどを見ていたいと思わせられました。惜しかったのは、字幕の方が「母なる大地に捧ぐ」の歌詞を誤訳してまるで母の日ソングのようになってしまっていたことで、映画の題名などはきちんと調べてあったのに、とかなり残念でした。「Vande Mataram」というタイトルでインド好きならピンと来るのですが、母国への敬愛を歌った歌なのです。英語字幕が「Mother!」となっていたので、それがいけなかったのでしょうね。
遅い時間にもかかわらず、広いスクリーン9には結構お客様が入っていて、アグルワール監督も嬉しかったと思います。終了後Q&Aがあり、通訳の松下由美さんと共にアグルワール監督が登壇、30分にわたって司会者や会場からの質問に答えました。
監督:まず、A.R.ラフマーンから、皆様へのメッセージを預かってきています。「この作品がTIFFに選ばれて嬉しいです。いつか日本の皆さんの前で、僕のライブができる日が来るのを楽しみにしています」(会場拍手)
Q:この映画の企画が立てられたのはいつですか? そして、どのくらいの時間をご本人と過ごされたのですか?
監督:ラフマーンが『スラムドッグ$ミリオネア』でオスカーをもらった時、インドでもすごく話題になったんですね。その中で、彼が9才の時父親を亡くしたこと、その後高校を中退して、一家を支えるために働かねばならなかった、ということを知りました。彼の努力に驚かされ、映画化してみたいと思ったのです。あまりインタビューとかを受けない人だと言われていたので、映画の提案をスポンサーとなる政府機関にした時、果たして受けてくれるのかと心配する声が出ましたが、「ともかくやってみるから」ということでスタートしました。
Q:最初ラフマーンはやはり辞退したのではありませんか?
監督:彼と話をするだけで4ヶ月かかりました。ずっとメールを送っていて、夜中に仕事をする人だからと聞いて、返事を一晩中待っていたこともありました。でも全然連絡が来なかったのですが、そんな時弟が、「チェンナイの彼の所に行って、返事をもらうまで動かない、と言ってみたら?」と提案してくれました。それで、チェンナイに行き、ラフマーンのお姉さんに会って話をし、彼女の紹介でやっと本人に会えたのですが、実際に会うともう5分後にはOKがもらえていました(笑)。それまで何ヶ月もかかったのが、たったの5分で、なんですよ。
Q:実際に会ってラフマーンに対するイメージが変わりましたか?
監督:気むずかしい人かと思いましたが、気持ちのきれいな、精神世界に生きている人、という感じの人でした。最初OKをもらった時に、「自分はこのあと2ヶ月間忙しいので、その間に他の人にインタビューしてもらえる?」と言われ、そのための口添えもしてくれました。ラフマーン自身のインタビューは主として彼のもう一つの家があるロサンゼルスで行い,夜型の人なので、仕事が終わったあとの毎朝6時から11時までをインタビューに当てました。毎朝5時45分に自宅に行くと、彼自身がドアを開けてくれ、インタビューを開始する、という日々でした。
(その後会場からの質問に移ったのですが、ちょっと質問をセレクトしてお伝えします。ごめんなさい)
Q:ラフマーンさんは普段どんな音楽を聴いていますか?
監督:いろんな音楽を聴いていますね。映画を見る時は音声をミュートにして、字幕を読みながら見ています。「音楽は、自分で想像しながら付けるんだ」と言っていました。技術面では常に最高のスタッフを使い、どんな人と一緒にした仕事なのか、毎回きちんとクレジットに出しています。最高のチームで音楽を作る人です。
Q:ラフマーンの奥さんへのインタビューがありませんが、断られたのですか?
監督:奥さんはラフマーン以上にシャイな人なんです。ラフマーン自身がインタビューに答えてくれただけでも、とてもラッキーだったと思います。
Q:ご家族はインドにいらっしゃるのですか?
監督:そうです。ラフマーンは世界中を飛び回っているので、その合間にチェンナイの自宅に戻ったり、世界のどこかで家族と会ったりしています。
Q:ラフマーンが改宗したことが出てきますが。
監督:ラフマーンは元々ヒンドゥー教徒として生まれ、父も映画界で仕事をしていました。母はとても信心深い人だったのですが、夫が原因不明の病気になり、ラフマーンが9才の時に亡くなってしまって、生活も困窮します。そういった状況に追い込まれて、母の宗教心に迷いが生じ、いろんな宗教に助けを求めた結果、イスラーム教の方がより心の平安が保てる、ということで、イスラーム教に改宗したのです。ラフマーンの話ですと、自分が改宗して1日5回のお祈りをするようになって、自分の内面をみつめることができるようになった、とのことです。自分がとても清浄で、スピリチュアルな存在になった、困難に遭遇してもそれを乗り越える力ができた、と言っていました。
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そういった、ムスリム(イスラーム教徒)としての側面も、『ジャイ・ホー』では描かれています。公開作品としては難しいかも知れませんが、この優れたドキュメンタリー映画に興味を持たれた配給会社の方、テレビ局の方は、ぜひTIFF事務局までご連絡下さい。予告編はこちらです。
この作品は見ていませんが親近感がわきました。
もしかしたら何処かですれ違っているかもしれませんね。
これから散歩の際には表札に注意します。
ご無沙汰しています。
ニューデリーには国営テレビ局DDがあったりするせいか、ドキュメンタリー映画作家の人が結構住んでいて、文化関係の催しがあると顔が見られたりします。
ディフェンス・コロニーには、あと映画評論家のアルナー・ワースデーウも住んでいますよ~。
ディフェンスのマーケットやあの辺のこじゃれたレストランにいらした時には、ちょっとあたりに目を配ってみて下さいね。
東京国際映画祭、終わってしまいましたね。
cinetamaさんが紹介していた「カランダールの雪」、賞をとっていましたね♪
アグルワール監督、俳優さんのような素敵な方ですね☆
ラフマーンさんと会うために待ち続けたり、落ち着いた雰囲気の中に情熱を持った方なんですね。
外食せず、手作りご飯をcinetamaさんと一緒に召し上がるところなどは、オレ様ではない人柄が感じ取れます(笑)
ラフマーンさんのストーリーも気になりますが、この監督が作った「ジャイ・ホー」、観たかったです♪
また日本で上映されることを願います!
映画祭への連日出勤と、最終土曜日の「インド通信」発送作業で、ほぼ1日、ヘタっておりました。
『ジャイ・ホー』は公開となると難しいかも知れませんが、どこかテレビ局が買って下さらないかな~、と願っています。
『カランダールの雪』はTIFFの監督賞を受賞、監督始めスタッフ&キャストのご苦労が報われてよかったです。
審査員特別賞を受賞した『スリー・オブ・アス』もイランを描いた作品なので、西アジア組が健闘した受賞結果と言えそうです。
来年はインド映画もコンペ作品に選ばれてほしいです....。