倒産回避コンサルタントからの救命ロープ

倒産回避コンサルタント・中逵努のブログです。
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村松謙一弁護士のコラム 2

2006年03月19日 | 企業再建について
コラムの著作権は村松弁護士本人に帰属します。
このブログ以外での引用等は固くお断りいたします。


弁護士ウオッチング 99年5月31日 日刊帝国ニュース
     弁護士 村松謙一
「倒産」は決して悲惨ではないとの臨床的報告(その2)

第3 「倒産は悲惨ではない」との私の仮説の根拠の
大前提(憲法第25条)

1 私が倒産を悲惨的に考えてはいけないとする根拠の
大前提は、次のところにあるのです。
 確かに一方においては、借りたお金は返さなければならない
ことは、子供でも知っております。
 私もそれを否定するものでもありません。
 しかし、もう一方の極には、「健康で文化的な最低限度の
生活をする権利」或いは生命を維持する権利も我々国民は
基本的人権として併せ有しているのです。
 換言すれば、決して自己、家族の生活、生命を犠牲にして
まで、ましてや犯罪を犯してまで返済をしなくても良いと
いうことを日本国憲法は謳っているのです(憲法第25条)

 この憲法を受けて、前述の基本的人権を実践するために各種
法律が様々な人権擁護を謳っております。
(1)例えば、「生活保護法」では、「健康で文化的な最低
限度の生活」を維持できるよう一定額の金銭の支給を規定して
あります。
(2)「民法」の分野でも借入金を返済しない場合、貸主の
究極の債権回収方法として、強制執行(差押え=競売)が
規定されておりますが、但し、差押え禁止財産として、
①生活に必要な家財道具は、差押えを禁止されています。
特に東京地方裁判所では、破産法第6条3項により、
破産財団に属しないものとして、平成8年(96年)
11月に差押禁止動産目録を作成し、今後、家財道具に
ついては、特に高価なものがない限り、処分を要しない
扱いとしたい旨の通達が出されているくらいです。
 これによれば、ほとんどの家の家財道具は差押えが
できないことになっています。
 又、②年金受給権も差押えを禁止されていて、将来の
老後の生活の安定、安心を保証しています。
 ③差押えの範囲としても、例えば生活を維持するために
必要な「給料」については、上限があり(原則として
支給額の4分の1)、その全額を差押えできないことに
なっております。
 これは、給料全額を差押えてしまっては、その人の
生活権を奪うことになり、生きる権利すら奪うことに
なってしまうからです。
 同じことは、「退職金」についても4分の1しか差押え
できないという救済になっています。
 更に給料や退職金については、会社が潰れて払えない
場合、国が立て替えて払ってくれる「立替金制度」も
完備されています。
 このように、従業員は、法で厚く守られているのです。
(なお、役員報酬については別途の考察が必要)

(3)又、「倒産関係法律」の分野(例えば破産法)に
おいても、①一般破産債権の中でも従業員の給料等の
労働債権は生活のための必要最低な資金ゆえ、「優先
破産債権」として、一般破産債権よりも優遇されている
のです。
 ②又、破産宣告後に働いて得た賃金等は、破産者の
自由財産として、差押えも出来ず破産者の生活に使って
いいことになっています(解釈論)。

(4)「労働基準法」上でも、賃金(給料)については、
「現金払い」でなければならず、手形・小切手・現物支給
等現金以外の物で交付することは、厳しく禁止されて
おります。
 又、いくら貸付金があろうとも、その貸付金と「天引き
(相殺)」処理も禁止されているほど、給料というのは
厚く保護されているのです。

(5)「税法」の分野においてさえ、災害時には、特例に
より納税の猶予、延滞税の免除の規定が置かれているくらい
です(国税通則法第63条)

(6)そして、その最たるものが、「破産法」に言う
「免責」の決定でしょう。
 場合によっては、国家が借金を帳消しにしてしまう
「徳政令」を出してくれるのです。
 この免責は、借金がギャンブルや著しい浪費で増えて
いったものでない限り、原則として、「免責」となる
手続きなのです。

