本当についさっきだ。僕と佳昭に、自分たちの手で自然を守りたいと話してくれたのは。そんな原口さんが今、
小さなスズメの幼鳥1羽の命を救うことにすら反対している!
「死んでくれ・・・って。それ・・・え??」
原口さんの事がわからなくなってきた。しかし、そんな事に関係なく、話は進む。
『言っとくが、わしが悪人な訳じゃぁないぞ。ちゃ~んとあのポスターにも書いてある。『野鳥のヒナを拾わないで下さい!』にはの、拾ってはいけない理由が、大きく2つ書いてあったんじゃ。』
「え?2つ・・・ですか?」
『まぁ2つ目は小さく下の方に書いてあるだけじゃからの。気づかんでもしかたない。1つ目の理由は晃宏君も知っとるように、飛ぶ練習をしている正常なヒナが、人間の勘違いで保護されてはいけないからじゃ。』
それはわかる。でも原口さんは、今回のスズメの幼鳥は怪我をしている可能性が高いと言った。・・・それって!
「2つ目の理由には・・・怪我したヒナをそのままにしとけって書いてあるってことですか?」
『まぁ・・・そんなとこかの。』
・・・信じられない話だ。
だって・・・おかしいと思う!元気なヒナを人間の勘違いで保護するのが間違っているのはわかる。でも、怪我したヒナを見捨てることに意味があるとは・・・
『ちゃんと意味があるんじゃ!』
僕の考えている事を見透かしたような原口さんの声は、強い口調ながらも、少し悲しそうに聞こえた。
『自然界ではの、“死”というものにもちゃんと意味がある。鳥たちは、すごい数の虫を食べ、その命を奪いながら生きとる。じゃがの、いつかは死んで、今度は逆にその虫たちの食料になるんじゃ。虫たちが絶滅することもなければ、すべてのヒナが成長できるわけじゃぁない。命を支えあうことで、自然界はバランスを保っとるんじゃ。自然を守ることと、全ての命を救うことは違う。晃宏君もそのことは知っとかんといかん。』
「・・・はい。」
よ~くわかった。あのスズメの幼鳥には気の毒だが、こんな事を言われては・・・犠牲になってもらわなければならない・・・かと思ったが、単純にそういう話でもなかった。
『ただの。保護するという選択肢もある。』
「・・・ありなんですか!?」
『おぉ。レンジャーの中にも、保護する派はおるし。治療して、また自然界に戻れるのならそれは悪いことではないしの。ただ・・・そう上手くいかん事も多い。人が育てた野鳥が自然で生きることは、そう簡単な事じゃぁないからの。・・・とまぁ長く喋ったがの!決めるのは晃宏君自身じゃ!好きに決めてくれ~。』
「は、はぁ・・・。」
原口さん・・・最初なんか機嫌よくなかったし、さっきまで結構重たい話してたのに。なんか最後、いきなり投げやりなったな!!
いやしかしこれ。考えたら、軽い気持ちで出来る決断じゃない。ピンク公衆電話の受話器を握る手に力がこもる。
僕の決断に、1つの命がかかってるんだ。
目の前の1つの命か・・・自然のバランスか。ここはゆっくり考えて・・・っと僕の肩を誰かの手が弱弱しくつつく。またも存在をすっかり忘れてた。山田さんだ。・・・あれ?さっきより真っ青で歯がガクガクして・・・そっか。
制限時間!!!
「ふ、藤村君。も、もう・・・ほんとに終わるぞ!」
・・・どうしよ。せかされると・・・なんかもう頭の中がぐちゃぐちゃだ!!
「原口さんはどっちの方が・・・」
『どっちが正解ということはない!!晃宏君が納得出来る方を選べばええ。』
・・・そうだ。決めるのは僕だ。
僕が決めないといけない!
確かにスズメ幼鳥の命は助けたい。でもその気持ちは本当に、自然界、さらにはスズメの幼鳥自身の事を考えての気持ちなのだろうか?もし無事に怪我が治ったとしても、原口さんの話だと、このスズメは自然の中で生きていけないかもしれない。そうなった時、あのスズメの為によかったと心から思えるのだろうか?!・・・よし。決めた!!!
「草むらに移動するだけに・・・」
“ビー!!!!”
通話時間がなくなることを知らせるブザーが僕の声をさえぎる。
・・・違うかもしれない。そうだ。さっき約束したじゃないか。
絶対助けるって!
