旧作の終盤、薮助治と機関科員12名はイスカンダルで造反劇の果てに絶命した。しかし、元々は全39話の頃にヤマトの航海に対する不安に苛まれた薮が愚痴り、やがて機関科員の不満分子化と艦内の混乱に至る騒動と収拾の過程での古代の成長こそが予定されていたことだった。視聴率の低迷と赤字とプロデューサーである西崎義展の会議主義による会議の連続による製作時間の足りなさが原因で最終的に企画段階で予定されていた全52話の半分の全26話に短縮され、もはや数話をかけての混乱を描く余裕は無くなり薮が愚痴っただけで終わるだろうと誰もが思ったが、企画段階で出るも没になった“真田佐助(初期の真田志郎)の叛乱”を知る出戻りスタッフの山本瑛一が薮の不穏当な発言を徳川彦左衛門による叛乱の伏線だと勘違いしてしまう。最終的に誤解は解けるが、問題の愚痴を薮自身の“叛意の兆候”にと彼にお鉢が回った。
リメイク版では往路の反乱の首謀者をオリキャラの伊東真也にして彼を改心後に死なせるが、残された薮をフラーケンに拾わせて重い使命から解放し別の人生を歩ませるという救済措置が取られた。ヤマト乗艦時は懐疑的で不安だらけだったのに「UX-01」では生き生きとしている気がする。人間の幸福は生きる場所を見つけることから始まると聞いたことがあるが、薮の居場所は“ヤーブ・スケルジ”として生きる「UX-01」だったということかな。
出戻りの山本暎一は途中参加で既に動いている松本キャラ達の名前にも馴染んでいないことで結果キャラの取り違えが生じてしまうが、薮が徳川彦左衛門に“イスカンダルに行っても間に合わないかもしれない”と訴える第14話「銀河の試練!!西暦2200年の発進!!」も“徳川を艦長に”という薮助治の幻の台詞があったという第17話「突撃!!バラノドン特攻隊」も脚本担当は山本ではなく藤川桂介である。藤川は前半の殆どのシナリオを担当しており、当然のことながら全体構想を確認する場にもいただろう。それなのに徳川の反乱への伏線ぽい言動を薮にさせるのは一体どういうことなのか?
真田佐助(初期プロットの真田志郎)の反乱のアイディアは企画段階で出るも途中で消滅したが、機関科員達の不満分子化はストーリープロットの中で明確に構想された。シナリオ途中参加の山本氏は徳川機関長が反乱の首謀者だと勘違いしていたが、第14話の藪と徳川のシーンを書いたのは当初から参加している藤川圭介である。短縮で消えてしまった機関部員達の不満分子化と、古代がそれを収拾して艦長代理として成長するという流れを書いたものだった。
企画段階の全52話から短縮した全39話予定のストーリープロットを見ると中盤で、遅々として進まない道程への焦りから機関員が不満を募らせ、それを古代達が苦労して纏め上げてゆくという流れがある。『ヤマト』は若者の成長の物語でもある。偉大なリーダーに感化されて自らリーダーとして立ち、苦難を乗り越えて成長する。従って当然若い古代が艦長代理になるわけだが、それで皆がすぐに付き従うわけではない。
ストーリープロット通り39話全部がちゃんと作られたら、沖田艦長には流石に何も言えない薮ら機関部員も若いリーダーである古代には面と向かって反発するという展開があった筈だった。藤川は徳川機関長に反乱を起こさせるつもりは皆無であり、ただストーリープロット案にある要素を活かすべく薮に喋らせた。よみうりテレビは当初の予定だった全39話から全26話に短縮したため、数話をかけて艦内不和を描く余裕は無くなるというのが第14話を書いている時点での藤川の認識だった。削除されてしまう要素を簡略化して盛り込んだつもりだったらしい。
いずれにせよ藤川は反乱の伏線として書いていたわけではないのだが、途中参加の山本はこれらのシーンを反乱の伏線と思い込み、後になって間違いに気づくも脚本を担当した第25話「イスカンダル!!滅びゆくか愛の星よ!!」でその思い違いを活かして短期決戦の反乱劇を薮にやらせた。