2007年、初夏。鎌倉の朝。海の見える家。
ぼくと水口イチ子の生活を撮り続けてきたフイルム、コダクローム64の製造終了が伝えられ、昨年末の製造ロットが最後となったようだ。
あとは世界中の流通在庫のみ。
それだって、フイルムは生鮮品だから、どんなに買い占めても来年の夏には使用期限が来る。
結局、どんなものにも終わりはあるということだ。
窓辺。
「諸行無常っていうわけね。それで、フイルムは少しは蓄えたの?」とイチ子。
「いや、買ってない。どんなものでも最期を迎える時に未練がましいのは良くないよ。フイルムは、あと残り一枚。それでホントにオシマイ」
「ふーん、そうなんだぁ。何か記念になるものを撮りたいわね」
海岸へ下りる相談をした。
最後の一枚は、イチ子がシャッターを押した。
【Alan Sorrenti / If You Need Me Now】
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