<尊仏山荘を見回るミー君(アニマルプラネットより)>
丹沢:山猫“ミャ~”との交友録(7);FHが変な計算をしている
2012年3月某日
ここ暫く,FHが尊仏山荘に現れないので,私こと山猫ミーも少々心配していた.どうやらFHも,私同様に寄る年波に勝てずに身体のあちこちの調子が悪くなっているのかなと心配している.
そんなある日,たくさんのご常連より,15分ほど遅れて,尊仏山荘にご到着.
FHが小屋に入ってきたとき,我が輩は石油ストーブの前で,背中を丸めてウトウトしていたが,わざわざ身体の向きを変えて,FHを出迎えることもなかろうと,そのまま居眠りを続ける.
FHは,私の背中を撫でながら,
「やあ・・お前も元気そうだな・・」
と我が輩に声を掛ける.
我が輩はいちいち返事をするのも面倒なので,眼を瞑ったまま,FHの呼びかけを無視する.
その内に,FHは塔ノ岳に登ったら,お金が幾ら掛かるかを,仲間に対して,熱っぽく話し始める.私は内心で,
「そんな馬鹿馬鹿しい計算をして,何の得があるんだい・・・」
とFHに問いただしたくなる.でも,そんなこと言うのも面倒なので,そのまま無視する.その代わりに,まあ,皆さん,FHの馬鹿話にお付き合いしてやって下さい.
****************************
FHです.
私は,サラリーマンを卒業してから,随分と長い歳月が過ぎ去りましたが,未だにサラリーマン根性が抜けきっていないなと感じることがしばしばあります.そのひとつが,すぐに何でも計算したくなることです.
もちろん,今の私は,そりゃ~ぁ・・バリバリ働いていた頃に比較すれば収入もがたんと減っていますので,日々の生活は慎ましくなっています.でも,お陰様で,食うや食わずのビンボーという訳でもありません.まあ,平凡に暮らして居る限り,まあ,まあ,それなりの生活はできると言うことかな・・・・
それでも,ときどき,塔ノ岳に登る原価は幾らぐらい掛かっているのかなと気になります.そうなると,1回登頂当たり何んぼ費用が掛かっているかが気になって仕方がありません.でも,別に,ケチしようというわけではないんです.
…で,今回は塔ノ岳登頂の費用について,ゴッタクを言ってみたくなりました.
<塔ノ岳に幾ら費用が掛かっているか>
■塔ノ岳登山所要経費の校正要素
まず,塔ノ岳登山に必要な費用は,どんな要素によって校正されているんでしょうか.あまり厳密なことを言い出すと,面倒になりますので,ごく簡単に考えることにします.それに,今回はFHの自宅から塔ノ岳山頂を日帰りで往復するという条件にしましょう.
すると,塔ノ岳登頂費用(Ct)は,大雑把に言えば,
Ct=T+S+L+M (1)
で表されます.
ここで,
T=自宅からバス停大倉までの交通費
S=登山1回当たりの登山靴の費用
L=昼食代(山小屋における飲食費を含む)
M=その他の雑費
です.
■交通費:T
まず,第1項目の交通費を取り上げます.
私の場合,鎌倉の某所に自宅があります.プライバシィの問題がありますので,詳しくは掛けませんが,然るべき交通手段で自宅から大船へでます.そして,大船から東海道本線で小田原駅へ.そして小田原駅から小田急線の電車で渋沢へ,さらに渋沢から路線バスで登山口近くの大倉まで参ります.
片道費用は,合計1260円/回.したがって,往復で2520円/回掛かります.
なお,藤沢から小田急電鉄のフリー切符を使うと,藤沢から大倉までの費用が大幅に減って,往復で1660円で済みます.したがって,小田原経由よりも860円も得になります.
ただし,所要時間に大差が生じます.乗換駅での接続の善し悪しによって一概には言えませんが,少なくとも,往路では小田原経由の方が,優に30分以上時間が短縮されます.それに乗換が藤沢経由より1回少ないし,電車も空いています.
そんな理由から,心の中で「高いな,高いな,・・・」と思いながら,私は小田原経由で渋沢まで行っています.まあ,時間短縮のために特急券を買って特急列車に乗車するのと同じ感覚です.
■登山靴代:S
私は塔ノ岳を往復する場合,原則として価格20,000円軽登山靴を利用しています.
これまでの経験から,塔ノ岳を往復していると,およそ200回ではけなくなります.本当は150回程度で,靴底の凸凹が殆どすり減ってしまいますので,100回程度で履き替えた方が良いと思いますが,まあ,ここは大目に見て,1足の軽登山靴で200回登ると仮定しましょう.
すると,簡単に考えて,登山1回当たりの登山靴の費用(S)は,
S=登山靴費用/登攀可能回数
=20,000(円)/200(回)
=100(円/回)
ということになります.
■昼食代等:L
私の場合,非常食,昼食,飲み物を含めて,1回登山当たり約500円の買い物を致します.さらに,塔ノ岳山頂の尊仏山荘で300円也のお茶を飲みます.さらに下山後,150円程度の清涼飲料水を飲むのを楽しみにしています.
これらを合計すると,約1,000円/回ということになります.
■その他経費:M
その他経費には,デジカメ用乾電池,衣服の消耗代等々,数え上げるときりがなくなるので,上記の交通費,登山靴代および昼食代等を積み上げたときに出る端数をその他経費Mと言うことにしておきます.
