DREAM-BALLOON

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78:ツルの里~二の次~

2010-07-02 22:56:37 | ★DAILYLIFE★(acco小説)
 「どうしてナベヅルが、九黒町に必要なのか・・・ですよね??」
なんだろうこの感じ。当たり前にわかりそうなのに、はっきりと言葉に出来ない。悔しいけど、のぞみさんから正解を聞くしかなさそうだ。
「う~ん・・・すいません。わかりそうでわかんないです。」
のぞみさんは、そこを考えてないと駄目じゃない!っと言いた気な顔で教えてくれた。

「完結に言うと、この九黒町の経済がナベヅルに支えられているからよ。」

・・・ナベヅルが経済を支えている?まだピンときていない僕の顔を見ながら、のぞみさんは詳しい説明に入る。
「ここ九黒町はね、自然は豊かなんだけど、若者は少ないし産業もないから、お世辞にも活気がある町とは言えないのよ。普通だったら町自体がつぶれてもおかしくないんだけど、なんとかなてるのは、観光業があるから。つまり、冬場の観光客のお陰よ。」
「あっ、そっか!観光客って、ナベヅルを見にくる人たちのことですね。」
「そう!だから、ナベヅルがこなくなってしまって、観光客がいなくなったら町は大変な事になるの。」
“理由が理由だからあんまり喜べないんだけど。”っていうのは、子どものうちからツルについて学んでおかなければ将来的に自分たちがツルを守れないという理由、ということか。
「まぁもう今やこんなに減っちゃって、今年なんか13羽。10年以上前からタクシー会社が倒産するとか、被害はもう出てるんだけど。」
「倒産・・・ですか。」
どうしようもなさそうな顔をするのぞみさん。まさかそのタクシー会社の社長だった人が、昨日乗ったタクシーの運転手だとは夢にも思わない。
「ちょっと説明が難しかったかもしれないけど・・・わかってもらえた?」
「えっ?あぁ・・・はい!」
うん・・・のぞみさんの言いたい事は理解出来た。でもなんでだろう。正解を聞く前に、僕がぼんやりと思っていた答えとはちょっと違う気がして、しっくりこない。のぞみさんは、冷え切った手に白い息を吹きかけて、寒さを紛らわせながらたずねる。
「ところで藤村君。今日は午後から全体発表だけど、3班は大丈夫そう?」
うわぁ!そうだった!!午前中はそのための準備だっけ?ていうか、大丈夫そうな訳がない。
「正直、大ピンチです・・・。僕たちの班って、班長のタケさん以外がみんな素人じゃないですか・・・。他の班みたいに専門家みたいな人の集まりじゃないから、どうやったらナベヅルの数が増えるのかとかわからないですし・・・。」
うつむく僕に対する言葉は、さらりとしたものだった。

「そんな事、全然関係ないと思うよ。」

「・・・?」
笑顔で続けるのぞみさん。
「難しいこと考えなくても、自分たちがこの2日間で実際に体験して、思ったことを発表してくれたらいいの。」
「う~ん・・・。それすらも僕たちには難しいような。」
「そりゃまぁそうよねぇ・・・。」
困った顔になったのぞみさんは、訳のわからない事を言い出した。
「じゃぁ・・・助けになるかわからないけど、さっきのクイズの答え取り消し!!」
「はぃ!?!?」
あんだけ語ったじゃないすか!!
「取り消し・・・でもないか。そりゃぁ同じクイズを出したら、夫・・・君たちの班長だって、副会長の2人だって、『この町の経済が・・・』って答えると思うのよ?でもそれって、実は二の次な理由なのよね。」
「二の次?」
「そう!藤村君たちも、ナベヅル資料館の大きな白黒写真、見に行ったんよね?覚えてる?」
「あっはい。」
何十羽というナベヅルが空を舞っている感動的な写真。忘れる訳がない。のぞみさんは、あの写真を頭に思い浮かべているような顔をしながら、訂正したクイズの答えをつぶやいた。

「ほんとはみんな、あんな風景を実際に見てみたいだけなのよ。」

・・・あっ。
「ありがとうございます!なんか発表頑張れる気してきました!!」
「そ、そぉ?お役に立てたならよかったけど・・・。」
本当に発表もなんとかなる気がしてきたのだ。今度の答えは、僕がなんとなく思っていたものに、多分近かったから。

 「お~ぃ!あっく~ん!!そこにおったんか~!!」
あれ?50mほど離れた『九黒ナベヅル交流センター』の前から、大声で僕を呼んでいるのは・・・タケさん!?こちらも叫び返すしかないので叫び返す。
「なんかありましたか~!?!?」
「あっくんがどこにもおらんけ探しよったんじゃ~!!オッキーとゴリラ君に聞いても知らんっていうし!!」
あの2人!ちゃんと外にいるって言ったのに・・・。どんだけ食べるのに夢中だったんだよ。
「夫があんなに叫んでるの久しぶりに見たわ。さっ、行っておいで。」
のぞみさんが背中を押す。
「ほんと・・・ありがとうございました!」
僕はタケさんのもとに走る。

 「すいませんでした。一応2人には言ったつもりだったんですけど。」
「のぞみと・・・何の話しよったんか?」
「えっと・・・色々です。」
「・・・まぁいいや。」
僕はふと、交流センターに入る前に、あの質問をしてみたくなった。入り口で足を止める。
「あの、タケさん。基本的なこと聞くんですけど、どうしてナベヅルの渡来数を増やすために努力されてるんですか?」
振り返ると同時の即答だった。
「それはね、この町の経済を支えていく為だよ。もしナベヅルがいなかったら・・・」
“君たちの班長だって、副会長の2人だって、『この町の経済が・・・』って答えると思うのよ?”
あぁ・・・やっぱりそう答えるんだ。っと、タケさんがさっき聞いたばかりの説明を続けている時だった。

“クルルゥ!クルルゥ!!”

力強いナベヅルの鳴き声が響く。
「この町の観光・・・おっ!!今日は遅めのお出ましだな!!ナベヅルは、夜をねぐらで過ごして、朝になったらこっちの田んぼに飛んでくるんだ。」
僕とタケさんは、空を見上げた。今、一緒に飛んできたのは・・・13羽いるうちのたった5羽。数は少ないが、一瞬あの白黒写真が頭の中に映し出されたのは、タケさんも同じだったのかもしれない。細い目で朝日を浴びて旋回するナベヅルを見上げたまま、タケさんが僕に言う。

「さっきの質問の答え・・・忘れてくれ。」