うちの団地の階段に、さなぎがいる。
去年の秋も深まったころ、ここに3cmくらいの青虫がいた。
かわいさのあまり、三十路は指先でプニプニと触ったものだった。
青虫は自分を守るため、臭い匂いのする黄色いツノを出して
抵抗していた。
数日後、画像のような「さなぎ」に変身していた。
「なぜ、こんなところに・・・」
冬になって、その理由がわかった。
この壁は北西に向いており、関東のカラッ風をまともに受けずに
済むのだ。
今年に入って、雪が降ったが、この壁には雪が積もらなかった。
壁の向きが、さなぎを吹雪から守りとおした。
生き物の神秘・・・というものだろうか。
あの青虫は、すべてを読んでいたとしか思えない。
あんなちっぽけな虫が。
春がやって来た。
さなぎは、細い糸で壁と結ばれている。吹けば飛んでしまうような
細い糸で。
一見、生き物のようには見えない。これも、さなぎの自己防衛本能
から来るものだろうか。
この小さな茶色いさなぎの中で、確実に羽化の日を待っているのだろう。
毎日、階段を昇り降りするたびに観察しているが、まだらしい。
どんな蝶が羽化するのだろうか。
自分も、このさなぎのように、いつか羽化する日が来るのだろうか。
地球上の小さな島にくっついている、粒みたいな自分が。
いつか、美しい羽をひろげる日が来るのだろうか。
雨や雪や、冷たい風に耐え続けて羽化した蝶は、さぞ美しいことだろう。
・・・強いな・・・。
この「さなぎ」を見るたびに、ともすれば絶望しそうになる自分が
さなぎよりも弱い生き物のように思えてならないのだ。
君の強さに憧れている人間がいることを、君は知らない。