「閉園時間過ぎると思いますけど、待っててもらえますか?スズメと一緒にすぐ行きます!!」
『よし!任せと・・・ツー ツー ツー・・・』
ゆっくりと受話器を戻す。
「ふぅ~~~ぎりぎり!!」
「よ、よかったぁ~。」
山田さんは、へなへなとその場に座りこむ。って、そんな場合じゃない!
「山田さん!立ってください!スズメをほったらかしにし過ぎですって!早く様子を見に行かないと!」
「おぉ・・・そうだった。」
急いで店の外へ出る。かなり長い間そばを離れていたけど・・・よかった!さっきの場所からほとんど動いておらず、やっぱり小さくうずくまっている。
「・・・お待たせ。」
―伊豆背自然観察パーク
「よし!任せとけ!この原口様の権限で開けといてやるぞ!・・・って電話切れとるじゃないか。」
受話器を置くと、原口さんは険しい表情に変わる。そばには、途中で受話器を取り上げられた浮かない表情の二町さん。
「おい・・・二町さん。さっき晃宏君に、草むらに移動させるだけでええ、それでスズメの幼鳥は助かるって言ったの。あれ・・・どういう事か?ほんとに、車道で動くこともできん状態の幼鳥が、草むらに移動しただけで助かると思ったんか?」
「・・・。」
二町さんは、うつむいて答えない。原口さんはもう一度聞く。
「助かると・・・思ったんか?」
「思わなかったです。」
返答を聞いた原口さんは、怒り半分、呆れ半分といった表情をする。
「じゃろうの。助かると思ったなんて答えたら、知識不足で辞めてもらう所じゃ。まぁの・・・二町さんの草むらに移動するだけという判断が悪いとは言わん。むしろ、保護して人間が世話するという判断よりもよほど正しいかもしれん。わしもそっちの考えじゃ。ただの、晃宏君は小学校低学年じゃぁない。ちゃんと事実を説明すれは、理解できるし自分で考える事も出来るんじゃ。何よりもな、晃宏君は命を助けたいと言ったんじゃろ!?
晃宏君をだましてまで、二町さん自身の判断を押し通そうとしたんじゃ!
わしは何よりそこに腹が立つんじゃ!!」
「すっ・・・すいま・・・せん。」
すすり泣く二町さん。この最悪なムードの中にあの人がやっと帰ってきた。
「たっだいま~。険悪なムードの所、お邪魔して悪いわね~。原口さんちょっと言い過ぎ。だけどね、確かに悪いよ、二町さん。反省しなさい。」
観察パークレンジャー、渡中真里さんだ!それこそ、怪我した野鳥の保護・飼育は、レンジャー4人の中で一番得意としている。手には何やら、とっての付いた細長いバスケットを持っての帰宅だ。
「なんじゃ渡中さん・・・ドアの外で盗み聞きしよったんか?」
「まぁまぁいいじゃない。私はそもそも、原口さん、二町さんの2人とは考えが逆でしょぉ?話に混じるとさらにややこしくなると思って。ね~ね~!それで結局・・・晃宏君の判断は??そっち?こっち??」
「・・・そっちじゃ。気が合いそうでよかったな渡中さん。そういえば・・・もうすぐ来るぞスズメちゃんが。」
「お!それじゃこの子たちの餌と一緒に、もう1つ用意しとこうかしら?」
そう言って渡中さんが指差すバスケットの中からは、“チィ チィ”と小さな声が聞こえる。
―『らぁめんやマダ』前
「ふぅぅぅ~。」
僕はまた緊張しながらも無事に、幼鳥を、山田さんに貰ったダンボール箱の中に移し終えた。少し狭い空間に閉じ込めることになるが、我慢してもらうしかない。山田さん・・・またも僕より緊張したらしい。
「はあ゛~よかったぁ・・・。そういえば藤村君、下の名前は?」
「えと、晃宏です。」
「そ。俺、太郎。」
・・・またかい!この、スズメ移動→緊張する→名前聞くってこの流れ!んで名前太郎かい!山田太郎・・・おるんやな実際にこんなのが!僕はダンボールを前のカゴに乗せ、自転車にまたがる。まぁ名前はどうであれ、お世話になったのは事実だ。
「山田さん、ほんとありがとうございました。」
山田さんがいなかったらどうなっていた事やら・・・。
「おぅ!いいって事よ!お客おらんで暇だから。」
「ははは・・・。」
なんか・・・自然観察パークみたいだ。
「無事にまた・・・自然に戻れるとええな。」
「・・・そうですね。」
“自然を守ることと、全ての命を救うことは違う”
原口さんの話していたことが、頭を回る。僕の決断は、いい決断だったかはわからない。ただ、後々の事はどうであれ、今はこのスズメの命を助けたい。だから、自分らしい判断はできた。そう思う。
小さなスズメの幼鳥1羽の命を救うことにすら反対している!