■塔ノ岳登山1回当たり費用
以上の結果,塔ノ岳登頂1回当たり費用は以下の通りとなります.
すなわち,
Ct=T+S+L+M (1)
=2,520+100+1000+80
=3700(円/回)
です.
計算してみると,登山は実にお金が掛かる(あるいは掛からない)道楽だなと思います.もっとも,昼食代は家にいても必要なものですから,式(1)で計上するのはおかしいかもしれません.そこで,尊仏山荘のお茶代300円だけ残して,残りの昼食代は式(1)から削除します.すると,
Ct=3,700(円)-700(円)=3,000(円)
となります.
私が,ときどき,
「1回塔ノ岳を往復すると3,000円かかります・・・」
と周囲の人にこぼしているのは,こんな算出根拠からなんです.
<いろいろ考えてみよう>
■歩行距離1km当たりの費用
そこで,まず,登山道を1km歩くのに幾ら掛かっているか計算してみよう.
バス停大倉から塔ノ岳山頂までの歩行距離は公表7.0kmである(カシミールで測定すると6.5kmになるが).1回往復では7.0×2=14(km)である.
したがって,1km当たりの費用は,
Ct/km=3,000(円)/14(km)
=214(円/km)
となる.
「登山をしていると,1キロメートル歩く度に,214円掛かっているんだよ・・」
と思いながら歩くんですね.
■標高差1m当たりの費用
次に登攀高度1メートル当たりの費用を求めてみよう.
カシミールを使って大倉と塔ノ岳山頂の累積標高差を求めると1269mであることが分かる.
したがって,標高差1mを上下するのに必要な経費は,
Ct/m=3,000(円)/1,269(m)
=2.36(円/m)
となる.
「登山道を1メートル上り下りすると2.36円かかっているんだよ・・・」
と思いながら登るんですね.
■1歩当たりの費用
私が大倉から塔ノ岳を往復するのに必要な歩数は,平均で30,000歩である.
したがって,1歩辺りの費用は,
Ct=3,000(円)/30,000(歩)
=0.1(円/歩)
となる,
「登山道を10歩歩くと1円かかっているよ」
と思いながら登るんですね.
<こんな計算して何になる?>
■無駄の効用
さて,こんな他愛のない計算をして,一体,何になるんだと考えると,途端に馬鹿馬鹿しくなります.
「お前さん・・結局は,どうしようもないほど閑なんだよ・・・」
と,何時ものように,私の心の中に巣喰っているもう一人の私が,私をからかいます.
言われてみれば,その通りです.
でも,こういう他愛のないこと,無駄なことをあれこれしている間に,ヒョコンと素晴らしいアイデアが生まれたり,新しくやりたくなることがヒョコンと出てくるんです.
昔,昔,それこそ50年ほど前,私が多感な青年時代に読んだ本に“Use of Life”というのがありました.著者が誰だったか,また,この本に何が書いてあったか,その大半はとっくに忘れてしまいましたが,ひとつだけ覚えていることがあります.それは「無駄の効用」と言うことではなかったかと思います(あるいは私の記憶が間違っているかもしれませんが・・・).
何事も,一見無駄に思える物事の向こうに,価値のあるものがある.そんなことを考えながら,私はこんな馬鹿な計算をしているのかもしれません.
■ローテクニッチな生き様かな?
塔ノ岳を往復しながら,何となく考え事をしていることがあります.ときどき,そんな考え事をしている情景を,このブログで紹介したことがありますが,この年になって,私はときどき自分の生き様を振り返ることがあります.
良い悪いは別にして,私の生き様は,
*付加価値の少ない人生だ
*ローテク人生だ
パソコンぐらいは使うが,身辺,家の中にハイテクは何もない
*ニッチなことばかりやっている
の3項目に要約できるような気がします.
まあ,こんな生き様の善し悪しはともかく,哲学者然としたネコのミー君よ.私の真情が分かるかな.
*************************
山ネコミーです.
FHさんが,私のことを「哲学ネコ」と呼んでいるようですが,誉められているようで嬉しいです.
FHさんのご指摘を受けるまでもなく,私は,自分の年齢を意識したこともないし,自分の来し方行く末を考えたこともありません.
朝,目が覚めたら,すぐに自分が,今,一番やりたいことをするだけです.
厳冬期の寒い夜には,小屋番さんの寝床に潜り込んで寝ます.理由は暖かいからです.そして日中は,一番居心地の良いところで,昼寝をしながら過ごします.お腹が減ったら,キャットフードをもらいます.喉が渇いたら,バケツの中の水をピシャピシャと飲みます.
寒ければストーブの前で香箱を作って居眠りをします.
FHさんから見たら,私は実に達観した人生(ネコ生)を送っているように見えるんでしょうね.でも,そううらやましがる必要はありませんよ.
まあ,ときどきは私に会いに,塔ノ岳へ登ってきて下さい.
(おわり)
「丹沢の山旅」の前回の記事
http://blog.goo.ne.jp/flower-hill_2005/e/8aa4b1288e827be498044983abb89498
「丹沢の山旅」の次回の記事
http://blog.goo.ne.jp/flower-hill_2005/e/5bbe1f2489c5f3b1f67fcd90c600b0f9
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