(7)又、再建するためにも、法は各種の法規を整備して
おります。
  会社更生法
  民事再生法
  商法上の整理
等です。
 特に法的手続きでは、①一時的に、一切の返済を停止する
「弁済禁止の保全処分」②借入金金利の劣後債権化(未発生)
③借入金残元金の大幅カット④会社の体力にあわせた返済
計画の是認、等の措置により、会社を救済するシステムが
用意されております。

(8)競売手続きにおいても、バブル経済崩壊後は、
不良資産の処理のためん、市場に競売物件が多く出過ぎて、
実際に買い手がつくものは本当に良い物などごくわずかで
あり、競落率も10件のうち、3~4件に過ぎないのです。
(注 執筆当時と比べ、不動産市況および競売環境が
少し変化しています。)
 競売の申立をされたからといって、直ちに立退く必要も
なく、競売を過度に恐れる必要はありません。最低競売
価格を若干上回る金額で、申立担保権者と協議して、
競売を取り下げてもらった例は多数あります。
 ただ、ここで誤解して欲しくないのは、なんでも
かんでも破産による免責を受けなさいと勧めているのでは
決してないということです。
 本当に八方塞がりで逃げ場を失ってしまった状態と
しても、いざとなったら「免責」という規定があるから
安心して事にあたりなさいという意味で、免責の規定を
頭の片隅で覚えてもらえば十分なのです。
 競売通知が届いたときに違法な手段を使ったり、暴力団、
事件屋、整理屋に依頼して事をすまそうとしては、絶対に
ダメです。
 法律に違反しては、せっかく倒産=悲惨ではないとの
考えが、倒産=悲惨に逆戻りしてしまうからです。
 寧ろ、「法律の範囲内での今まであまり知られて
いなかった様々な再建のテクニック」を次の章で説明して
いきますが、その根底には、債務者の誠意、真摯な対応
法の遵守と相手の立場に対する配慮、感謝の気持ちから
出発していることを決して忘れないで欲しいのです。
 特に再建の現場で大切なことは、「等しからざるを憂う。
知らざるを憂う。」という債権者心理と、絶対に裏切らない
という債務者の誠意です。
 特に債権者たる金融機関側の目で見れば、会社の収益力に
合った任意弁済であれば、金額の多い少ないではなく、
極論すればわずか10円の弁済でもよいのです。他の
債権者と比較して公平であれば文句のつけようがないのです。
誠実に返済努力をして、それしかできないならば仕方がない
のです。
 そして、私が説明するこれら様々な再建の手法の中に、
皆さんがこれまでに抱いていた怖さ、不安感、問題点の
対処方法を見出していただければ、このコラムを読み終える
頃には、「なんだそうなんだ。誠意を尽くして、真面目に
返済に取り組めば、直ぐには家屋敷が取られることも
ないんだ。競売ったって、場合によっては、しばらく家に
住んでいられるんだ。夜逃げをするまでもないのか。
一生借金に苦しめられることもないんだ。
 仮に借家住まいになったって、自分を頼りにしてくれる
妻や子供がいるじゃないか。暖かい灯し火が待っているじゃ
ないか。心の苦しささえ克服できれば、何よりも大事な
その家族を守れるんだ。生きていれば、きっと何か
良いことがあるさ。倒産と言っても命まで取られないさ」
と認識を新たにしていただければ、このコラムの役目は
十分にはたされたことになると考えます。

 現に、私の周りには、生の絶望の淵から何とか生還して
新たな人生を迎えている経営者が多勢いるのですから。
 
 最後に、これだけは断言できます。

世の中で一番大切なものは、
お金や名誉や家(物件)の存在ではありません。
 そんなものは、後からどうにでもなります。
 本当の幸せとは、自分を励まし、勇気を与えてくれている
「家族の存在」なのです。
 逆に倒産で一番おそろしいのは、孤独感です。
そして家族の絆は、何人も、絶対に倒産によって
断ち切ることはできません。
否、絶ち切らしてはならないのです。
万一倒産しても、全てを失うわけではありません。
そして、このコラムは経営に苦しんでいる経営者の
奥様方にもぜひ読んでもらいたいのです。
さあ、勇気を出して、経営にあたってください。


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