きみの靴の中の砂

『鹿肉入りました』





 暑い休日だった。
 富士見坂の切り通しを下った商店街の外れにある、今はすっかりめずらしくなった萬年筆屋に愛用の古いペリカンを修理に出した帰り道のことだ。笛木の商店街には東京では一、二軒しかないという獣肉屋があって、店の前に『鹿肉入りました』と貼り紙がしてあるのを見つけた。
 そう言えば来週の土曜日はきみの誕生日だから、鹿肉のコンフィかアイリッシュ・シチューのどちらかを作ってあげられるなと思った。

 当日、バタバタとシチューを用意するより、コンフィなら予め作り置きが出来る利点と、この間のぼくの誕生日に叔父さんがくれたシャトー・ラトゥールもあることだし、メニューは鹿肉のコンフィに決まり。ただ、鴨が禁猟中でフレッシュな脂身が手に入らないから、まあ、賛否両論あるけど、今回はサラダ・オイルで代用することにしよう。

 さて、きみは今頃、何をしているだろう。今日は、久し振りに母親と買い物に行くんだと言ってはいたけれど...。



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The Beach Boys / Why Do Fools Fall In Love?


 

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