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何かしらの標があるだけで、歩きやすさが違った。
歩みを遮られることもなく石畳に沿って歩いていくと、やがて僕たちは森を抜け、空を見た。いつの間にか太陽はわずかに中心から遠ざかり、差し込む日の光も心なしか弱くなっていた。それはどこかもの寂しく郷愁を誘う一方、まだまだ夜の遠さを主張していた。
視線を地面の上まで戻せば、蔦や苔に侵食された無人の住居がぽつぽつと並んでいた。
「普通に町……だな。このことをあっちの……旧世と懐古の町の人たちは知ってるのか?」
「どうであろうな? どう見ても住まれなくなって久しかろう。森にも人が入らない以上、忘れられていてもおかしくはないな」
チチッと小鳥が鳴いた音がして首を巡らせば、小さな黄色い鳥が町の一番奥にあるれた教会に入っていくのが見えた。僕たちはできるだけ静かにあとを追った。
教会の天井はほとんどが落ち、窓もただの壁に開いた穴になっていた。中には壁ごと崩れて、窓があったかすら分からない所もあった。当然のながら入口にもドアがなく、重厚なレリーフに縁取られた穴が、ぽっかりと道の先で口を開けているだけだった。
中に何があるか慎重に覗こうとしたところで、
「あら、今さらこんなところに誰が何の用?」
心臓が飛び出るぐらい驚いた。
それは濡れた夜空のように、しっとりと落ち着いた女性の声だった。
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