米トランプ大統領就任直後の2017年2月、マレーシアのクアラルンプール国際空港で死亡した金正男氏は日本でもよく知られた人物で、彼の暗殺事件は少なからず衝撃的であった。
彼が暗殺された背景などをみてみることに。
■マレーシアの国際空港で起きた「金正男(キム・ジョンナム) 暗殺事件」
この事件は2017年2月13日に起こったのであるが、実は2017年1月20日のドナルド・トランプの第45代アメリカ合衆国大統領就任とマイク・ペンスの第48代副大統領就任に際しての式典から僅か1か月足らずの出来事だった。
元々、金正男氏は中国と米国CIAが北朝鮮の軍事クーデター計画のため、彼とその家族を中国政府がマカオで特別警護をつけて常に保護下においていたとされる。
事件は、米国の政権交代で中国とCIAとの連携が乱れた隙をついて、北の工作員によって中国の目が届きにくいマレーシアで起き、正男氏は自宅のあるマカオへの帰途に着くための便に搭乗する直前に暗殺されるという事件であったようだ。
この事件には、正男氏の愛人で「事実上の第3夫人」と見られているソ・ヨンラン(実は北の対韓工作員であったそうだ)が事件に関与した可能性も指摘されてはいるが、男女4人の実行犯の内、唯一北朝鮮国籍でマレーシアの首都クアラルンプール在住の李・ジョンチョルがリーダー格とみられている。マレーシアの北朝鮮大使館は関与を否定。
「事実上の第三夫人」とされる女性は2001年、正男氏が別人名義の旅券で日本に入国しようとして成田空港で拘束された際もその姿が確認されており、韓国メディアの記事によると、韓国の情報機関は女性の名前を「ソ・ヨンラン」と確認。
彼女は1976年に平壌で生まれ。88年に朝鮮労働党第126連絡所の職員となり、当初、正男氏の警護をしながら動向を北朝鮮に報告する役割だったが、その後恋愛関係に発展し、情報当局者の話として「事実上、正男氏の第三夫人で、マカオに居住する第二夫人や子供たちの世話をする役割も担っていた」と紹介。
一部では、「ソ・ヨンラン氏は以前から平壌と連絡が取れなくなっていた」あるいは「正男氏暗殺計画を知りながら黙認・幇助した」という可能性も取り沙汰されている。
引用:
事件の数日前の2017年2月6日、金正男氏はマレーシアに到着し、8日にはリゾート地として知られるランカウイ島を訪れ、13日には自宅のあるマカオ行きのエアアジア便(午前10時50分発)に搭乗するため、クアラルンプール国際空港のLCC専用ターミナルの3階出発ホールを訪れ、自動チェックイン機の前に立っていたところを突然、実行犯の2人の女性から襲撃されている。
彼は猛毒の神経剤VX(注)を顔に塗られ、直ちに身体の異変に気付いたため、そのまま自ら歩いて空港内のメディカルクリニックに向かって治療を受けたものの、間も無く痙攣を起こして意識を失い、気管挿管が行われた。蘇生装置を顔に取り付けられた状態で担架に乗せられ、空港の関係者専用エリアを通して救急車に運ばれプトラジャヤ病院へ搬送される途中の救急車の中で死亡。
(注)VX
化学式: C11H26NO2PS の猛毒の神経剤の一種。サリンなどと同様、コリンエステラーゼ阻害剤として作用し、人類が作った化学物質の中で最も毒性の強い物質の一つといわれる。1994年のオウム真理教のテロ事件でも使われた。 致死量 大気中濃度 0.1 mg・min/m³。 LD50 15μg/kg 常温ではオイル状で無臭。揮発性が低く、持ち運びが容易とされる。
暗殺事件実行犯のリーダー格で北朝鮮人の李・ションチョルは自分がマレーシア警察に逮捕されれば、マレーシアで収監され命は助かると思っていため、マレーシアに残って逮捕されている。しかし釈放され国外追放となり、家族もろとも強制帰国となったため、恐らくは既に口封じのために北で粛清されたとの見方である。
■CIAとの繋がり
シンガポールで1回目の米朝会談が行われた2018年6月12日から約1年目に当たる今年の6月11日、米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)が関係筋の話として、金委員長の異母兄で2017年に暗殺された金正男氏がCIAの情報提供者だったと報道。
米朝会談後に金正恩氏と表向きは「友好関係」を維持しているトランプ大統領は、CIAが情報提供者を使って北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長に関する情報収集活動を行うことは「私の指揮下では起こらない」と述べ、否定的な考えを示したとロイターが報じた。
トランプ氏はこれまでも米情報機関の活動に否定的な認識を示しており、CIA側は大統領の発言について直接のコメントはしなかった。
元米情報当局者でブルッキングス研究所所属のジョン・パック氏は「CIAが金正男氏のような情報提供者を使えなくなれば、金正恩体制や、北朝鮮による地域や米国の安全保障への脅威を分析する際の重要な手掛かりが収集できなくなる」「大統領が理解すべきなのは、米国の安全維持のためにはCIAが情報収集・分析という任務を遂行できるようにする必要があるということだ。これが幅広い外交、軍事、経済の政策・構想を裏付けることになる」と述べている。
これは「ヒューミント(英: HUMINT、Human intelligence) 」といって、どの国も行っている諜報活動である。但し、ヒューミントには合法活動や捕虜の尋問等も含み、スパイ活動のみを指すわけではない、とある。
テロリストの家族などをウォーターボーディング(水責め尋問)などの拷問にかけることの是非が問題になっており、大統領選の公約でトランプ氏は「可」としており、つまり彼の中にはいろいろと矛盾が内在しているようだ。
引用:
北朝鮮は「カルト的狂信国家」として核保有国となることは断じて認められず、正恩が「共存できない人物」だと思われているのは、このような前近代的な未開性や、トップの短絡的な残忍性があるためですね。米国は裏切者の韓国にはもはや遠慮しなくてよいと考え始めているようですし、空爆による先制攻撃の可能性が高くなってきているようですね。
金正恩体制における実質的なナンバー2で、後見人でもあった叔父の張成沢は突然粛清されました。
今回帰国した叔父、金平一は、金正恩にとって安全だから呼び戻したということになっていますが、呼び戻す理由になるのでしょうか。
逆らわない者でも恐れを感じたら処刑してしまうのがこれまでのやりかたです。
金正男の場合を考えると、やはり、亡命政府樹立のリスクを取り除くためであって、粛清の可能性もあるような気がしてならないです。
平気で殺人する狂気の人物ですから。
過去の暗殺とは違って隠密でないのは金正恩に敵対する周囲に見せつけるためでしょうか。
それともピンポイントで確実に殺人できる能力や方法を示したかったのでしょうか。
とにかく金正男氏をかつぐ亡命政府樹立勢力は芽を潰されましたし、また、CIAの重要な情報源が排除されたということで
一石二鳥をねらったのですね。
金正男が北朝鮮の反対派に担ぎ出されるのを嫌って暗殺されたとの憶測もありましたが、金正男は否定していましたから、その暗殺理由には疑問もありました、
金正男はCIAへの情報提供者で、それを監視していた「第3夫人」の情報を基に口封じのために暗殺されたとすれば、たいへん実務的な暗殺計画であったということですね。
まさにスパイの世界ですが事実は小説よりも奇なりです。