動くものを見つけ、二人は双眼鏡を覗く。やはり声の主は、コゲラではなかった。その鳥は、枝から枝へ、林の中を素早く飛び回っている。一羽ではない。群だ!全体的には白っぽく、頭は黒、お腹にもネクタイのような、黒いラインがある。大きさは・・・スズメくらいだろうか。
僕はおだちゃんの方を見て、ニヤリとする。
「シジュウカラだよ。」
「へぇ~。やっぱすごいんやね、あっくん。」
ニヤリが少し引きつる。現れたのがシジュウカラの群でよかった。この鳥は夏休み中の、朝バードウオッチングの時、ちょくちょく観察していたのだ。真悟がいない今、なんとかして乗りきらねば・・・。コゲラがレア鳥で、僕が鳥にめちゃくちゃ詳しいと思っているおだちゃん。なんか、だましてばっかりだ。少し申し訳ない。っと、ここでおだちゃんがひらめいたらしい。
「そうや!あの…シジュウカラやっけ?あれがおる林の中に入ってみようや。」
「え?ええけど…すぐ逃げるんやない?」
「やってみんとわからんやろ?コゲラも出てくるかも!」
僕は悩んだ。真悟とバードウオッチングをする時はいつも、“鳥を驚かせるようなことはすんなよ”っと言われていたからだ。でも、おだちゃんの気持ちは理解できる。
僕だって、もっと鳥に近づいてみたい!!
「よし!行こう!」
真悟がいないのは、ピンチでもあるが、見方を変えればチャンスだ。少々羽目を外しても問題ない!こうして二人は、林の中へ飛び込んだ!!
とはいっても、近づくのはやはりゆっくり。僕がおだちゃんの前に立って進む。シジュウカラとの距離はかなり近づいたが、今のところ、鳥たちに慌てた様子はない。“ゴツッ”足が木の根っこにぶつかった。
「あぶね~。上にばかり気をとられた。おだちゃんも気を…」
遅かった。“ゴツンッ”
「うわ!!」
根っこに躓いたおだちゃんは、悲鳴以上に大きな音を立てて、思いっきりよく・・・こけた。昔と変わらない運動神経。カワセミを見つけた日の、おだちゃんのこけっぷりを、また思いだした。
「大丈夫!?」
「また服汚したし。へへ。」
どうやら大丈夫らしい。あっ、そうだ!シジュウカラ!流石にこっちは、大丈夫じゃないかなぁ・・・。おそるおそる振り返る。
“ツツピー ツツピー”
「おぉ!!!」
そこにはなんと、さっきまでと全く変わらず、シジュウカラ御一行が。やっと立ち上がったおだちゃんも、相当驚いたらしい。
「あっくん…この鳥全然逃げんぞ。」
セリフが棒読みだ。おだちゃんが、いくら存在感がないからって、これは異常だろ。何はともあれ、格段に観察しやすくなった。鳥たちは目と鼻の先。自然とテンションも上がってくる。
「いや~。僕たちすごいんじゃない??」
「俺も鼻打ったけど、感動。…あれ?あっくん、色違いがおる。」
「へ?」
「ほら、あそこ!右の方。」
僕は急いで、双眼鏡を右の方へとずらしてゆく。・・・・いた!オレンジ色のシジュウカラ!いや、シジュウカラによく似た、別の野鳥だ!おだちゃんから、聞いてほしくない質問が・・・。
「あっくん、あれは何?」
恐れていた事態発生。鳥に近づきすぎた罰だろうか。真悟~!!鳥の名前わかんね~!!!