「死んでくれ・・・って。それ・・・え??」
原口さんの事がわからなくなってきた。しかし、そんな事に関係なく、話は進む。
『言っとくが、わしが悪人な訳じゃぁないぞ。ちゃ~んとあのポスターにも書いてある。『野鳥のヒナを拾わないで下さい!』にはの、拾ってはいけない理由が、大きく2つ書いてあったんじゃ。』
「え?2つ・・・ですか?」
『まぁ2つ目は小さく下の方に書いてあるだけじゃからの。気づかんでもしかたない。1つ目の理由は晃宏君も知っとるように、飛ぶ練習をしている正常なヒナが、人間の勘違いで保護されてはいけないからじゃ。』
それはわかる。でも原口さんは、今回のスズメの幼鳥は怪我をしている可能性が高いと言った。・・・それって!
「2つ目の理由には・・・怪我したヒナをそのままにしとけって書いてあるってことですか?」
『まぁ・・・そんなとこかの。』
・・・信じられない話だ。
だって・・・おかしいと思う!元気なヒナを人間の勘違いで保護するのが間違っているのはわかる。でも、怪我したヒナを見捨てることに意味があるとは・・・
『ちゃんと意味があるんじゃ!』
僕の考えている事を見透かしたような原口さんの声は、強い口調ながらも、少し悲しそうに聞こえた。
『自然界ではの、“死”というものにもちゃんと意味がある。鳥たちは、すごい数の虫を食べ、その命を奪いながら生きとる。じゃがの、いつかは死んで、今度は逆にその虫たちの食料になるんじゃ。虫たちが絶滅することもなければ、すべてのヒナが成長できるわけじゃぁない。命を支えあうことで、自然界はバランスを保っとるんじゃ。自然を守ることと、全ての命を救うことは違う。晃宏君もそのことは知っとかんといかん。』
「・・・はい。」
よ~くわかった。あのスズメの幼鳥には気の毒だが、こんな事を言われては・・・犠牲になってもらわなければならない・・・かと思ったが、単純にそういう話でもなかった。
『ただの。保護するという選択肢もある。』
「・・・ありなんですか!?」
『おぉ。レンジャーの中にも、保護する派はおるし。治療して、また自然界に戻れるのならそれは悪いことではないしの。ただ・・・そう上手くいかん事も多い。人が育てた野鳥が自然で生きることは、そう簡単な事じゃぁないからの。・・・とまぁ長く喋ったがの!決めるのは晃宏君自身じゃ!好きに決めてくれ~。』
「は、はぁ・・・。」
原口さん・・・最初なんか機嫌よくなかったし、さっきまで結構重たい話してたのに。なんか最後、いきなり投げやりなったな!!
いやしかしこれ。考えたら、軽い気持ちで出来る決断じゃない。ピンク公衆電話の受話器を握る手に力がこもる。
僕の決断に、1つの命がかかってるんだ。
目の前の1つの命か・・・自然のバランスか。ここはゆっくり考えて・・・っと僕の肩を誰かの手が弱弱しくつつく。またも存在をすっかり忘れてた。山田さんだ。・・・あれ?さっきより真っ青で歯がガクガクして・・・そっか。
制限時間!!!
「ふ、藤村君。も、もう・・・ほんとに終わるぞ!」
・・・どうしよ。せかされると・・・なんかもう頭の中がぐちゃぐちゃだ!!
「原口さんはどっちの方が・・・」
『どっちが正解ということはない!!晃宏君が納得出来る方を選べばええ。』
・・・そうだ。決めるのは僕だ。
僕が決めないといけない!
確かにスズメ幼鳥の命は助けたい。でもその気持ちは本当に、自然界、さらにはスズメの幼鳥自身の事を考えての気持ちなのだろうか?もし無事に怪我が治ったとしても、原口さんの話だと、このスズメは自然の中で生きていけないかもしれない。そうなった時、あのスズメの為によかったと心から思えるのだろうか?!・・・よし。決めた!!!
「草むらに移動するだけに・・・」
“ビー!!!!”
通話時間がなくなることを知らせるブザーが僕の声をさえぎる。
・・・違うかもしれない。そうだ。さっき約束したじゃないか。
絶対助けるって!
「閉園時間過ぎると思いますけど、待っててもらえますか?スズメと一緒にすぐ行きます!!」
『よし!任せと・・・ツー ツー ツー・・・』
ゆっくりと受話器を戻す。
「ふぅ~~~ぎりぎり!!」
「よ、よかったぁ~。」
山田さんは、へなへなとその場に座りこむ。って、そんな場合じゃない!
