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「特別損失」の心理学

2016-01-24 | 会計・株式・財務
まずは、ラグビーLIXILカップ決勝戦「パナソニック対東芝」、実に面白かったですね。途中の蹴り合いには少々閉口しましたが、ラストワンプレーはあの南アフリカ戦を彷彿とさせ、大興奮。最後、東芝のゴールキックが外れ、逆転には至りませんでしたが、ラグビーブームに相応しい名勝負と言っていいでしょう。そしてラストシーンから松任谷由美の名曲「ノーサイド」の歌詞を連想された方も多かったのではないでしょうか。
「彼は目を閉じて枯れた芝生の匂い 深く吸った長いリーグ戦しめくくるキックは ゴールをそれた」。


さて週末はネタ仕込みを兼ねて数冊の本を読んでおりましたが、ラグビーともゆかりのある会社ということで、今回はこの本からご紹介。
危機を突破する力 これからの日本人のための知恵 (角川新書)
丹羽宇一郎
KADOKAWA/角川書店


著者の丹羽宇一郎氏はご存知、元伊藤忠商事社長。1998年に社長に就任すると、99年には当時産業界最大規模とされる約4,000億円の不良資産を一括処理。これは丹羽氏にとっても人生における最大の決断だったとしており、当時の裏話が書かれております。

以下、興味深かった点を抜粋しますと・・・・・

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バブルが崩壊するまで拡大戦略を取り続けた伊藤忠は、いつの間にか土地やビルの不良資産を抱え込んでいた。稼いでも稼いでも不良資産に利益が吸収されていく。これでは社員の士気が上がらず会社そのものが傾いていく。私はもとになる膿を全て吐き出すべくタスクフォースを組織して、不良資産の洗い出しに取り掛かった。

私の長い会社経験からすると、保有資産の含み損は当初表面に出てきた額の3倍ほどに膨れ上がる。3倍に科学的根拠があるわけではない。最初に1億円の含み損があれば、実際は3億円という経験則による。

社員は損失を出せば上司から叱責されるため、できるだけ損失を低く見積もる傾向がある。すぐに表面化する損失をまず出して、それ以外はそのうち何とか解消すると考える。

そんな時、社長としては、
「これだけということはないはだろう。これまでの損失は過去分だから、社長が全責任を持つ。しかし、もし今後これ以上の損失が出たら、全て君たち部長の責任だから覚悟して欲しい。場合によればクビにするかも知れない。これは最後通牒だ。」

そんなふうに言えば、さらに同額出てくる。最初が1,500億円だったら、3,000億円になる。

ここで「よし、もうこれでいいだろう」と思ったら大間違いである。まだ少し楽観的にみてあちこちで眠っているため、最後の「ゴミさらい」をやる。そうすると、さらに1,000億円が出る。

損失処理をやるべきか、やらざるべきか。誰にも相談しなかった。(中略)失敗したらどうなるかということだけは頭にちらついた。グループ何万人という社員とその家族が犠牲になる。(中略)社長というのは孤独である。孤独に耐えられるかどうか。そこでそれまでどれだけ強く生きてきたかが試されるし、孤独が人を強くもする。社長が孤独でなければその会社はうまくいかない。

(中略)成否を分けたのは、私心や私欲を捨てて事にあたった かどうか。
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当時と比べますと、商社のリスク管理体制は格段に充実し、自己資本も厚く、また減損会計の導入による早期の損失処理も進んでおり、98年の伊藤忠のような局面に追い込まれることは無いと思います。しかし資源価格の急落ぶりも半端ない状況でもありますので、総合商社にとどまらず、事業会社を含めて、多額の不良資産処理をするのでしたら、丹羽氏のように早めに膿を出し切って欲しいですよね。今度の決算は「社長の胆力」にも注目ですし、丹羽さんの体験談が読み返されることになると予想しております。


エッ、でも、なぜ伊藤忠がラグビー関連かって?
伊藤忠東京本社ビルは(決勝戦が行われた)秩父宮ラグビー場に隣接しておりますので。

またいきます。

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