DREAM-BALLOON

夢風船って
地球なのかな?って思ったりする...

ブログ開設から4000日!

77:ツルの里~朝食~

2010-06-01 22:49:49 | ★DAILYLIFE★(acco小説)
 「1、2、3、4っと。よし!全員集合だな!」
朝食会場の前。3班班長の南竹治さんは、それはもうテンション高く、メンバーを確認する。勿論、1~4とは藤村晃宏、植村真悟、翁賀勇気、砂井あゆみちゃんのことだ。
「タケさん・・・朝からノリノリですね。」
「そういうあっくんたち中学生3人は、やけに疲れた顔だぞ。大丈夫か?」
オッキーが答える。
「多分・・・朝食食べると元気になると思います。」
タケさんも、まさか3人が5時半起きとは夢にも思っていないだろう。ところであゆみちゃんは・・・うん。いたって普通な感じだ。

 朝食会場に入る3班。香ばしいような、甘いような、なんともいい匂いが漂っている。とたんに、真悟の鼻がピクピク動く。
「む。この匂いは間違いないぞ!手作りパン!!!」
どうも真悟は食品に強い。
「うん。なかなかの鼻ねゴリラ君。間違いなくクロワッサンはあるわ!!」
やった!クロワッサン大好物!って、あゆみちゃんも嗅ぎ分け出来るんかぃ!!しかも真悟よりレベル高!タケさんも驚きを隠せない。
「おぉ・・・!すごいな、その通り。今日の朝食は、九黒婦人会の皆さんによる手作りパン!どんどん食べて。・・・あっ。その前に。ちょと紹介したい人が・・・。」
やけにタケさんがニヤけている。誰だろう?
「お~ぃ!のぞみ~。」
のぞみ?
「は~い。」
返事をして、こちらに向かってくる所を見ると、どうやら“のぞみ”というのは、パンを並べている、つまり婦人会の方の一人のようだ。タケさんとのぞみさん、それと他の4人が向かいあう格好になる。

「紹介しよう。妻ののぞみだ。」

へぇ!タケさんの奥さん!ふと、僕と目が合う。気づいて叫ぶのは同時だった。
「あっ!!」
「まぁ!!」
なんとのぞみさんとは、前に僕が家族で九黒に来たとき、偶然話をしたあのおばちゃんではないか!!相手も、僕の顔を覚えてくれていたらしい。
「なんだ?のぞみとあっくんは知り合いか??」
「ええ。まぁちょっと・・・。ね?」
「はい、ちょっとした。」
“グゥゥー”真悟・・・もしくはあゆみちゃんのお腹の音が響く。
「あの・・・細かい事はパンを食べながらにしませんか?」

 僕はちょ~美味しいクロワッサンをかじりながら、班のみんなに説明した。っと言っても
「1ヶ月前くらいに、家族で九黒に来て、その時に少しお話したんです。」
っていう1文で終わる程度の説明だ。のぞみさん自身は、ほかの班の人たちにパンを提供する仕事があるから、僕たちの話には加わっていない。
「へ~。それにしてもすごい偶然ね。まさかその方が私たちの班の班長の奥さんだなんて。」
そう言いながら、あゆみちゃんはメモをとる。なんの意味があるのかわからないが、朝っぱらから結構なことだ。
「そういえば、のぞみが鳥が好きな中学生に会ったとか、ちょっと前に言いよったなぁ。あれがあっくんの事だったとは。神秘的なものを感じるな。」
大げさだろタケさん!決して口には出さない。
「俺、パンの御代わり行ってくるね~。」
「待ってゴリラ。俺も行く~。」
真悟とオッキーは、食べる方に夢中。こっちの話に興味ゼロだ。
 僕はどうも、旅行に行くと食欲が落ちるクセがある。そんな僕に対して、いつまでも食べ続ける真悟とオッキー。タケさんとあゆみちゃんは、先に部屋へ戻ってしまった。今日の予定は、午前中に班ごとで発表の話し合い。そして午後からは、フィナーレの全体発表!
「ちょっと外に出ちょくね。食べ終わったら来て。」
「はいよ。このクルミパンうまっ!」

 外はとても寒かったが、なんだかすごく落ち着く景色だ。きっと人工物が少ないからだろうと思う。
「はぁ・・・。」
思わず独りでため息をつく。全体発表のことを考えてしまったからだ。このすばらしい環境にもかかわらず、減り続けるツルの渡来数。今思うと、僕たちの班は、発表に使えるような解決法を何も考えていないじゃないか!のん気にパンをバクバク食べている場合ではない!そんなことを考えて、途方に暮れかけているときだった。
「藤村君。」
後ろから、名前を呼ばれた。なんと、のぞみさんではないか。
「あっ、どうも。」
パンの世話がひと段落したのだろう。
「前に会った時、『必ず来ます。』って言ってくれたけど、こんなに早くまた来るとは思わなかったわよ。」
「自分でも、思ってませんでした。さっきいた友達の片方に誘われたんです。『九黒ナベヅルミーティング』なるものがあるから参加しないかって。」
「案外、九黒も危機的状況だってわかったでしょ?」
「そう・・・ですね。」
“将来は君みたいな人に、この九黒を守ってもらいたいわねぇ・・・。”
前に言われたときは、さっぱりわからなかったこの言葉の意味も今ならわかる。っと、目の前の道を、中学生らしき女の子2人組みが自転車で通り過ぎる。ウインドブレーカーでテニスラケット所持。僕と同じソフトテニス部に違いない。きっとその2人を見て、ふと思ったのだろう。のぞみさんが話題を変える。
「そういえば!この町では、小学生のときから、ナベヅルについて授業で学ぶのよ。冬は実際に観察もするしね。」
「へぇ!うらやまし~!!」
なんて夢のような!!
「楽しそうでしょ?でもまぁね・・・理由が理由だからあんまり喜べないんだけど。」
「あのぉ・・・理由って・・・?」
中途半端にそそのかした事を申し訳なさそうに、慌てて説明するのぞみさん。
「あっ、だから、このミーティングの目的と一緒で、ナベヅルの渡来数の増加・・・ってことなんだけど・・・。そのまた理由が大事で・・・そうだ!クイズにしよ!」
「とっ、突然ですね!」
昨日の夫であるタケさんに続き・・・。夫婦もやっぱりやることが似てくるものなのだろうか?

「問題です!どうしてナベヅルの渡来数が減っちゃいけないの?もっと言うと、どうしてナベヅルが来ないといけないの?」

「そりゃ勿論・・・」
クイズというより追及のようなものに答えようとしてびっくりした。僕たちは昨日から、この『九黒ナベヅルミーティング』に参加し、ナベヅルがの渡来数が減ってきている事を知り、それを止めようとしている人たちの努力を知り、改善していく方法を考えてきた。それなのに・・・

その考えてきたことを考えている理由を、考えていないことに気づいたから。