「山田さん!立ってください!スズメをほったらかしにし過ぎですって!早く様子を見に行かないと!」
「おぉ・・・そうだった。」
急いで店の外へ出る。かなり長い間そばを離れていたけど・・・よかった!さっきの場所からほとんど動いておらず、やっぱり小さくうずくまっている。
「・・・お待たせ。」
―伊豆背自然観察パーク
「よし!任せとけ!この原口様の権限で開けといてやるぞ!・・・って電話切れとるじゃないか。」
受話器を置くと、原口さんは険しい表情に変わる。そばには、途中で受話器を取り上げられた浮かない表情の二町さん。
「おい・・・二町さん。さっき晃宏君に、草むらに移動させるだけでええ、それでスズメの幼鳥は助かるって言ったの。あれ・・・どういう事か?ほんとに、車道で動くこともできん状態の幼鳥が、草むらに移動しただけで助かると思ったんか?」
「・・・。」
二町さんは、うつむいて答えない。原口さんはもう一度聞く。
「助かると・・・思ったんか?」
「思わなかったです。」
返答を聞いた原口さんは、怒り半分、呆れ半分といった表情をする。
「じゃろうの。助かると思ったなんて答えたら、知識不足で辞めてもらう所じゃ。まぁの・・・二町さんの草むらに移動するだけという判断が悪いとは言わん。むしろ、保護して人間が世話するという判断よりもよほど正しいかもしれん。わしもそっちの考えじゃ。ただの、晃宏君は小学校低学年じゃぁない。ちゃんと事実を説明すれは、理解できるし自分で考える事も出来るんじゃ。何よりもな、晃宏君は命を助けたいと言ったんじゃろ!?
晃宏君をだましてまで、二町さん自身の判断を押し通そうとしたんじゃ!
わしは何よりそこに腹が立つんじゃ!!」
「すっ・・・すいま・・・せん。」
すすり泣く二町さん。この最悪なムードの中にあの人がやっと帰ってきた。
「たっだいま~。険悪なムードの所、お邪魔して悪いわね~。原口さんちょっと言い過ぎ。だけどね、確かに悪いよ、二町さん。反省しなさい。」
観察パークレンジャー、渡中真里さんだ!それこそ、怪我した野鳥の保護・飼育は、レンジャー4人の中で一番得意としている。手には何やら、とっての付いた細長いバスケットを持っての帰宅だ。
「なんじゃ渡中さん・・・ドアの外で盗み聞きしよったんか?」
「まぁまぁいいじゃない。私はそもそも、原口さん、二町さんの2人とは考えが逆でしょぉ?話に混じるとさらにややこしくなると思って。ね~ね~!それで結局・・・晃宏君の判断は??そっち?こっち??」
「・・・そっちじゃ。気が合いそうでよかったな渡中さん。そういえば・・・もうすぐ来るぞスズメちゃんが。」
「お!それじゃこの子たちの餌と一緒に、もう1つ用意しとこうかしら?」
そう言って渡中さんが指差すバスケットの中からは、“チィ チィ”と小さな声が聞こえる。
―『らぁめんやマダ』前
「ふぅぅぅ~。」
僕はまた緊張しながらも無事に、幼鳥を、山田さんに貰ったダンボール箱の中に移し終えた。少し狭い空間に閉じ込めることになるが、我慢してもらうしかない。山田さん・・・またも僕より緊張したらしい。
「はあ゛~よかったぁ・・・。そういえば藤村君、下の名前は?」
「えと、晃宏です。」
「そ。俺、太郎。」
・・・またかい!この、スズメ移動→緊張する→名前聞くってこの流れ!んで名前太郎かい!山田太郎・・・おるんやな実際にこんなのが!僕はダンボールを前のカゴに乗せ、自転車にまたがる。まぁ名前はどうであれ、お世話になったのは事実だ。
「山田さん、ほんとありがとうございました。」
山田さんがいなかったらどうなっていた事やら・・・。
「おぅ!いいって事よ!お客おらんで暇だから。」
「ははは・・・。」
なんか・・・自然観察パークみたいだ。
「無事にまた・・・自然に戻れるとええな。」
「・・・そうですね。」
“自然を守ることと、全ての命を救うことは違う”
原口さんの話していたことが、頭を回る。僕の決断は、いい決断だったかはわからない。ただ、後々の事はどうであれ、今はこのスズメの命を助けたい。だから、自分らしい判断はできた。そう思う。