きみの靴の中の砂

詩人、新道を開く





 新川和江さんの『詩が生まれる時』を読む。
 本作は『詩人本人が自らの作品に解題を付けた詩集』、いわゆる自註本の体裁をとる ----- その解題が短い随想になっていて興味深い。

 詩人は『あとがき』に書く。
1. 自作について書いたり語ったりすることは見苦しい。解説なしで通じるよう、表現を工夫したい。
2. 『詩は光のように、ひびきのように一瞬のうちに(読者に)感受』されるべきものだから、作者は(解説などせず)だまって作品を差し出すだけでよい。
 にも拘わらず、加齢のせいで、自戒の箍が弛んでしまった ----- しないつもりのことをしてしまった、というのだ ----- だが、実は、かつてこの誘惑に負けた歌人、詩人はいて、会津八一の『鹿鳴集』、尾崎喜八の『富士見高原詩集』という自註本が存在する。詩人達が、なぜ、それをを書きたくなるのかについての説明は、尾崎喜八の同書のあとがきに詳しい。

 さて、自作の詩と随想を組み合わせたこの形式の著作は、『詩人』にとっては『詩の履歴書(2006)』に続き、二作目。
 それぞれの詩が生まれた日の空模様や、芽を出した土のぬくもり、吹いていた風のこと、流れていた水のことなどを自分のための覚え書きとして書きためたに過ぎないと本人は謙遜するのだが...。

                               

 心引かれるテーマが見つかると、詩心が動き始めるのを何日も、あるいは何週もじっと待ち続け、遂にやって来る最初の閃きの中で第一稿を書く。そして稿を改め、単語を確認し、言葉の前後を入れ替え、そこで改行を行うべきかどうかを数日悩む ----- そうして一篇の詩ができあがっていく ----- そんな制作現場の息づかいが聞こえてくる。




Petula Clark / My Love


 

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